第145話 南港の魚は爺さんを食べるか
文字数 2,487文字
「残りの雑魚にも、死んでもらおうかの」
士会鬼は、面倒くさそうな顔で呟いた。
その時
「待ちなはれ、そこまでや」
吹っ飛ばされていた小太郎が戻って来た。
服はボロボロになっているが、手には聖剣を持っている。
「お前の悪事は、お天道様が許しても、この俺が許さへんで」
小太郎は聖剣を振りかざし、士会鬼に斬りかかって行く。
「雑魚が、返り討ちにしてやるわ」
士会鬼は、暗黒闘気を小太郎に向けて放つ。
「うぉりやー!」
ズボッ!
小太郎の聖剣が、士会鬼の胸に深々と突き刺さった。
なぜか、士会鬼の出した暗黒闘気は、小太郎に届く前に消え去っている。
「うぐっ、何故じゃ、なぜワシの暗黒闘気が消えたんじゃ」
血を流しながら膝をつく士会鬼。
「お主の暗黒闘気は、全て拙者が吸い取ったでござる」
なんと、いつの間にか戻って来ていた虎之助が、暗黒闘気を吸い取っていたのである。
「貴様の仕業か」
怒った士会鬼は、同時に3本の小刀を虎之助に投げつけた。
「拙者の神気を喰らうでござる」
虎之助は、大量の暗黒闘気を出して迎え撃つ。
小刀は暗黒闘気に触れた瞬間に、サラサラと土に戻って行く。
「とどめでござる。秘技『暗黒星雲』」
虎之助の両手から暗黒そのものが現れて、士会鬼を包み込む。
「お主の暗黒パワーを、暗黒星雲に送り出すでござる」
虎之助は、とんでもない荒業を出して、士会鬼にとどめを刺すつもりである。
「ぐはっ」
士会鬼は、暗黒パワーを吸い取られて、どんどん小さくなって行く。
そして、ついに無くなってしまった。
「あれっ、暗黒パワーを全部奪ったら居なくなったでござる」
辺りを見回す虎之助。
「消えて無くなったみたいでんな」
小太郎も、キョロキョロしている。
「死んだので、ござるかな?」
「そうでんな。もう、死んだ事にしときまひょうか」
2人が士会鬼は死んだと思っていると
「まだ生きとるわ、バカ者どもが」
10メートルほど上空に、悪魔の姿をした士会鬼が現れた。
「あんな所に居るでござる」
素早く虎之助は、手裏剣を投げつける。
スッ
しかし、なぜか手裏剣は、士会鬼を素通りしていく。
「そんな物は当たらん、ワシは別の次元に居るのじゃ。貴様らごときでは、ワシに触れることすら出来んわ」
どうやら、士会鬼は別次元に移動したようである。
「姉さん。士会鬼の奴、別次元にいるので、こちらの攻撃が当たりまへんで」
違う次元にいる相手に攻撃しても、ダメージは与えられない。
「こうなったら、拙者たちも別次元に行くでござる」
「どうやって行くんでっか?」
「こうやるでござる」
バリッ!
虎之助が空間を手刀で切り裂くと、何も無かった空間に裂け目ができた。
「では、小太郎から行くでござる」
虎之助は後ろから押して、小太郎を空間の裂け目に入れようとする。
「いや、俺は残りますわ。姉さんだけで行って下さい」
ーー別次元なんかに行ったら、帰って来られへんやないかいーー
小太郎は別次元に行くことを拒んでいる。
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと行くでござる」
ドガッ!
小太郎の尻を、虎之助が思いっきり蹴飛ばした。
「はうっ!」
蹴っとばされて、小太郎は勢いよく裂け目に突入して行く。
「それでは、拙者も行くでござる」
ゆっくりと裂け目に入って行く虎之助。
別次元に入ってみると、都会の埠頭のような場所に出た。
海岸には、大きな外国船も止まっており、近くには、尻を押さえて倒れている小太郎がいる。
「小太郎、士会鬼はドコでござるか?」
「わかりまへん。それより尻が痛くて歩けまへんのや」
尻を押さえながら小太郎は、うずくまっている。
「使えん男でござるな」
「姉さんに蹴られて、こうなったんでんですやん」
と訴える、小太郎の言い分は無視して
「でも別次元って、なんだか南港に似てるでござるね」
と、虎之助が言った。
「そう言われれば、そうでんな。あの建物なんか、インテックス大阪にそっくりやし」
「あっちのビルは、WTC(ワールドトレードセンター)に似てるでござる」
「姉さん。もしかしたら、ココは?」
2人が怪しんでいると
「おい、貴様ら。そんなに簡単に別次元に入って来るんじゃない、少しは常識を考えろ」
と、怒りながら士会鬼がやって来た。
「俺は来たくて来たんちゃうわ、姉さんに蹴り飛ばされたんや!」
尻を押さえながら小太郎は怒っている。
「お主は別次元って言ってるけど、ココは南港でござる」
「そうじゃ、ココは南港じゃ。空間の裂け目を利用して移動したのだ。それに、対決する場所といえば昔から南港と決まっとるじゃろ」
士会鬼はあっさりと、この場所が南港である事を認めた。
「南港で対決って、お前は、昭和の暴走族か!」
小太郎が突っ込む。
別次元というのは士会鬼の嘘で、実際には大阪市の湾岸都市である南港へと移動しただけであった。
「場所は、どこでも良いでござる。小太郎、ぬかるんじゃないでござるよ」
虎之助は、すでに刀を構え戦闘態勢に入っている。
「わかってまんがな、今すぐ殺しまっさ」
小太郎も聖剣を抜いて士会鬼に向けた。
「ブッ殺して、魚の餌にしてやるでござる」
士会鬼を殺して、海に沈めるつもりの虎之助。
「あんな不味そうな爺さんを、魚が食べまっか?」
しかし、虎之助の台詞に小太郎は疑問を感じた。
「鯵やサバは、何でも食べるでござる、あの不味そうなジジイも食べるでござる」
「いやいや、さすがに、あの爺さんは食べまへんて。いくら魚でも腹こわしまっせ」
「ムチャクチャ不味いけど、あのジジイは魚に食われるでござる」
どうしても、士会鬼を魚に食べさせたい虎之助。
「食べませんって、あの爺さんは臭すぎまっせ」
「臭くても食べるでござる」
「ムッチャ臭いでっせ」
「ムッチャ臭いジジイは、魚も食べないでござる」
ムッチャ臭いと聞いて虎之助は意見を変えた。
「やっぱり食べまへんか」
「絶対に食べないでござる」
言い切る虎之助。
「いい加減しろ!ワシは不味くも臭くもないわ!」
2人の会話を聞いて、士会鬼がブチ切れた。
「貴様ら2人とも、骨も残さずこの世から抹殺してやる!」
怒りが頂点に達した士会鬼であった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)