第10話 銀鬼VS虎之助
文字数 4,138文字
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎に、岩法師が左近を担いで戻って来た。
「どうしたの?左近君、血が出てるじゃない!」
桜田刑事が、あわてて飛んで来る。
「牛鬼にやられた。拙僧が応急処置はしたが重症だ、手当をたのむ」
「とにかく、警察病院へ運びましょう」
桜田刑事は車に左近を乗せると、岩法師と一緒に警察病院へと向かった。
「それで、アナタは大丈夫なの、怪我してない?」
「拙僧は大丈夫だ。ヤモリからの知らせを受けて、駆けつけたのだが。『姿くらまし』を使って左近を助けるのが精一杯で、牛鬼と戦うどころではなかった」
「それが賢明よ。牛鬼のことは、左近君を病院に運んでから考えましょう。一応、安倍顧問には連絡しておくから」
桜田刑事と岩法師が左近を病院へ送り届けたあと、宿舎に戻って来ると、ちょうど虎之助と小太郎も帰って来た。
「ただいまでござる」
「あれ、お2人さんも出かけてたんですか?」
と、小太郎が聞いて来た。
「左近君が牛鬼に襲われたんで、病院に連れて行ってたところよ」
「左近さん重症なんですか?」
小太郎は心配そうである。
「命に別状は無いらしいけど、しばらく入院することになるわ」
「左近は、入院ばかりしてるでござるね」
虎之助は、興味なさそうにスナック菓子を食べている。
「鬼という者は、そんなに強いのか?」
岩法師より先に帰っていた狂四郎が、たずねた。
「牛鬼は特別よ。普通の鬼なら左近君が負けるはず無いもの」
ーーそうなのか。俺も早く鬼と戦ってみたいーー
「まあ、拙者より強い鬼は居ないから、心配しなくて良いでござるよ」
虎之助が狂四郎に向かって説明して来た。
ーーたしか桜田刑事が、この娘はバカだって言ってたな。可愛い娘だが、真面目に話を聞くのはよそうーー
狂四郎は、自分のアホさを棚に上げて、バカである虎之助は相手にしない事にした。
オフィスで働いている黒瀬は、金鬼と虎之助のことが気になっていた。あれから2日たっても日下部長は出社して来ない。
給湯室でコーヒーを入れていると、突然、誰かに胸ぐらを掴まれた。
「誰だ」
見ると、日下部長である。
「黒瀬君、話が違うじゃないか」
「どうしたんです部長、休まれていたのでは?」
「あれほどの化物とは聞いて無かったでゴンス!あれは人でも鬼でも無い、恐ろしいバケモノだ。両手と下半身を斬り落とされて死ぬところだったでゴンス。今朝やっと体が再生できたところでゴンス」
ーー出たっ!5年に一度出るか出ないかの、日下部長の超不機嫌な時にしか出ないゴンス節だーー
黒瀬は久しぶりに、ゴンス節を聞いた。
「でも、金鬼である部長と殺り合ったんでしたら、相手の娘も無事ではないでしょう?」
「なにを寝ぼけた事を言ってるんでゴンスか君は!僕は、かすり傷一つ負わせられなかったよ。もう、トラウマになって、しばらく若い女が怖くなったでゴンス」
「それは災難でしたね」
「正確な情報をくれないと、困るでゴンスよ。僕は、まだ死にたくないでゴンスから」
ーーこれ程までに金鬼を怯えさすとは、予想以上に恐ろしい娘だーー
悩みの種であった虎之助が無事で、なぜか安堵する黒瀬であった。
大阪府警の近くにある、家電量販店ヤマダカメラの一階フロアに、夕刻時になると、ほぼ毎日のように現れる少女がいた。
フロアの内壁は鏡になっており、少女は鏡に映った自分の姿を見ている。
鏡であることは虎之助も承知しているのであるが、全身がハッキリ映る、この場所が気に入っていた。
なぜなら、千代に会えた気がするからである。
服装は当時の千代とは違うものの、鏡の中には千代本人が居るように思える。
背丈は五尺二寸(約156cm)ほどで、華奢な体型であり、外見は千代そのものである。
ただ一つ哀しいかな、Dカップはあったと思われる千代とは違い、バストが何故かAカップである、という事である。
しばらく鏡を眺めてから、虎之助は宿舎への帰路へと向かう。
そんな虎之助を、付けて来る男がいた。
普段であれば気配で、すぐに気が付く虎之助であるが、千代に会った余韻が残る今は、まったく気づいていない。
男の正体は、銀鬼と呼ばれる凶悪な鬼である。
銀鬼は虎之助に対して、復讐心に燃えていた。
用心して、殺気を消しながら付けて来る。虎之助が路地に入ると、銀鬼は背後から音もなく襲いかかった。
鬼塚が自分のオフィスでアイコスを吸っていると、川島が入って来た。
「社長。日下から連絡がありました」
鬼塚は、笑みを浮かべながら
「やっと、あの小娘を殺ったか?」
と、笑顔で聞いてきた。
「それが、一方的にやられて、逃げて来たそうです」
「なんやて!」
ーーそんなアホな、あの金鬼が一ー
「あと、長期休暇を取って、しばらく旅に出るゴンス。と言ってました」
「あちゃ、あいつがゴンスって言い出したら、もうダメや。代わりの者を探さなアカン」
「しかも、今日、自分のデスクから、私物を持ち帰ったそうです」
「あいつ逃げやがったな」
「しかし、金鬼ほどの鬼が逃げ出すって、いったいどんな娘なんですかね?」
