第87話 猫なで妖精
文字数 2,070文字
夕刻時、安倍康晴がDSPの宿舎に加藤を連れて来た。
かなり難航していた顧問就任の件は、なんとか了承してもらえた様である。
「こちらが、あらたに大阪DSPの顧問を務めることになった加藤段蔵さんだ」
と、桜田刑事と転生者たちに紹介する。
「ワシが加藤である。よろしく」
加藤は少し偉そうに挨拶した。
「加藤段蔵というと、3代前に顧問をされていた、あの飛び加藤さんですか?」
桜田刑事が驚いて尋ねた。
「そうじゃ」
「アナタは、引退されていたのでは?」
「一度は引退したが、最近、出現する敵が強くなったと聞いて大阪DSPのことが心配になり、自ら復帰する事にしたのだ」
加藤は本当に心配している風に言った。
ーーなに言ってんだ、あれほど復帰する事を拒んでたクセに、このジジイーー
内心、安倍はそう思ったが口には出さない。
転生者たちと一通り挨拶を済ますと
「そういえば虎之助が居ないな」
安倍が宿舎を見渡しながら言った。
「姉さんは、俺が召喚した魔法使いのハリセン・ポッターと魔法界に行ったきり戻って来てないんですよ」
「そうなのか。せっかく忍者の大先輩が顧問に就任したのに残念だな」
安倍が残念がっていると
「大阪DSPに忍者の転生者がいるのか?」
忍者と聞いて加藤も気になったようである。
「唐沢虎之助という娘なんですが、不在なようです」
「姉さんは鬼一さんと付き合ってたんで、魔法界へ傷心旅行に行きはったんや」
小太郎は虎之助に同情している。
「ハリセン・ポッターって、変な奴だったが大丈夫なのか?」
岩法師は心配そうだ。
「姉さんなら大丈夫と思いますよ」
ーー姉さんは、火星や地獄からも普通に帰って来る人やから大丈夫やろーー
小太郎は、特に心配していない。
「待てよ、伊賀の唐沢家か、聞いた事があるな」
加藤は何かを思い出しかけている。
「加藤さんと虎之助は、転生前の時代が近いですからね。唐沢家について知ってても不思議は無いですよ」
安倍がそう言うと
「ワシは風魔の出だから伊賀のことは詳しくないんじゃが、唐沢家は聞き覚えがある。なにか特殊な家柄であったような気がするんじゃが」
加藤は唐沢家のこちが、気にかかっている。
「まあ、虎之助のことだから、すぐに帰って来るでしょう。会えば何か分かるかも知れないですよ」
岩法師に、そう言われ加藤は
「それもそうだな」
と同意した。
その頃、魔法界ではボルデ本山を倒した魔法セーラー戦士ポピリンこと虎之助が帰路に着こうとしていると。
「そこのお嬢さん。待って下さい」
筋肉質で体格の良い男性が追いかけて来た。
「あっ、あの方は魔法省のコーネリウス・パッション屋島大臣」
ハリセン・ポッターは驚いている。
「お嬢さん。闇の帝王を倒して下さりありがとうございます。ぜひ、お礼をしたいので、帰るのは少し待ってもらえませんか」
パッション屋島大臣は丁重にポピリンに頼んできた。
「でも、もう遅いから帰らないと」
「魔法界で最高級のホテルを御用意しますので、今日は泊まって頂いて、明日、歓迎会をさせてもらいたいのです」
「最高級ホテルでござるか」
「ポピリンさん、そうして下さいよ、僕からもお願いします」
ハリセン・ポッターからも頼まれてしまった。
ーーそうでござるな。宿舎に帰っても、鬼一の事ばかり考えてしまって苦しくなるから、しばらく魔法界に居たほうが良いのかも知れないーー
結局、ポピリンはパッション屋島の要望通り、今夜はホテルに泊まる事にした。
案内されたホテルは、古めかしいが格調高い立派な建物である。
「ここが泊まって頂く部屋です」
中世ヨーロッパ調の広々としたオシャレな部屋だ。
「へえ、なかなか良い部屋でござるね」
ポピリンが部屋を見渡していると、隅の方にスキンヘッドで耳と目の大きい小人がポツンと立っている。
「あれは何でござるか?」
気になったのでパッション屋島に尋ねてみた。
「ああ、あれは猫なで妖精のトッピーです。お客様の猫を撫でるのが彼の仕事です」
「拙者は猫を連れてないでござる」
「魔法界のホテルには、各部屋に一人ずつ妖精が住んでいるんですよ」
「でも猫が居ないので必要ないな。他の部屋にはどんな妖精が居るのでござるか」
「他の妖精ですか。そうですね、寝室でお客様の寝言を録音する妖精や、お客様のアキレス腱を攻撃して来る妖精、隠れてお客様の写真を撮ったり住所や電話番号をつきとめたりする妖精などが居ます」
パッション屋島が説明する。
「変な奴ばっかし。しかも、最後の奴はタダのストーカーでござる」
「ちなみに、隣の部屋は『お前を一生許さねえ』と言いながら靴下を履かせてくれる妖精です」
「そいつは嫌でござる」
「妖精は、ポピリンさんのような若い女性からは不評なんですよ」
パッション屋島は苦い顔をした。
「そりゃ、そうでござる」
ポピリンは大いに納得した。
「でも、猫なで妖精は猫を連れていないお客様には何もせず、じっと見ているだけですから害は無いですよ」
ーーそれはそれで落ち着かないでござるーー
と、思いもしたが、結局ポピリンはホテルで一泊する事となった。
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