第107話 ラスプーチンの裏切り
文字数 2,390文字
「今日の朝食は、食パンかぁ」
すっかりDSPの宿舎に馴染んでいるボルデ本山が、当たり前のように食堂で朝食を食べている。
「おい、虎之助。お前の友達は、いつまで宿舎に居るんだ。もうそろそろ帰ってもらえ」
「でも、あのオッサンはスマホから『ニャン平太』を出してくれるでござる」
などと、岩法師と虎之助が話していると
「本山はん、また魔法を見してえや」
小太郎はボルデ本山に懐いており、魔法でいろんな物を出してもらって楽しんでいる。
ーー小太郎が、こんなに懐いているのならしょうがない。もう少し様子をみるかーー
岩法師は、しばらくボルデ本山が宿舎に留まる事を、容認するのであった。
その頃、ロシアでは、川島がやっと鬼塚を見つけたところであった
「社長、何してるんですか、早く大阪に帰りましょう」
川島が、鬼塚の携帯のGPSを頼りに、やって来たのはモスクワの病院である。
「まだ、ポリヤコフが回復してないんや」
鬼塚は、病院でポリヤコフと、その看病をしているロシアン美女を見守っていた。
「ポリヤコフが重症なんですね。あの女性は誰ですか」
「DSPの小娘が召喚したんやが、なぜかポリヤコフと仲良くなってるんや」
元モットープールであるロシアン美女が、ベッドの横にある椅子に座って、心配そうにポリヤコフを見つめている。
「もう入院してるんだから、ポリヤコフのことは病院と彼女に任せて、我われは帰りましょう」
ーーこんな殺伐とした病院は早く出て、社長を大阪に連れて帰らないとーー
「それが、そうもいかんねん。ラスプーチンの野郎がポリヤコフに殺し屋を差し向けて来るんや」
「ラスプーチンが、なぜですか?」
「奴はチェルノボーグを倒した手柄を独り占めして、政府の要職に就いたんやけど、実際に倒したのはラスプーチンではなく、DSPの小娘である事を知っているポリヤコフと俺を、口封じのために消そうとしてるんや」
「アイツは、本当にゲスですね」
「だから、俺が大阪に帰ってしまうと、ポリヤコフを守る者が居なくなるんや」
「そういえば、廊下に死体がありましたけど、誰が殺ったのですか」
「俺や。死体は放っておいたら勝手にラスプーチンの息のかかった職員が片付けよる。もう、10人以上は返り討ちしたったで」
ーーくわしい事は良くわからないが、頼りなかった社長が少し男らしく見える様になっていたーー
「ところで、DSPの小娘とボルデ本山は、どこに行ったんですか?」
「その2人なら、ラスプーチンが『ロシア門』で大阪に送り返したで」
「なるほど。では、現在ラスプーチンに狙われているのは、ポリヤコフと社長の2人という事ですね」
「そうやな」
「わかりました、私がラスプーチンを始末して来ます」
「無理やで、奴は今や国家戦略室の室長や、俺らでは手出しできん」
「そんなの、どうって事ないですよ。アイツは不死身なんで壺か何かに封じ込めて来ます」
ーー社長にしては、珍しく男気を出しているようだ。私もラスプーチンの始末ぐらいはしなくてはーー
そう決意した川島は、一人でラスプーチンの元へと向かって行った。
崑崙にある寺院の広間では、加藤と西王母が、パーカーの帰りを待っていた。
なぜかというと、西王母が加藤と話している途中に
「お腹が減ったでござる、タコ焼きが食べたいでござる」
と、ゴネ出したので、パーカーが買いに行かされたからである。
パーカーが居ない間、西王母はスマホで楽しそうにゲームをしている。
ーーこの女、本当に西王母なのか?『ござる』と言ったり、タコ焼きが食べたいとゴネたり、なぜか言動が虎之助とカブるのだがーー
不信感が、つのっている加藤であった。
しばらくすると
「買って参りました西王母様」
パーカーがタコ焼きを持って帰って来た。
「わーい、タコ焼きでござる。拙者が一人で食べるでござる」
西王母はパーカーから、ひったくるようにタコ焼きを取ると、ムシャムシャと食べ始めた。
「あの、西王母さん。そろそろ話の続きを聞きたいのですけど」
遠慮しながらも加藤は言ってみた。
しかし、西王母は食べるのに夢中のようで、加藤に見向きもしない。
しばらくして、タコ焼きを完食した西王母は、急に姿勢を正すと
「実は、白鬼という鬼神が私を真似て、あの娘を造り出したのです。伊賀の唐沢家とは、白鬼が闇の西王母を造るために準備した家系なのです」
と、加藤に語りだした。
「それは良いのですが、西王母さん。口のまわりに、さっき食べたタコ焼きのソースと青ノリが付いてますよ」
どうしても気になったので、加藤は注意した。
「なにを言ってるのですか、私は西王母ですよ、タコ焼きのような庶民の食べ物なんか食べません。高級フランス料理以外は口にした事もないです」
きっぱりと、しらをきる西王母。
「でも、さっき確かにタコ焼きを食べてましたよ」
「そんのもの食べません、変な事を言うのは止めて下さい。私はセレブですよ」
あくまでも、しらをきる西王母。
「いや、食べてました」
「食べてません!」
西王母がキレた。
「お前を殺すでござる」
西王母は加藤の首を締め上げる。
「ううっ、苦しい」
苦しむ加藤。
「ダメですよ西王母様」
2人の様子を見て、パーカーが慌てて止めに入った。
「離すでござるパーカ、コイツの息の根を止めるでござる」
「いけません西王母様、こんなカス人間でも殺してはダメです。夕食にお寿司を取ってあげますから」
「お寿司ですか。では、このカス人間を殺すのは、止めておきましょう」
お寿司と聞いて、西王母は加藤の首から手を離した。
「大丈夫か?」
パーカーが加藤に聞いた。
「ああ、俺は大丈夫だが、本当にこの人、西王母か?言動も虎之助にそっくりなんだが?」
加藤は首をさすりながら尋ねる。
「仕方ないのだ、西王母様と闇の西王母は表裏一体であり、お互いに影響し合ってしまうのだ」
パーカーは、苦い顔をしながら言った。
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