「なんや、見た目は可愛らしい娘らしいで。歳はウチの娘と同じぐらいちゃうかな」
「じゃ、高校生ぐらいですね」
「そうやな。娘も高校ぐらいになると、扱いずらくなって来てな。学校から帰ったらすぐ部屋にこもって、スマホばっかりさわっとるわ」
「ラインやらSNSちゅうヤツですかね」
「たぶん、そんなんやわ。親にスマホ代を出させといて、愛想ないでしかし。先月なんか3万円ぐらい請求来たで」
「それは、ちょっと高いですね。ゲームか何かに、課金してるんちゃいます?」
「そやろ?でも、注意しよう思ても、なかなか難しいねん」
「女子高生ともなると、うかつに部屋に入れませんもんね」
「ほんまやで。小さい頃は、なついてたんやけどな」
「彼氏とか連れて来たら、どうします?」
「嫌やな。タトゥーとかピアス付けてる奴やったら、しばいてまうわ」
「でも、彼氏しばいたら、娘さん怒るでしょう?」
「そうやねん、どうしょうか?」
「恋愛って、まわりが反対したら、よけい熱くなりますから物分りの良い父親を演じた方がいいですよ」
「そうやな。君トコは、どうやねん?」
「ウチは、男の子が2人なんで、そんなに気は使わないですね」
「やっぱり、男の子の方が楽なんかな」
「そうでも無いですよ。妻からは、2人とも言うことを聞かないって、いつも愚痴られてます」
「反抗期やな」
「そうですなぁ。って!違いますよ、金鬼の話をしに来たんですよ!」
「ああ、そうか。金鬼の話をしてたんや」
「あの娘どうしましようか?」
「どうするって言われても。そや!金鬼には弟がおったやろ、確かギン……何とか」
「銀鬼ですよ。ギンまで言ったら、もう出るでしょう」
「そう、その銀鬼に、仇討ちさせたらどうやろうか?なんや弟の方も、そうとう腕が立つちゅう話やで」
「そうですね、かなりの手練だとは聞いています。それに銀鬼は兄の金鬼と仲が良いですから、仇を討ちたいはずです。じゃ、さっそく手配します」
川島が上着のポケットから、スマホを取り出すと同時に着信があった。
「はい、川島です」
川島が話し出す。
「なんだと!ふざけた事ぬかすな!」
川島がスマホに向かって怒鳴っている。
「わかった、社長には、俺から報告しておく」
電話を終えると、すぐに「どないしたんや?」と鬼塚が聞いてきた。
「私の部下からの報告によると、銀鬼が独断で例の娘を襲って、返り討ちにあい、命からがら田舎に逃げ帰ったそうです」
「だめダメやん」
鬼塚と川島の話し合いは、驚くほど無駄であった。
宿舎の夕食の時間には、入院中の左近を除いたメンバーが揃っていた。
狂四郎は、どうしても昼間の稽古に納得がいかないようで。
「岩法師。もう一度、俺と勝負してくれ」
と、頼んだが
「断る。左近が入院中に、怪我でもされたらDSPの戦力が落ちる」
岩法師に、もっともな理由で断られた。
「そんなに稽古したいのなら、拙者がしてやっても良いでござるよ」
虎之助が、夕食を口に詰め込みながら提案したが
「ダメですよ。姉さんを相手にしたら、狂四郎が死んでまいますやん」
と、小太郎が止めた。
「そうでござるね。拙者の強さは、虎の子もビックリでござるからな」
「さすがは姉さん、上手いこと、言いはるわ」
小太郎と虎之助は、ゲラゲラ笑っている。
ーーこの2人はバカだから何を言ってるのか、さっぱり分からんが、岩法師はあなどれんーー
「稽古より、お前たちは戦の多い時代に生まれたゆえ、勉学をする機会が無かった様に思う。それで、拙僧が寺子屋のように、みんなに勉学を教えようと思うのだが、どうであろう?」
と、岩法師が提案して来た。
「それは、ありがたい。よろしく頼む」
狂四郎は嬉しそうである。
「俺も、お願いします。まだ、現代の事が良くわからなくて」
小太郎も乗り気である。
「拙者は、賢いから大丈夫でござるよ」
虎之助だけ断った。
ーークッ!こいつ一番バカのクセに。仕方ないが、おだててみるかーー
「いや、賢い虎之助こそ、名誉教授として参加して欲しいのだが」
岩法師は、心にも無いことを言ってみた。
「そうでござるな。拙者の知識を若輩の者に伝えて行くのも、博識者の努めでござるな」
ーーやはり、バカなだけあって騙しやすいーー
むろん岩法師には、虎之助を教授にするつもりは無い。みんなと一緒の生徒として扱う予定であるが、とりあえずは出席させる必要がある。出席させてしまえば勉強にはなるだろう。
ひょいと、虎之助が狂四郎の夕食のアジフライを1つ取った。
「なにしやがる!」
狂四郎は、当然怒リ出す。
「モグモグ、拙者はボスだから、1つもらうでござる」
「俺は、お前の子分じゃねえぞ!」
虎之助は、狂四郎が怒っている事など全く気にせず、食べながら狂四郎のアジフライを、もう1つ取った。
「このアマ!もう、かんべんならねえ。くらえ!新田家仙道『透視術』」
狂四郎が、両手の指を丸めて眼鏡の形を作り、虎之助に透視術を使おうとした。が、その瞬間
ボカッ!
「女に、その術を使うな」
岩法師が、岩のような大きな拳で、狂四郎の頭を、おもいっきり殴った。
「くふっ!」
狂四郎は、そのまま朝まで失神した。
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