第7話 新人がやって来たでござる
文字数 3,009文字
「ちょっと姉さん、俺の唐揚げ取らんといて下さいよ」
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、メンバーみんなで昼食を食べているところであった。
「唐揚げの1つや2つで、細かいことを言うんじゃないでござる」
「1つ2つじゃなくて、4つ全部、取ってますやん!俺の唐揚げ定食が、白飯だけになってまんがな」
小太郎が虎之助に抗議している。
「その白飯も、よこすでござる」
「むちゃ言わんといて下さいよ」
虎之助が来てからは、いつもの事であるが、生真面目な左近にとっては、どうにも落ち着かない光景である。
「おい!お前ら、いい加減にしないか!」
ついに、左近が怒鳴った。
「小太郎が怒られてるでござる」
虎之助は、小太郎を見て笑っている。
「いや、怒られたのは、姉さんですやん」
「拙者は悪くないでござるよ。小太郎は、わがままで困るでござる」
ーーこいつには、なにを言ってもダメだーー
左近は呆れて、怒ることを諦めた。
ーー虎之助が来てからは、ゆっくり食事もできないーー
イラついている左近が岩法師を見てみると、だまって黙もくと食事を摂っている。
ーさすがに僧侶だけあって、物事に動じ無い精神力の持ち主だなー
左近は改めて、岩法師の精神力に感心した。
その頃、宿舎の近くでは、桜田刑事と若い男が連れ立って歩いていた。
男は長身で細身の体型であり、端正な顔立ちをしている。女性にモテそうなタイプだ。
「狂四郎君、ここがDSPの宿舎よ」
応仁の乱の荒れた時代から転生して来た狂四郎は、現代の平穏さに、なかなか慣れず、うんざりしていた。
幼少の頃より戦うことしか知らなかった狂四郎は、DSPに入れば鬼と戦えると言われ、期待して付いて来たのである。
「みんな、新人を連れて来わよ」
転生者全員が、いっせいに2人を見た。
「新しい仲間の狂四郎君よ、みんな自己紹介してね」
桜田刑事は、いつもよりテンションが高い。おそらく狂四郎がイケメンだからだと思われる。
転生者のメンバーは桜田刑事に促されて、一人づつ自己紹介を始めた。
「左近です」
まずはリーダーの左近が名のった。
「拙僧は岩法師と申す」
僧侶姿の岩法師が名のる。
「俺は小太郎、剣の達人や」
若い剣士の小太郎が名のる。
「虎之助でござる。ここの事は何でも拙者に聞くと良いでござるよ。それから、ご飯は半分、ボスである拙者によこすでござる」
虎之助が食事を半分、要求してきた。
桜田刑事は虎之助を指さして
「この娘の言うことは無視して良いわよ、バカだから。わからない事は、私かリーダーの左近君に聞いてね」
と、笑顔で狂四郎に説明する。
「なに言ってるでござる!拙者が一番の物知りでござる。さては拙者がAカップだからって舐めてるでござるな」
虎之助が怒り出した。
「アンタみたいな、Aカップの貧相な小娘は舐めても良いのよ!なぜなら、私はDカップだから!」
桜田刑事も怒って言い返す。
ーーガーン!ーー
虎之助は転生して以来、始めて激しい衝撃を受けた。
「うわ〜ん!酷いでござる!」
泣きながら、虎之助は宿舎を飛び出して行く。
ーーしまった!言い過ぎたーー
桜田刑事は焦った。
さすがに、左近や岩法師も少し引いている。小太郎に関しては、口を開けたまま呆然として、こっちを見つめている。
ーーヤバい、何とかしなくてはーー
桜田刑事は、虎之助と一番仲の良い小太郎の側によって
「これで、虎之助にお菓子でも買って、なだめて来て」
500円玉を小太郎の手に握らせると、呆然としていた小太郎は、われに返り
「姉さん、待って下さい!」
500円玉を握りしめたまま、走って虎之助を追いかけて行った。
「なんか、見苦しい所を見せちゃって、ごめんなさいね」
