第13話 左近の退院
文字数 4,414文字
警察病院では、左近が退院するところであった。
「やっと退院か」
病院前のロータリーまで行くと、安倍顧問が車で迎えに来てくれていた。
「いつもすいません」
車に乗り込みながら礼を言う。
「傷は、もう良いのか?」
「はい、もう大丈夫です」
「何度目の入院だ?」
安倍顧問が、たずねる。
「えっ、たぶん5回目ぐらいだと」
「お前も、わかっていると思うが、最近は出現する鬼が強くなって来ている」
「そのようですね」
「もう、お前の剣だけでは、この先の戦いは厳しくなるだろう」
左近は、だまっている。
「これからは、岩法師の法力や、虎之助の忍術のような特殊能力が必要となって来る」
まだ、左近は黙っている。
「いいかげんに観念して、俺の陰陽道を学べ。お前なら誰よりも強くなれる」
「でも、俺には剣が」
「わかっている、お前は武士の出だ。だが、そのせいで余計なプライドも持ってしまっている」
左近は、また黙った。
「そんな物は捨てろ。俺も陰陽師としてのプライドは、とっくに捨てている」
「安倍顧問が?」
「そうだ。安倍一族は、血統ではなく実力で任務が決まる。一番才能がある奴が京都府警、二番目が警視庁の顧問となる」
「では、大阪府警にいるアンタは?」
「俺は安倍一族に産まれ、当初は秀才と持てはやされていた」
左近は、だまって聞いている。
「だが、後で産まれて来た弟2人が天才であったため、すぐに陰陽師として弟たちに抜かれてしまった。今は次男が京都、三男が東京へと任務に就いている。
俺も任務に就いた当初は、弟たちに対しての意地があり、陰陽道で見かえそうとしたが、陰陽道にこだわり過ぎて任務に失敗し、一般市民に犠牲者を出してしまった。
以来、俺は陰陽師としてのプライドを捨て、銃でも何でも使える物は使うようになった」
ーーそうだったのか。今までエリートだと思っていたのだが、人には色んな事情があるものだ。俺も剣に対するプライドにこだわっていては、この先、一般市民を守って行くことが難しくなるかもしれないーー
「お前には、人並みはずれた忍耐力と集中力がある。俺が指導すれば、弟よりも優秀な陰陽師になれるやもしれん。しかし、その為には武士としてのプライドを捨てなければならない。だが逆に、そうしなければ忍者や僧侶に武で負けることになる」
「わかりました、俺に陰陽道を教えて下さい、誰よりも強くなってみせます」
左近は安倍顧問に、深ぶかと頭を下げるのであった。
安倍顧問と左近が熱く語っている同時刻に、遥か遠く離れた場所では、それ以上に熱い漢がいた。
鬼ロボに火星まで吹っ飛ばされた銅鬼は、タコ型の火星人のタコ太郎と友達になっていた。
タコ太郎の話では、火星は『山田タコ14世』と呼ばれる独裁者が圧政を布いており、火星人たちは苦しんでいるという。
土地は痩せており、作物は不作が続いているが、税は高く農民の生活は貧しい。
さらに税の取り立ては厳しく、払えない者は火星王家親衛隊に逮捕され、酢ダコにされて『山田タコ14世』の朝食にされるらしい。
「『山田タコ14世』か、とんでもない外道だ。許せぬ!」
銅鬼は、その生涯を掛け『山田タコ14世』を倒すことを決意するのであった。
翌朝、DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、いつものように転生者たちが朝食をとっていた。
「また、この薄っぺらいトーストでござるか」
朝食のトーストと目玉焼きを食べながら、虎之助が不満をもらした。
「関西では5枚切りが主流だが、DSPは予算の関係で6枚切りだ」
岩法師が、事情を説明している。
「関西ではって、他の所は違うのでござるか?」
「全国的には、一斤6枚切りが一般的だな」
「DSPは、金が無いねんなぁ」
小太郎は、目玉焼きを食べながら、つぶやいた。
「今日は、なぜか人数が少ないでござるな」
今朝の宿舎は、虎之助と小太郎・岩法師の3人しかいない。
「狂四郎は、お前に殴られて入院中で、左近は安倍顧問と奈良で修行中だ」
「左近は修行でござるか。拙者も修行中は、辛かったでござる」
「姉さんの修行って、やっぱり厳しかったんでっか?」
「厳しかったでござるが、拙者は5万年に一人の逸材と言われていたので、なんとか免許皆伝できたでござる」
「5万年って!もしかして、その中にはネアンデルタール人も含まれてるんでっか?」
「含まれているでござる」
「さすが、姉さんは、人類史上でも規格外の強さでんな。それはそうと、左近さんの安倍顧問との修行って、もしかして陰陽師の修行してはるのかなぁ?」
「さあ、拙僧は、くわしくは知らんが。しかし、DSPが手薄な時に限って、いつも鬼どもが暴れだすからのう」
「規格外の拙者がいるから、大丈夫でござる」
虎之助は平然と、トーストを食べている。
バタン!
