第127話 スター誕生
文字数 2,306文字
「ガキのワリには頑張った方だが、もう終わりだ」
羅刹は、へばっている小太郎の喉元に、剣を向けた。
「死ね」
ーーアカン、もう殺られるーー
と、小太郎が観念した時。
カシャン!
分銅付きの鎖が羅刹の剣を絡め取った。
「何者だ」
鎖が飛んで来た方向を見ると、加藤であった。
「大丈夫か、小太郎」
加藤が声をかける。
その後ろに、武蔵と虎之助にボルデ本山も居る。
「皆んな、来てくれたんや。でも、どうしてココってわかったんや?」
「気になって、スマホで位置情報を調べたんだ」
ボルデ本山が説明した。
「皆んなで協力すれば、なんとかなるかも知れないッス」
武蔵の言うとおり、ここに居る5人でかかれば、羅刹を倒せる可能性がありそうだ。
「拙者も羅刹、お主を倒すでござる」
羅刹に向かって、虎之助が剣を向ける。
結局、虎之助も小太郎を助けに来てくれたようだ。
ーー良かった。さすが姉さん、頼りになるでーー
小太郎がホッとしたのも、つかの間
「だが、その前に。小太郎、お前を殺すでござる」
と言いながら、小太郎に向かって走って来た。
やはり、小太郎が許せないらしい。
ーーうわっ!姉さんを甘く見てた。やっぱり悪魔やーー
「姉さん、もうカンベンして下さいよ」
小太郎は全速力で逃げた。
「待つでござる」
それを追う虎之助。
小太郎と虎之助が居なくなり、大阪DSPのメンバーは、いきなり戦力が半減してしまった。
「これはマズいぞ。3人では羅刹に勝てぬ」
あせり出す加藤。
「5人でも3人でも、どのみち俺には勝てぬよ」
羅刹は、揺るぎない余裕を持っている。
「やってみなきゃ、わからないッス」
武蔵は2本の刀を持ち、二刀流で羅刹に向かって行った。
その頃、南国のビーチでは、妖怪尻ふきとゴリラバーグ監督の交渉が続いていた。
「それで報酬はいくらです?僕は時給350円以上じゃないと働きませんよ」
地味な報酬を要求する妖怪尻ふき。
「そうだな、50万ドルでどうだい?」
なんと、ゴリラバーグは、50万ドル(日本円で約5000万円)を提示して来た。
「ギリいけますね」
ドルの価値をわかっていない妖怪尻ふきは、適当に了承する。
そこへ、威厳のある老紳士が、やって来て
「待て、そいつはワシの最後の映画の主演をしてもらう」
と、ゴリラバーグに向かって言った。
その老紳士を見たゴリラバーグ監督は、目を疑った。
「アナタは猫澤明監督!世界のネコザワがどうしてココへ?」
どうやら、この老紳士はゴリラバーグ監督もはばかる、超大物らしい。
「ちょっとバカンスを兼ねて、次回作の構想を練りに来たんじゃ」
「世界のネコザワが相手なら、この男は譲りますよ。ぜひ、名作を撮って下さい」
と、あっさりゴリラバーグは引き下がった。
「それで、ネコザワさんの映画では、僕はどんな役なんですか?」
自分の意思とは関係なく話が進んで行くので、妖怪尻ふきは心配になり聞いてみた。
「『北極で1ヶ月1万円生活』というドキュメンタリー映画じゃ。ヤラセは一切なく、ガチで北極で1ヶ月1万円で1年間生活してもらう」
思ったより100万倍ハードな役であった。
「オオッ、それは素晴らしい。必ず観に行きます」
何故か、ゴリラバーグは大喜びしている。
「しかも、出演者は君と北極熊のニコライ君じゃ」
共演者も思ったよりハードである。
「あの、それで1ヶ月1万円生活って事は、北極に買い物する店とかがあるのですか?」
妖怪尻ふきは、もっともな質問をした。
「店なんか北極にあるワケなかろう、それどころか飲み水や電気もないわ。おかしな事を言う男じゃのう」
猫澤監督は笑いながら答えた。
「では、申し訳ありませんが、お断りします」
当然、妖怪尻ふきは辞退する。
「何人も、ワシのオファーを断ることは出来んぞ」
急に猫澤の表情が厳しくなった。
いつの間にか屈強な男が2人、左右に立ち塞がっている。
「彼らは助監督とキャメラマンだ。ワシからは、逃げられんぞ」
ーーこれはヤバい。テレポートで逃げようーー
ガチャ
助監督が妖怪尻ふきの右手に金属製の腕輪をはめた。
「逃げようとしても無駄じゃぞ、お前さんの腕に小型爆弾を仕掛けた。ワシから100メートル離れると大爆発するようにセットしてある」
「ええっ、アンタ本当に映画監督ですか?」
「ワシは世界のネコザワじゃ、良い映画を撮るためには手段は選ばん。だが、安心しろ、共演者のニコライ君は、訓練されて非常におとなしい熊だ」
猫澤は、妖怪尻ふきを安心させようと、ニコライ君の安全性を説明をする。
「監督。ニコライ君はスケジュールの都合で出演を断わられました。代わりに、人を襲って殺傷処分を受ける予定の、凶暴な人食い熊のガーレン君が出演することになっています」
助監督が訂正する。
「やはり、お断りします」
共演者が、ガーレン君という事で、再度、妖怪尻ふきは辞退した。
カチャ
「だから、ワシのオファーは、何人も断れんと言っとるだろう」
キャメラマンが妖怪尻ふきの左手にも、金属製の腕輪をはめた。
「これは」
「それも小型爆弾じゃ。ワシの気分次第で半径5000メートルが吹き飛ぶようになっておる」
「それじゃ、アナタも死ぬじゃないですか」
半径5000メートルともなると、恐るべき威力である。
猫澤たちも、巻き添えをくって爆死するであろう。
「ワシは、いっこうに構わん」
本当に構わないといった顔をする猫澤。
ーーこの爺さん、マジでヤバいーー
という訳で妖怪尻ふきは、否応なしに『北極で1ヶ月1万生活』に出演する事となる。
しかし、妖怪尻ふきは、この役を見事に演じぬいて、国際的なトップスターとなるのであるが、この時点では知る由もなかった。
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