桜田刑事は、照れくさそうに狂四郎に謝った。
ーー本当に、見苦しい所を見てしまったーー
「新田狂四郎だ、よろしく」
気を取り直して、狂四郎は残った2人に挨拶をする。
「ちょうど昼食中だ、狂四郎君も、一緒に食べないか?」
左近が狂四郎に優しく声をかけるが
「アンタが、ここのリーダーか?」
狂四郎は横柄な態度で返す。
「一応は、そうだ」
ムッとしながらも左近は答えた。
「アンタが、ここで一番強いのか」
「そうでも無い」
虎之助のことが頭によぎり、左近は無愛想に答える。
「じゃ、隣の坊さんか?」
ーー虎之助といい、この狂四郎といい、最近の新人は態度がなってないな。少し教育してやらねばーー
「一番が拙僧だとしたら、どうなんだ?」
岩法師にしては、トゲのある言い方である。
「いや、別に。なんか強そうに見えなくてね」
「では、後で拙僧が稽古をつけて進ぜよう」
「坊さんと稽古か、退屈そうだな」
「退屈など決してさせぬ」
岩法師はキッパリと言いきった。
左近は岩法師の意外な一面を見た。普段は冷静な岩法師が、熱くなっている。
まあ、僧侶でも怒る時は怒るか、当たり前のことだな。左近は生意気な狂四郎を、岩法師に任せることにした。
「どうや、若林。ぼちぼち牛鬼の身体にも慣れて来たやろ?」
「そうですね。スピードとパワーが凄いんで、最初は戸惑いましたけど、なんとか慣れました」
若林は、鬼塚や川島から訓練を受けて、少しずつではあるが牛鬼の力を自分の物にしつつあった。
「そろそろ、実戦で力だめしをしてみるか?」
「実戦って、どんな相手ですか?」
「DSP[デビルスペシャルポリス]に、ちょっと手強い小娘がおってな、そいつを殺ってもらおう思てんねんや」
ーーDSPの手強い小娘?もしかして、それは虎之助さんの事ではーー
「いや、女性を殺るのは、ちょっと無理ですよ、自信がありません」
とりあえず、ここは断らなければ。自分は虎之助さんとは戦いたくない。
「なんやて!これは社長命令や、出来んかったら、ワレ首やで!」
首と言われても、ここは引き下がる訳にはいかない。なぜなら、僕は虎之助さんが好きだから。
「かまいませんよ。最近しつこく牛島建設から、ウチに来ないかって誘わていますし」
思い切って、以前から声を掛けて来る、牛島建設の話をしてみた。
ーーなんやて、牛島建設って言うたら、東京に本社がある大手ゼネコンやないか。鬼武者部隊もあって、関東最大最強の鬼の総本山やんけーー
「うっ、ウソやん、冗談やんか。成績優秀で牛鬼でもある若林君を、首にする訳ないやん」
鬼塚は、焦った。牛島建設は日本テクノロジーコーポレーションより大きな会社である。せっかくの牛鬼を取られたく無い。
「冗談でしたか、ちょっと本気っぽかったですけど」
「ぜんぜん本気な訳ないやん。ワシら、なんぼ鬼や言うたかて、女子供を襲うかいな」
「そうでしたか、疑って申し訳ありませんでした」
「そうや、ワシは日頃から皆に女と子供だけは襲ったらアカンって、口をスッパクして言っとるんや。それをしたら、もう人間やない、鬼やって。まあ、鬼なんですけどね」
「ちょっと、なにを言ってるのか良くわかりませんが。とにかく、女性は殺らなくて良いって事でよすね?」
「君には、最初からオッサンの転生者を倒してもらおうと思てたんや。後で黒瀬に指示を出しとくから、2人で行って来てや」
「承知しました」
「ほな、がんばりや」
若林が退出した後、鬼塚はアイコスを吸いながら
「ほんま最近の、ゆとり社員は扱いにくいわ」
と、つぶやくと、電話を取って
「おう川島か。ワシや、金鬼を呼べ!あの虎之助とかいう小娘ブッ殺すさかいに」
と、怒鳴るように言った。
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