第146話 ドクロ太郎平
文字数 2,331文字
「貴様らこそ、魚の餌にしてやるわ!」
士会鬼が呪文を唱えると、海から何者かが這い上がって来た。
「半魚人のシーヒューマンよ、こやつらを食ってしまえ」
シーヒューマンと呼ばれた半魚人は、顔が魚で、体は人間と魚の間のような、見るからに半魚人といった怪物であった。
「姉さん、キモい半魚人がこっちに向かってきまっせ」
小太郎は嫌そうな顔をした。
「じゃ、小太郎は半魚人を殺るでござる。拙者は士会鬼をブッ殺すでござる」
「アイツは、見た目が気持ち悪いから苦手ですわ」
小太郎は半魚人が苦手なようである。
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと殺るでござる!」
ドスッ!
虎之助の中段蹴りが、小太郎の尻に直撃した。
「ほうっ!」
バタッ
奇声を上げながら小太郎は倒れ込む。
「小太郎が倒れちゃったでござる」
虎之助の蹴りを、2発も尻にくらった小太郎は失神したようである。
「思ったより使えん男でござる」
自分のせいで小太郎が失神したのであるが、虎之助は全く責任を感じていない。
「味方を容赦なく蹴り倒すとは、相変わらず恐ろしい娘じゃ」
士会鬼も少し驚いたが
「シーヒューマンよ、その娘を食ってしまえ」
と、半魚人を虎之助に襲わせた。
「半魚人には半魚人で迎え撃つでござる」
士会鬼に対抗して、虎之助も呪文を唱え半魚人を召喚した。
今、まさに、半魚人対決が行われようとしていた。
しかし、召喚されて出て来たのは、黒いマント姿の暗黒魔道士『ドクロ太郎平』であった。
「おい、半魚人を出すんじゃ無かったのか?」
士会鬼は不思議がっている。
「拙者も、コイツが誰だか知らないけど、とりあえず半魚人を殺すでござる」
自分が召喚したのであるが、何者なのか分からないまま、とりあえず虎之助は指示を出した。
「了解した」
ドクロ太郎平は、右手から黒い煙を出して半魚人を攻撃し始めた。
すると
シュー
黒い煙を浴びた半魚人は、サラサラと黒い粉へと変化して行き
サラサラッ
と、海風に吹かれて無くなってしまった。
「むっ、半魚人を簡単に倒すとは、貴様やるな」
士会鬼はドクロ太郎平が、思いのほか強かったので警戒し始めている。
「誰だか知らない人だけど、そのジジイも殺すでござる」
「俺様はドクロ太郎平だ、覚えといてもらおう」
ドクロ太郎平が虎之助に名乗るが
「いちいち名前を覚えるのは、面倒くさいでござる」
と、面倒がられてしまった。
「そんなこと言わずに、名前ぐらい覚えてくれよ」
「わかったでござる。じゃ、ドクロ豚平、あのジジイを殺すでござる」
「ドクロ豚平じゃなくてドクロ太郎平だ!」
豚平と呼ばれて、ドクロ太郎平が怒った。
「どっちでも良いから、早く行くでござる!」
ブチ切れた虎之助が、ハイキックをドクロ太郎平に打ち込んだ。
ドガッ!
「くふっ」
後頭部に強烈な蹴りを受けて、ドクロ太郎平は失神KOされてしまった。
「こいつも使えん男でござる」
倒れているドクロ太郎平に向かって、虎之助が冷たく言い放つ。
「先ほどからの仲間に対しての非情さは、さすがに闇の西王母じゃな」
士会鬼は、虎之助の中に闇の西王母の非情さを、かいま見た。
「そんな事はないでござる。拙者は優し過ぎるので、仲間からはイエス・キリストの再来と言われているでござる」
自分の優しさをアピールする虎之助。
「そのイエス・キリストって人、知りまへんので、ドブネズミに例えてもらえまへんか」
失神していた小太郎が、例えを変えるように言って来た。
どうやら意識を取り戻したようである。
「えっ、えーと、拙者は仲間からドブネズミの再来と言われているでござる」
虎之助は困った顔をしながら言った。
「へえ、姉さんはドブネズミやったんでんな」
何故か感心する小太郎。
「そうでござる。実は拙者は、ドブネズミだったのでござる」
「姉さんは、ドブネズミがお似合いでんな」
「お似合いなのでござる」
2人はゲラゲラと笑い出した。
「そうか、君はドブネズミなのか。こりゃ面白い」
ドクロ太郎平も、いつの間にか意識を取り戻し笑いだしている。
「この娘はドブネズミかぁ、こりゃ良いや、ワッハッハ」
腹を抱えて大笑いするドクロ太郎平であったが
「何が面白いでござるか!お主、拙者をバカにしてるでござるな」
一緒に笑っていたつもりが、なぜかドクロ太郎平だけが、虎之助にキレられてしまった。
「君らだって笑ってただろう」
これには納得できず、抗議するドクロ太郎平。
「言い訳は聞かないでござる、とりあえずお主を殺すでござる」
虎之助は、刀をドクロ太郎平に向ける。
「少しぐらいは言い訳を聞けよ、このドブネズミ娘」
先ほどは不意打ちでやられたが、実力では自分の方が上だと思っているドクロ太郎平は、言い返してきた。
「拙者は、言い訳と命乞いは聞かない主義でござる。何故なら拙者には日本語が通じないからでござる」
「何言ってんだ、お前は、さっきから日本語を話しているじゃないか」
「それは、お主の幻聴でござる」
「うわっ!この娘の言ってる事は、意味がわからん。もう、君とはやってられんわ」
ドクロ太郎平は、呆れて帰ろうとしている。
「姉さん、アイツ帰るつもりでっせ」
小太郎は、ドクロ太郎平の後ろ姿を眺めている。
「帰るみたいでござるな」
「あの士会鬼って奴も、ついでに帰りませんかね」
「あのジジイも、もう帰るでござる」
「どこへ帰るんやろ」
「生まれ故郷のカッパ星でござる」
「えっ!士会鬼が、あのカッパ星人やったんでっか。そう言えば、以前に鬼神はカッパ星人の子やって言ってましたね」
小太郎は驚いた。
「そうなのでござる」
虎之助は得意げな表情をしている。
「違うわ、バカども!なにがカッパ星人じゃ、アホか貴様らは」
だが、士会鬼に思いっきり怒られてしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)