第32話 デビルスペシャルポリスVS阿倍仲麻呂 中編
文字数 2,760文字
左近の居所を見つけたのは良いが、そこには闇の結界が張られており、DSP[デビルスペシャルポリス]のメンバーは立ち往生していた。
「先に行った虎之助と小太郎が心配です、我らも行きましょう」
鬼一の提案により、危険ではあるが一同は結界の中に入って行くことにした。
しばらく進むと
「うへーっ!」
という叫び声と共に、小太郎が吹っ飛ばされて来た。
「大丈夫か?小太郎」
安倍が駆け寄る。
「大丈夫じゃ、ありまへん。あれは左近さんなんかじゃ無くて、阿部仲麻呂でっせ」
「どういう事だ?」
「左近さんは、阿倍仲麻呂に乗っ取られてるんや」
小太郎は、うろたえている。
「あちらの方に、なにか炎の様なものが見えます」
鬼一が、前方を指さした。
「あれはドラゴンの炎や。姉さんがドラゴンの式神と戦ってるんや」
「左近を乗っ取り、竜の式神を使うとは、なかなかの術者だな」
阿倍仲麻呂は、相当な腕の術者であるようだ。
近づいてみると、竜とメイド少女戦士マリリンが死闘を繰り広げているところであった。
「あれは応竜だ。阿倍仲麻呂は、最強の竜である応竜の式神が出せるのか!」
応竜を見て安倍は驚いた。
ーーこれほどの腕がある術者であったかーー
「とどめでござる!」
スパッ!!
メイド少女戦士マリリンの手刀が、応竜の首を斬り落とす。
首を斬られた応竜は、縮んで小さくなり、破れた御札へと戻っていく。
「凄いな、あいつ。応竜を倒しやがった」
「彼女は、恐いもの知らずですからね」
安倍と鬼一は、感心している。
「毒饅頭を食わせて、弱らせてから殺したでござる」
メイド少女戦士マリリンが、こちらにやって来た。
さすがに応竜を相手にした後なので、メイド服が破れたり焼かれたりしており、ボロボロである。
「姉さん、パンツが見えてまっせ」
小太郎は応竜を倒したことより、パンツが気になるようだ。
「これは、見せパンだから、見えても大丈夫でござる」
「見せパンでっか。さすが姉さんオシャレでんなぁ」
「拙者のオシャレさは、イタリアのファッションショーで、四階級制覇した程でござる」
「へえ、言ってる意味がわからんし、興味も無いですが、そら凄いでんなぁ」
小太郎は、バカにしながら感心したふりをしている。
「まさか、DSPに応竜を倒せる奴が居たとはな」
左近の姿をした阿倍仲麻呂が、ゆっくりと歩いて来る。
「やっと会えたな、阿倍仲麻呂。兄の仇を討たしてもらうぞ」
安倍は破魔の剣をかまえた。
「ちょっと、待ってください。あの男を殺したら、もしかして左近さんも死ぬんちゃいまっか?」
小太郎が心配して、たずねた。
「当然、死ぬでしょうね」
冷静に鬼一が答える。
「ダメですやん!」
「仕方がない。あの男を生かしておくと、多くの人が死ぬことになる」
「そんなぁ」
小太郎は、膝を落として嘆いている
「心配しなくても、大丈夫でござるよ」
メイド少女戦士マリリンは、小太郎の肩に手を置いて慰めた。
「どう大丈夫なんですか?」
「拙者が、左近が苦しまないように一瞬で首を斬り落とすござる」
「全然、大丈夫じゃないですやん!!」
さらに小太郎は落ち込んでいく。
「しかし、阿倍仲麻呂だけ殺して、左近を助ける方法と言われると難しいな」
鬼一も考え込んでいるが、そう悩んでもいられない。その間に、一人で戦っている安倍は押されて来ている。
「とりあえず拙者が、この毒饅頭をアイツに食わせるでござる」
と言うと、素早くメイド少女戦士マリリンは、阿倍仲麻呂に向かって行った。
「うわぁ、どうしよう。あんな物食わされたら、左近さんが死んでまう!」
まだ小太郎は、うろたえている。
「この饅頭を食うでござる」
「誰が食べるか、そんな物。お前の相手は、こいつだ」
阿倍仲麻呂は、巨大鎧武者の式神を出すと、メイド少女戦士マリリンに向かわした。
「唐沢家忍術『鎌いたち』!」
メイド少女戦士マリリンが右手を上から下に振り降ろすと、巨大鎧武者が縦に割れ、ドスン!と左右に倒れた。
鎧武者が倒れたのを見とどけると、メイド少女戦士マリリンは、阿倍仲麻呂に向かって走り出す。
だが、何者かに襟を捕まれ、反対方向に放り投げられてしまった。
「痛たい、誰でござるか?」
倒れたまま、メイド少女戦士マリリンが自分を投げた相手を見てみると、倒したはずの巨大鎧武者である。
「甘いぞ小娘。俺の巨大鎧武者は、何度でも復活する」
阿倍仲麻呂は勝ちほこっている。
「大丈夫でっか、姉さん。ブラジャーが見えてますけど?」
小太郎が、ブラジャーの心配をしに走って来た。
「これは、見せブラだから大丈夫でござる」
「さすが、姉さん、オシャレでんなぁ」
小太郎は、ひどく感心している。
「倒しても復活する式神は、初めてでござる」
メイド少女戦士マリリンは、空を見上げて、亡き師匠に教えを乞うた。
「お師匠様」
すると、空にスマートでハンサムな若い男が現れて
「虎之助よ、この世に不死身の式神など居ません。復活している様に見せかけているのです」
と、適切なアドバイスをおこなった。
「お師匠様、ありがとうでござる」
メイド少女戦士マリリンは感激して、お礼を言った。
「あれっ。あいつの師匠って、資料によると小太りで中年男の伊賀栗の助じゃなかったっけ?」
不思議に思った鬼一が、小太郎に確認した。
「その、栗の助に裏切られたショックで、姉さんの脳内では、冴えない中年男からイケメン師匠に入れ替わったんですわ」
小太郎が、師匠が入れ替わった経緯を説明する。
「そんなバカな!」
鬼一が呆れている間に、メイド少女戦士マリリンは、何やら呪文を唱えだした。
「忍法ピーグルアイ!」
忍法ピーグルアイとは、術者がピーグル犬と同じ視力になる忍法である。
ただし、ピーグル犬の視力が、人よりも優れているという事実は全く無い。
ピーグルアイで、周辺を見渡していたメイド少女戦士マリリンは、何かを見つけたようで
「あやしい式神が居るでござる」
と、言いながら走って行く。
そこには、一匹の猫の式神が居り、御札を数枚持っている。
「この猫野郎!」
スコーン!
猫の式神の額に、メイド少女戦士マリリンが投げた手裏剣が命中する。
途端に巨大鎧武者と猫の式神は消えて御札ヘ戻っていく。
「巨大鎧武者が倒されると、猫が新たに別の巨大鎧武者の式神を呼び出して、復活したと見せかけていたでござる」
復活の秘密を、虎之助が暴いた。
「なんと!式神を呼び出せる式神が隠れていたとは。しかし、そんな式神を出せるとは、阿倍仲麻呂という男、おそろしい奴」
阿倍仲麻呂の陰陽師としての能力の高さに、驚きを隠せない鬼一。
応竜と巨大鎧武者を倒したのは良いが、阿倍仲麻呂を殺してしまうと、左近も死んでしまう。
安倍たちDSPのメンバーは、今までとは勝手が違う相手に戸惑うのであった。
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