第70話 川島とゼウス
文字数 2,769文字
日本テクロノジーコーポレーションの社長室では、鬼塚がアイコスを吸いながら考え事をしていた。
ーーレムリアの屋敷で、国際電器保安協会の奴らを撃退したのは良いんやが、川島があんなに強かったとは知らんかった、大阪の鬼の頂点に立つ俺の立場が無いやんけ。川島のやつ、電車に轢かれて即死せえへんかなぁ、それか、痴漢とかで逮捕されて、終身刑になれば良いのにーー
と、川島に対して醜い嫉妬をしいると
ガチャ
いきなりドアが開いて、川島が入って来た。
「社長、大変です!」
「なんや?お前、痴漢でもしたんか」
「そんな事する訳ないでしょう。今、処刑鬼隊が舞い戻って来たゼウスと、戦っているそうなんです」
川島が報告する。
「そうなん。まあ、ゼウス一人なら大した事ないんちゃうの。この前、夜叉さんにヤラれて弱ってるやろうし」
鬼塚はアイコスを吸いながら、軽く返事をする。
「それが、えらいパワーアップしたらしくて、自分ではスーパーゼウス人って名のっており、処刑鬼隊がまとめて吹っ飛ばされたらしいんです」
「スーパーゼウス人。何それ?ふざけてるんか」
「なんか、メチャクチャ強くなってるみたいです」
鬼塚はアイコスを一口吸うと、良い考えが浮かんだようで
「そうや、黒瀬と若林を連れて、お前ちょっと見に行って来てくれ」
と、川島に指示を出した。
「お断りします」
川島は眼鏡のフチを触りながら、はっきりと断った。
「ええっ!断るんかいな」
鬼塚は驚いた。今まで真面目な川島が社長の指示を断ることなど、ほとんど無かったからである。
「ここは、社長の出番でしょう。社長がキッチリ倒して、大阪の鬼たちに威厳を見せないといけません」
川島は真っ当な理由を付けて、キッパリと言い切った。
「いや、ココは専務である君の出番やろ」
根拠は、まったくないが、鬼塚も負けずに言い切った。
「専務って、私は専務ではありませんよ」
「いや、君は専務やで」
「そんなの聞いてませんよ、いつからですか?」
「確か、5年前ぐらいからやな。社内の者は皆んな知ってるで」
「なんで、本人の私だけ知らないんですか?」
「言ったら怒ると思って、黙ってたんや」
「出世したんだから、怒るわけないでしょう」
ーーあっ、そういえば川島を専務に推薦したんは、鬼神の夜叉さんやった。なんでやろ?ーー
急に鬼塚が悩み出した。
「社長、聞いてますか?」
鬼塚が黙り込んでしまったので、川島は心配した。
「あ、いや、聞いてるけど。ちょっと考え事をしててな」
ーー夜叉さんは、専務に推薦するぐらいやから、川島のことを知っていたはずや。どういう経緯で知ったんやろ?川島の戦闘能力の高さに関係あるんやろうか?ーー
鬼塚が再び黙り込んでしまった為、川島は諦めて社長室から出て行ってしまった。
その頃、武蔵は虎之助を肩車しながら、スーパーゼウス人に突撃していた。
「二天一流『乱れ斬り』」
武蔵が必殺技を出すが、肩の上に乗っている虎之助が邪魔で、威力を十分に発揮する事ができない。
『悪鬼滅殺派』
スーパーゼウス人も技を繰り出す。
ドシャッ!
やはり、スーパーゼウス人の技が勝り、武蔵は吹っ飛ばされた。
「痛いでござる」
吹っ飛ばされた勢いで、虎之助は武蔵の肩から落ちてしまった。
「こらっ、武蔵!合体が解けてしまったじゃないか!」
スーパーゼウス人に背を向けて、武蔵に対して怒り出す虎之助。
「お嬢ちゃん危ない!後ろを見るっス」
「後ろって、うわっ!髭ジジイが襲って来るでござる」
虎之助が振り向くと、スーパーゼウス人が、こちらに迫って来ている。
「まずは、この娘からブチ殺してやるわ」
恐ろしい形相で、虎之助に襲いかかるスーパーゼウス人
「顔が恐いので、逃げるでござる」
虎之助は立ち上がろうとしたが
「痛てて」
右足に激痛が走った。
「落ちた時に足を挫いたでござる」
「ヤバいじゃん」
スーパーゼウス人が、虎之助のすぐ側まで迫っている。
武蔵は、猛スピードで虎之助に向かって走る。
ーーお嬢ちゃんを助けないと、しかし、間に合うかどうか微妙ッスねーー
必死に走る武蔵であるが、わずかに間に合わず、スーパーゼウス人の手が虎之助の襟元を掴んだ。
その時、スーパーゼウス人は突然、何者かに後ろからスリーパーホールドで首を締められた。
「ぐえっ、だっ誰じゃ」
「久しぶりだなゼウス」
「おっ、お前は、この前の鬼神の部下だな」
意外にも川島であった。
スーパーゼウス人は首締めから逃れようとするが、川島の力が思いのほか強くて外せない。
「バカな、スーパーゼウス人であるワシよりパワーがあるなんて。貴様、いったい何者じゃ」
苦しみながらも、驚くスーパーゼウス人。
「スーパーゼウス人なんて、鬼神に比べると赤子同然だ」
川島は、さらに腕に力を入れ締め上げる。
「くふっ」
ついに、スーパーゼウス人は気を失ってしまった。
ーーなんだコイツは、いきなり出て来てスーパーゼウス人を倒しやがったジャン。おそらく、かなりの腕の鬼ッスねーー
「アンタ、鬼だな?一人で来るとは珍しいジャン」
武蔵が近寄って来る。
ーー本当は、社長に戦って欲しかったんだが、あの様子じゃ絶対に来ないだろうしーー
「こちらにも、いろいろ事情があってね」
川島は、答えながらスーパーゼウス人を調べている。
「こらっ!せっかく合体してたのに」
まだ虎之助は、合体が解けたことを怒っている。合体が、よほど楽しかった様だ。
「コイツを、どうするんッスか?」
武蔵は、川島にスーパーゼウス人の処置を、たずねた。
「冥府に送り出す」
と言うと、川島は手を合わせ、術を唱え始めた。
すると、スーパーゼウス人の身体から、蒸気が大量に発生し、徐々に体が小さくなって行く。まるで何かが蒸発している様に見える。
完全にスーパーゼウス人の身体が消え去ると、武蔵は川島に刀を向けた。
「気が乗らないッスが、鬼は見逃せないッス」
川島と殺りあうつもりである。
しかし、川島はスーツを整えながら
「悪いが、私はこれからやる事があるので、失礼するよ」
と言って、平然と歩き始めた。
ーーどうする?不意討ちとはいえ、スーパーゼウス人を殺ったコイツはそうとう強そうだ。だが、お嬢ちゃんと2人がかりなら、なんとかなるかも知れないッスねーー
などと考えていると、背中に違和感を覚えた。
「もう一度、合体するでござる」
虎之助が武蔵の背中に登り、肩車の体勢になろうとしている。
「ちょっと、何やってんすか?」
「合体するでござる。拙者は足が痛いので、歩けないでござる!」
虎之助がダダをこね出した。
どうしても、肩車をして欲しいようである。
「合体するでござる〜」
虎之助はゴネ続けており、川島とは、かなり距離が開いてしまっている。
「しょうがないッスね」
武蔵は川島を追うのを諦め、虎之助を肩車したまま宿舎へ帰ることにした。
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