第139話 西王母チョップ
文字数 2,105文字
「さあ、これで1対3になったから、存分に殺し合いなさい」
加藤と武蔵に向かって、西王母が言った。
「はぁ。まあ、そうですね」
加藤は、帰って行くフレイム豚の助を見ながら返事をするが、第三者から殺し合えと言われると、戦闘意欲が薄れて来た。
「なんか、やりにくいな」
羅刹も気まずそうにしている。
そんな変な空気になっていると
「おーい」
と言いながら、燕鬼がコチラに向かって走って来た。
「燕鬼じゃないか。お前、無事だったのか?」
「ああ。なんとか、あの猫の魔人から逃げて来た。太陽に連れて行かれたら焼け死んでしまうからな」
「そうか、では2人でDSPの連中をブッ殺すか」
「いや、俺はもういいわ。猫の魔人と戦ってみて、戦いの虚しさを痛烈に感じた。争いごとは辞めて、田舎の岡山に帰るよ」
「えっ、帰っちゃうの?」
驚く羅刹。
「帰るよ」
燕鬼は、あっさりと返答する。
「じゃ、俺も帰ろうかな」
羅刹も気持ちがブレ始めて来た。
「お前は残れよ。2人とも帰ったら、士会鬼様に殺されるぞ」
「いや。一人で戻っても士会鬼様に、どやされるだろう。ここは2人とも岡山に帰ろう」
「だから、それは危ないって」
「いや、しかし君」
などと、2人が悩んでいると
「なにをグダグダ言ってるの。アンタら鬼神のクセに情けないわね」
西王母にバカにされてしまった。
「お前は士会鬼様の恐ろしさを知らないから、そんな事が言えるんだ」
羅刹が言い返す。
「士会鬼って、そんなに怖いの?」
「士会鬼様は、全て鬼の始祖であり、我らが束になっても敵わない恐ろしいお方なんだぞ」
燕鬼が、士会鬼の恐ろしさを説明する。
「そんなの、ここに居るDSPの連中が片付けてくれるわ」
西王母は、加藤を見ながら言った。
「えっ、我々が?」
驚いて加藤が聞きなおす。
「そうよ、アンタたちは鬼をやっつけるのが仕事でしょう」
「まあ、そう言われれば、そうなんですが」
確かにDSPは、対鬼の専門機関である。
「こののアホの加藤と宮本武蔵と、あそこでお菓子を食べている闇の西王母がいれば、士会鬼なんて、簡単に殺せるわよ」
虎之助を指さしながら説明する西王母。
「無理だな。加藤と武蔵は、京都DSP時代の頃から知ってるが、士会鬼様に比べるとクソ虫レベルだ」
羅刹は、吐き捨てるように言った。
「おい、クソ虫は言い過ぎだろ、バカ鬼神」
クソ虫と言われて加藤が怒った。
「クソ虫じゃなければ、お前らは鼻クソ虫だ」
「なんだと、この水虫野郎」
加藤と羅刹が低レベルな言い合いを始めた。
「ちょっと、止めなさいよ。アンタたちは、お互いに薄汚いウジ虫同士なんだから、仲良くしなさい」
西王母が止めに入った。
「アンタが一番、酷いこと言ってるぞ」
「そうですよ、西王母様は口が悪すぎます」
だが、逆に口の悪さを、羅刹と加藤に注意されてしまった。
「うるさいわね。この負け犬どもが」
注意されても、西王母の毒舌は変わらない
「なんだと。口が過ぎるぞこの娘」
羅刹と燕鬼は、キレそうになっている。
ボコッ
その時、地面から泥まみれの男が這い出てきた。小太郎である。
「アンタらの話は、地中から全部聞かせてもらったで。その士会鬼っていう奴は俺らに任せて、君ら2人は田舎に帰りなはれ」
小太郎は、偉そうな口調で、2人の鬼神に帰ることを勧めてきた。
「お前らじゃ、とても無理だ。っていうか、どこから出て来てんだ」
羅刹と燕鬼は、士会鬼がとてもDSPの手に負える相手ではないことを理解している。
いきなり地中から出て来た若造に、どうこう出来るはずがない。
「まあまあ、そう言わんと。俺らに任せときなはれ」
なぜか小太郎は、自信があるようだ。
「そこまで言うなら、岡山に帰るけど。お前たちが、士会鬼様をなんとかするのを見届けてからだ」
羅刹は慎重である。よほど士会鬼が恐ろしいのであろう。
「任せといて。ちゃっちゃっと殺って来ますさかいに。なあ、姉さん」
と、小太郎は西王母の肩を軽くたたいた。
「おい、小太郎。その方は虎之助じゃなくて西王母様だぞ」
小太郎が、西王母を虎之助と間違えたので、加藤が注意する。
「こりゃ、すんまへん。地中から聞いてましたが、アンタが西王母はんでっか。ホンマに姉さんソックリでんなぁ」
「言っとくけど、私がオリジナルで、あの娘が偽物なのよ」
「まあ、そないな事どっちでも良いでんがな。じゃ、行きましょか姉さん」
小太郎は、西王母の手を引っ張って連れて行こうとする。
「だから、私は西王母の方だって」
「わかってまんがな。細かい事は抜きにして、とりあえず宿舎に帰りまひょう。泥だらけになったんで、早くお風呂に入りたいんですわ」
またしても、西王母の手を引っ張って行く小太郎。
「私は西王母だって言ってんだろ!このイカ野郎」
ドガッ!
怒った西王母が、小太郎の脳天にチョップをブチ込む。
ズブズブズブ
西王母の怒りのチョップは、数百年に一度の快心の一撃であった。
小太郎は、またしても地中深くまでめり込んで行く。
「小太郎〜、大丈夫でござるか?」
心配した虎之助が、穴に向かって呼びかけるが
「地球の中心部はムッチャ熱いですわ〜。助けて下さい〜」
大丈夫では無かった。
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