扉が激しく開く音とともに、桜田刑事が駆け込んで来た。
「みんな、任務よ。鬼が出たわ!」
「なんと!」
岩法師は、自分の悪い予感が当たって驚いた。
「みんな、早く車に乗って!」
「鬼は、ドコに出たんでっか?」
「阿倍野よ」
阿倍野区の街中で、10人ほどの鬼が人々を襲っている。
到着した虎之助たちは鬼を見つけると、すぐに駆け寄り乱戦となったが、それほど強い鬼は居ないようである。
しかし、鬼の一人が異様なエネルギーを出している事を、虎之助は感知した。
鬼ロボである。
「あの、真ん中にいる鬼は普通の鬼と違うでござる。危険なので、小太郎は近づかない方が良いでござる」
と、虎之助は小太郎に忠告した。
「わかった、姉さん。俺に任しといてや、ブチ殺して来ますさかいに」
小太郎は、逆に鬼ロボ目掛けて走り出して行く。
「小太郎!そっちに行ったらダメでござる」
虎之助が止めるが、小太郎は、そのまま突っ込んで行った
鬼ロボの方でも、虎之助に気付いており、コチラに向かって来ている。
ーーアレが、鬼塚たちが言っていた小娘ダナーー
「死ねや!」
小太郎が鬼ロボに斬りかかった。
「じゃまだ、クソざこ」
鬼ロボは、刀ごと小太郎を振り払った。
「うへ〜」
小太郎は吹っ飛んで、近くのコンビニの中に突っ込んで行く。
鬼ロボは、そのまま虎之助に向かう。
「お前が、みんなが言っていた小娘カ。思っていたより弱ソウダナ」
虎之助の刀が鬼ロボの首を切った。
ガキッ!
