第104話 飛び加藤VS虎之助
文字数 2,511文字
「うわーん、姉さん!」
虎之助が商店街で、お菓子を買って宿舎に戻ると、ボロボロになった小太郎が泣きながら抱きついて来た。
「どうしたのでござるか」
「新しい顧問の加藤が非道いんや!」
小太郎は、虎之助が不在の間に起こった加藤の非道ぶりを訴えた。
「なるほど、それは酷いでござる」
話を聞き終わると、虎之助も同情してくれた。
「姉さん、加藤をブチ殺して下さいよ」
「殺すのは、ちょっとやり過ぎでござる」
「じゃ、半殺しでお願いします」
ーー面倒くさいでござるが、もし拙者の食事も減らされていたら、容赦なくブチ殺すでござるーー
と思いながら宿舎に入ると
「虎之助、あの加藤という顧問を、なんとかしてくれよ」
と、狂四郎にも頼まれてしまった。
「加藤は、どこでござるか?」
「たぶん庭で、剣術の稽古をしていると思う」
「ちょっと、見てくるでござる」
虎之助が庭まで行ってみると、狂四郎が言ったとおり加藤が剣を振っている。
「お主、なぜ小太郎と狂四郎をイジメるのでござるか」
と、単刀直入に聞いてみた。
「お前に言う必要は無い」
こちらを見ずに、加藤は愛想なく答えた。
「ならば、力ずくで言わせるでござる」
剣を抜く虎之助。
「このワシに、勝てると思っているのか」
加藤が凄みながら、こちらを見る。
場の空気が凍りつき、2人の間に緊張が走った。
達人どうしの手合わせが始まろうとしている。
「お嬢ちゃん、僕が加勢するニャン」
突然『ドスンとニョンコ』のメインキャラクターである『ニャン平太』が現れた。
『ドスンとニャンコ』とは、虎之助が、たまにプレイしているスマホゲームであり、空から落ちてくる、さまざまな形をした猫型のブロックを組み合わせて消していく、落ち物パズルゲームである。
ボルデ本山が、虎之助のスマホに魔法をかけて出現させたのであった。
「あっ、ニャン平太。拙者を手伝ってくれるのでござるか?」
「もちろんだニャン。あのオヤジをブチのめすニャン」
ニャン平太は、虎之助の味方のようだ。
「ほう、2人がかりか」
ニヤリと笑う加藤。
よほど自信があるようで、余裕が見受けられる。
ドスン!
いきなり空からブロックが落ちて来て、加藤の頭に直撃した。
「痛てっ」
『ドスンとニャンコ』のゲーム通り、空から猫型のブロックが落ちて来た。
ーー今がチャンスでござるーー
「拙者の闘気を喰らうでござる」
虎之助の両手から大量の暗黒闘気が放たれた。
「おのれ、邪悪な物を出しおって」
加藤は高速で剣を回転させて、暗黒闘気をかき消そうとする。
ドスン!
またしても空からブロックが落ちて来て加藤の頭に直撃した。
「痛てっ」
一瞬、加藤の手が止まった。
剣の回転が止まり、加藤は暗黒闘気に包み込まれていく。
その頃、魔界では宇宙猿人ゴリラ博士とマーが帰り支度をしていた。
「無事に娘さんを、魔界から救えましたねゴリラ博士」
「そうだな。我らも帰るとするか」
2人が話していると。
「ちょっと待ってくれ、俺も魔界から出してくれよ」
チェルノボーグが頼んで来た。
「君はダメだろ」
しかし、ゴリラ博士は、はっきりと断る。
「なんでだよ」
「君は破壊神だろ。出したら地上を破壊するから、魔界に居るんだ」
「なんだと、出さないとブッ殺すぞ!」
「ほう、ワシにそんな口をきくとは、いい度胸だ。面白い、久しぶりに、ひと暴れするか」
そう言いながら、ゴリラ博士は上着を脱ぎ始めた。
「おおっ、久しぶりにゴリラ博士の奥義が見れるのですね」
マーは嬉しそうに喜んでいる。
「マーよ、下がっておれ、この若僧にゴリラ神拳の真髄を見せてやる」
ついに、ロシア最強の破壊神と、大宇宙の伝説の拳であるゴリラ神拳が、ぶつかる時が来たのである。
暗黒闘気に包まれた加藤は、真っ黒い灰になり崩れ落ちた。
「やったニャン」
よろこぶニャン平太。
しかし、虎之助は後方にある大きな木を、じっと見つめている。
「なかなか、やるわい」
木の枝には加藤がいた。
なんと、灰になったのは、変わり身の術で入れ替わった丸太であった。
「よし、君に免じて小太郎と狂四郎のことを話してやろう」
どうやら加藤は、話す気になったようである。
ドスン!
「痛てっ」
またもや加藤の頭上にブロックが落ちる。
ニャン平太は、場の空気を読まない。
「スキあり!」
加藤の額めがけて、虎之助が手裏剣を投げる。
「うわっ、危ない」
間一髪で避ける加藤。
話す気になっていた加藤であるが、虎之助の攻撃で危うく死にかけた。
虎之助も、加藤の意思とは関係なく攻撃してくる。
どうやら攻撃に夢中になり、当初の目的を忘れているようだ。
「待て、待て。話すと言ってるだろ!落ち着かんか」
ドスン!
「痛てっ」
また、加藤の頭にブロックが落ちた。
「スキあり」
加藤の心臓をめがけて、虎之助が毒矢を放つ。
「こらっ、やめんか!訳を話すと言っとるだろ」
なんとか避けることが出来たが、あきらかに殺意が込められた攻撃であった。
「命乞いは、聞かないでござる」
「命乞いじゃない、訳を話すと言ってるんだ」
加藤が説得するが、虎之助は次の矢を構えている。
「今度こそ、心臓をブチ抜くでござる」
虎之助は殺す気まんまんである。
「もう君らとは、やっとれんわ」
話が通じない2人に呆れた加藤は、懐からロープを取り出すと、呪文を唱えだす。
すると、ロープは天に向かって伸びていった。
「では、さらばじゃ、諸君」
と言うと、加藤はロープを登って行き、ついには天に消えた。
「ドスンとニャンコ、ドスンとニャンコ〜」
虎之助とニャン平太が『ドスンとニャンコ』のテーマソングを歌いながら、ゲームをクリアした後にキャラクターが踊る勝利のダンスを踊り出した。
その様子を、1羽のカラスが見ていた。
ーーチェルノボーグを退治した敬意を払って、あの娘に加勢したのだが、加藤という男も、なかなかの強者であったな。しかし、あの歌と踊りは、なんかウザい。止めてもらえんかのーー
カラスの正体は、変身したボルデ本山である。
「ドスンとニャンコ、ドスンとニャンコ、空からニャンコが降ってくる〜」
ウザがるボルデ本山をよそに、虎之助とニャン平太は歌いながら踊り続けるのであった。
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