第39話 グッピーちゃんでござる
文字数 2,753文字
大阪でのサミットを終えたゼウス一行は、難波から関空まで行く道中の電車内でリンゼイ老師が殺されたとの情報を得た。
結局、グリゴリオス局長は、ゼウスにメールで連絡していたのである。
「ゼウス様、どうされますか?」
同行していた、戦闘部隊の隊長であるアキレスが、たずねた。
アキレスは背が高く、筋肉質で屈強な身体をしており、6名の戦闘部隊を引き連れている。
「そうじゃな。ワシはギリシャに帰らねばならんので、お前は戦闘部隊と大阪に残って、リンゼイ老師を殺した者を始末するのじゃ」
ゼウスは面倒くさそうな顔をしながら指示を出す。
「承知いたしました。ゼウス様」
というわけで、アキレスは部下を連れて、大阪に残る事となった。
「左近君が戻ったって聞いたんだけど」
大阪DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎に、桜田刑事がやって来た。
「それが……」
言葉を、にごす鬼一。
「このお姉さん、誰?」
桜田刑事の声を聞いて、左近が玄関まで出て来た。
「だれって、君こそ誰なの?」
「僕、左近。よろしくね」
ーーこの子が左近君?まさか。どう見ても小学生にしか見えないけどーー
桜田刑事が、とまどっていると
「本当に、この子が左近なんだ」
言いにくそうに、鬼一が説明し始めた。
「京都の芹沢さんに治療してもらったら、こうなってしまったんだ」
奥から岩法師もやって来た。
「拙僧も、初めは驚いたんだが」
「そっ、そうなんだ。そう言われてみれば、面影があるような、なんだか可愛くなったわね。そうだ、狂四郎君たちは?」
「狂四郎は虎之助と小太郎と3人で冥界に、うっ……」
話している途中で、鬼一は岩法師に口を塞がれてしまった。
「あいつらは、3人で出かけている」
狂四郎が冥界に落ちたと聞いたら、桜田刑事はショックを受けるだろうと思い、岩法師は適当に誤魔化した。
「そうなの、残念ね」
「それで、このお姉さんは誰なの?」
「すまん左近、紹介がまだだったな。この人は大阪府警の刑事で桜田さんだ。我われDSPの担当だから覚えておくんだぞ」
「わかった、岩法師のおじちゃん。こんにちは桜田刑事、僕は左近」
と、元気よく挨拶をする。
「こんにちは左近君。もしかして、今までの記憶も無いの?」
「そうなんだ、DSPのことは何も覚えていない。昨日ある程度は説明したが、現場に復帰するのは、とてもじゃないが無理だな」
鬼一は、困った顔をしている。
「そうねえ」
残念がる桜田刑事。
「拙僧と鬼一殿で、武術の稽古をつけて行こうと話していたところだ」
「こんな小さな子に大丈夫なの?」
「お姉さん、心配しなくても大丈夫だよ。僕は日本一の剣士になるんだ」
左近は自信ありげである。
「そうなの、がんばってね」
「僕、がんばる」
左近は明るく大きな声で返事をした。
大阪鬼連合団体では、定例カンファレンスが行われていた。
「今日は久しぶりに良いニュースがあります」
議長は、いつも通り鬼塚である。
「どんなニュースですか?」
中年の男が聞く。
「我われとDSPが休戦協定を結んでいる間に、DSPの小娘が『国際電器保安協会』の三神の一人であるブラフマーを殺ってくれました」
「それは、確かに良いニュースですが。なんかDSPに助けてもらっているみたいで、我らの存在が薄くないですか?」
「情けないぞ。俺たちは鬼武者だろ!」
「このカス鬼!」
「死ねば良いのに」
「ハゲ!」
いろんなヤジが、鬼塚にとんで来た。
「うるさいなぁ。なに言うてんのや!そんなん言うんやったら、お前らが残りの『国際電器保安協会』の奴らを殺ってこいや!」
鬼塚がキレた。
「いや、実は昨日、ジョギング中に足をくじきまして」
「私はイボ痔が悪化して無理です」
「僕は水虫があるので、絶対にダメです」
「私はスマホ依存症なので、そんな無駄な時間はありません」
と、みんな、それぞれ驚くほど低レベルな言い訳を始めた。
「お前らは、ホンマに使えんなぁ。まあ、そんな事だろうと思って、日本テクロノジーコーポレーションで戦闘用アンドロイドを開発したんや。川島、連れて来たって」
鬼塚に指示され、川島が一人の女性を連れて来た。
背が高めでスタイルの良い、二十歳前後の美しい女性である。
「みなさん。これが以前、京都から助っ人に来ていたアンドロイドのチャッピー君の技術を元に、我が日本テクロノジーコーポレーションが開発した『グッピーちゃん』です」
「私、グッピーちゃん。よろしくね」
グッピーちゃんは、みんなに挨拶する。
「べっぴんさんですね。どのぐらい強いのですか?」
中年の男性が質問した。
「グッピーちゃんの戦闘力は、チャッピー君の約70%です」
川島が答える。
「下がってますやん!」
「ご安心ください。戦闘力が下がった分、再生能力が80%上がっております」
「全体的には、微妙なところですなぁ」
カンファレンス参加者たちの反応は薄い。
「大丈夫ですよぉ。私は無敵超人ですからぁ」
自信ありげにグッピーちゃんがアピールするが、戦闘に関しては、皆んなあまり期待していない様子である。
「あのぉ、服を着ていないグッピーちゃんも見たいのですが」
唐突に、若い男が質問して来た。
「なんで、そんなモン見せなアカンねん。この助平が」
鬼塚は、ウザそうに答える。
「いえ。決して助平な気持ちでは無く、綺麗なグッピーちゃんを見ていると本能的に裸が見たいなぁ、と思いまして」
「それを、世間では助平やって言うんや」
「いや、議長は誤解されています。僕は純粋な気持ちで、グッピーちゃんの裸を見て、一人の男として興奮したいだけなんです」
「助平そのままやないかい!!」
鬼塚がキレた。
「では、下着姿だけでも見せて下さい」
「ダメに決まってるやろ。しつこいぞ、このド助平が!」
「このド助平がぁ!」
グッピーちゃんもキレれた。
「ほら、グッピーちゃんも助平って言ってるやろ」
鬼塚は勝ち誇っている。
「まあ、議長。助平議論は、そのへんにしといて、今後の作戦を話し合いましょう」
川島は、アホな会話を止めさせて会議を進めようとする。
「あっ、そうやった。今後の『国際電器保安協会』との戦い方やけど、グッピーちゃんがSNSを始めるので見て下さい。以上」
「えっ、それだけですか?」
驚いた川島が尋ねる。
「そうやで。グッピーちゃんのSNSを皆んな、チェックするんや」
「そんなんで良いんですか?」
「良いねんで」
「みんな、私のSNSを見て応援してねぇ」
グッピーちゃんは笑顔である。
「応援は、しますけど。それだけで良いんですか?」
川島は不安になって来た。
「良いねん。お前らは、なんにも心配せんで良いねんで」
鬼塚の言葉で、川島は余計に不安になって来た。
という事で、大阪鬼連合団体からの指示は、グッピーちゃんのSNSをチェックする事になった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)