はずであったが、鬼ロボの首は鋼鉄製であり、刀の方が折れた。
「ソンナ刀など、俺には通用シナイ」
鬼ロボは、素早く虎之助の胴体を持ち、天高く放り投げた。
「これは火星マデ、行ったナ」
鬼ロボは、勝利を確信した。
「お主、ただの鬼じゃないでござるね」
火星まで投げたはずの虎之助が、なぜか目の前にいる。
「なぜだ!お前は、さっき投げたハズダ!」
「お主が投げたのは、お主の仲間の鬼でござる『代わり身の術』でござる」
「今度コソ、飛んで行け」
鬼ロボは、ふたたび虎之助を天高く放り投げた。
「今度こそ、ヤッタぞ」
鬼ロボが、ふたたび勝利を確信するが、またもや目の前に虎之助がいる。
「また、仲間を投げたでござるね」
「オノレ、こうなったら全員、投げてヤル」
ブチ切れた鬼ロボは、手当たりしだい、まわりに居る者を放り投げ始めた。
「これはマズい」
岩法師は法力で姿を隠すと、退避して行く。
気が付くと、鬼ロボは仲間の鬼を全員投げてしまっていた。
「誰もいなくナッタ、あとは、お前だけダ、もう『代わり身の術』は使えんゾ」
「使う必要ないでござる。今度は拙者から行くでござる」
虎之助は、鬼ロボめがけて突進した。
ーーバカな小娘だ、俺ニハ、奥の手てがアルーー
鬼ロボには加速装置が付いており、数秒間だけであるが、凄まじく早く動くことができる。
加速装置を起動させると、今まで見えなかった虎之助のすばやい動きが、スローモーションのようにハッキリと見える。
鬼ロボは慎重に虎之助のウエストをつかむと、おもいっきり上空に放り投げた。
「やっと飛んで行ッタカ」
鬼ロボは、今度こそ勝利を確信した。
「拙者は、ここでござる」
またしても、目の前に小娘がいる。
なぜだ。鬼ロボが自分が投げた物を、望遠レンズで見て確認してみると、虎之助の服を着た丸太であった。
「丸太ナンテ、ドコにあったノダ?」
不思議がっている鬼ロボに。
「唐沢家忍術、雷遁の術」
虎之助が、鬼ロボのヘソに掌底を打ち込みながら、術を使った。
数百万ボルトの電流が鬼ロボの体内に流れ、すべての電子回路を焼き切って行く。
「プシュー」
と、言いながら鬼ロボは前のめりに倒れ込み、機能を停止した。
「さすが姉さん。見事に鬼どもを倒しはりましたね」
鬼ロボを倒した直後、ふっ飛ばされていた小太郎が、コンビニで買ったアイスを食べながら戻って来た。
「でも服が、もったいなかったでござる」
虎之助は、代わり身の術を使った際に服を脱いでしまっており、下着とスニーカーという格好である。
「ほんまや、姉さん下着だけですやん。でも、姉さん良く食べるわりには細いでんなぁ」
「拙者は、ダイエット中でござる」
「そんなん、やってましたっけ?好きなだけ食べてるように見えまっけど。しかし、姉さんは、あいかわらず強いでんな」
「拙者の強さは、チンパンジーの赤ちゃんも裸足で逃げ出すほどでござる」
「さすが姉さん、上手いこと言いはるわ」
2人はゲラゲラと笑い出した。
「なにが可笑しいのか全然わからないけど、いつまでも、そんな格好してないで、とりあえず、これを着てなさい」
桜田刑事が怒りながら、車に積んであった自分のジャンバーを虎之助に渡す。
「かたじけないでござる」
虎之助は、桜田刑事のジャンバーを羽織るが、サイズが少し大きいようだ。
「桜田は太っているから、仕方ないでござるね」
「なんですって!もう一度言ってみなさい。一週間グランドの草むしりに、夕食抜きの厳罰にするわよ」
「あわわっ!桜田は恐いでござる」
岩法師は倒れた鬼ロボを観察していたが、何かに気付いた。
「桜田刑事、こいつはロボットだ」
怒っていた桜田刑事も、さすがに驚いた。
「ロボットですって?」
岩法師が指をさしている場所を見ると、鬼ロボの頭部が割れて機械の頭脳が見える。
「鬼に、こんな技術力があったなんて。とにかく、署の鑑識に連絡しておくわ」
「やはりこいつは、電気式のカラクリ人形だったでござるね。どうりで心臓音の替わりに、機械音が聞こえてたでござる」
「ゴッツいパワーやと思っとったら、ロボットやったんか」
4人が倒れた鬼ロボを観察していると、数人の警官がやって来た。
「あとは彼らに任せて、いったん帰るわよ」
警官たちに引き継ぎをすると、桜田刑事はメンバーに撤収を伝える。
「拙者は、あべのハルカスで服を買ってから帰るでござる」
「ダメよ、そんな格好で街中を歩いたら」
「そうですよ姉さん、下着にジャンバーじゃ、ちょっと、まずいと思いまっせ」
「しかたない、お気に入りの服だったでござるが」
虎之助は残念そうに、つぶやいた。
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