第72話 夜刀神
文字数 2,759文字
川島がグッピーちゃんと一緒に、スーパーゼウス人に吹っ飛ばされた処刑鬼隊を探していると、携帯に電話がかかって来た。
「はい、川島です。ああ夜叉さんですか。社長があんまり嫌がるんで、ゼウスは私一人で殺りました。えっ、あの鬼教官を社長につけるんですか?大丈夫ですかね。はい、わかりました」
電話を切ると「はぁ」と、ため息をつく川島。
「どうしたの、専務さん?」
横で聞いていたグッピーちゃんが、心配して、たずねてきた。
ーー社長の不甲斐なさに、業を煮やした夜叉さんが、大阪に鬼神直属の鬼教官を送り込んで来るとの事だが、グッピーちゃんに話すと、すぐにSNSで拡散されるからなぁ。適当に誤魔化しておこうーー
「いや、ちょっと京都から人が来ることになってね。それよりも残りのメンバーを探さないと」
「そうね、風鬼と水鬼がまだ見つかってないし」
「水鬼は日本海まで飛ばされたらしいが、自分で帰って来るだろう。とりあえず風鬼を見つけたら、本社に戻ろう」
2人は、風鬼の捜索を続けることにした。
ロマノフ議員とラスプーチンが去った国際電器保安協会ギリシャ本部では
「ロマノフ議員って何者なんですか?あのラスプーチンが素直に言うことを聞くなんて」
ハルバトスは不思議がっている。
「君は知らなかったのか。ロマノフ議員っていうのは表向きの名で、彼はスヴェントヴィトと呼ばれるロシアの神だ」
グリゴリオス局長が、説明する。
「へえ、ロシアの神だったのですか。でもラスプーチンは、同じく神であるゼウス様に対しては横柄な態度でしたが、スヴェントヴィトってゼウス様より力があるんですか?」
「彼は国際電器保安協会で最強の戦士と言われている。長年の間に堕落していたゼウス様とは違って、現役バリバリの闘神だ」
「確かにゼウス様は、高名である事にあぐらをかいて、だらけていましたからね」
「今後は、我々もヘスティア様を中心に、ギリシャ本部を立て直さないとな」
「そうですね、がんばりましょう」
と、本部再建に意気込む2人であった。
虎之助が宿舎のお風呂から上がると、食堂で鬼一と岩法師がビールを飲みながら話し込んでいた。
めずらしく鬼一は、顔を真っ赤にしながら酔っ払っている。
「ビールという物は、美味しいのでござるか?」
虎之助は身体が、まだ未成年であるため、ビールを飲んだことが無い。
「最初は少し苦く感じたが、なぜかクセになる味だな」
岩法師の説明を聞いて、虎之助も飲んでみたくなって来た。
「拙者も飲みたいでござる」
「ダメでっせ姉さん。我われ未成年は、ラムネで我慢しないと」
小太郎と左近は、隣のテーブルでラムネを飲んでいる。
「今どきラムネって。風呂上がりは、せめてコーヒー牛乳が飲みたいでござる」
「しょうがおまへんがな、宿舎の冷蔵庫にはビールとラムネしか常備されてまへんのや」
そこへ、武蔵も男湯から出て来た。
武蔵は冷蔵庫からビールを取り出すと
「やっぱり、風呂上がりのビールは最高っスね」
と言いながら、ビールをグビグビ飲みだした。
「武蔵、ビールは美味しいでござるか?」
「ウルトラワールドワイドに美味いッス。特に暑い日は最高ッスね」
ーーなんかムッチャむかつく、今すぐブッ殺してやりたいでござるが、昨日は肩車とオンブしてくれたので、がまんするでござるーー
しぶしぶ、虎之助が我慢していると、鬼一のスマホに電話が掛かって来た。
「なるほど了解しました」
電話を切ると鬼一は
「梅田に鬼が出た。今から桜田刑事が迎えに来るので、みんな出動だ」
と、メンバーに伝えた。
鬼一の指示で、左近と岩法師を留守番に残し、他の転生者たちは桜田刑事と梅田に向かうことになった。
「今回も、武蔵と合体技を使うでござる」
虎之助は、また合体する気である。
「僕は、今回は合体しないッスよ」
武蔵は、前回の合体で懲りているようだ。
「ダメでござる、合体するでござる」
虎之助はゴネている。
「姉さんも合体技があるんでっか、奇遇でんなぁ、じつは俺も凄い合体技を開発したんですよ。陰陽道を進化させて、巨大な竜になれるんです」
小太郎が自慢げに言った。
「本当か、凄いじゃないか」
まだ酔が残っている鬼一は、感心しながら小太郎の自慢話を聞いている。
その頃、梅田の繁華街では、数人の鬼が出現して暴れていた。
「羅漢鬼さん、川島さんの迎えが来るまで、目立つことをしては困りますよ。貴方は鬼塚さんの鬼教官として来ているんですから」
よく見てみると、人を襲っているのは羅漢鬼と呼ばれる一人だけで、あとの鬼は止めている様である。
「これだけ騒ぎを起こせば、DSPの連中がやって来るだろう。鬼塚に会う前に、大阪の転生者の実力を見たいのでな」
羅漢鬼は、人を襲うのを止めて辺りを見回した。
そこへ転生者たちが到着した。
「あそこにゴッツイ鬼がおるで」
真っ先に小太郎が羅漢鬼を見つけて、向かって行く。
「ちょっと待てよ。お前、合体技を出すんじゃなかったのか?」
狂四郎が慌てて、追いかけて来きた。
「あっ、そうやった」
小太郎が虎之助のいる方を見てみると、虎之助は、また武蔵と喧嘩している。
「肩車してくれないなら、武蔵、お主を殺すでござる」
「こっちこそ、殺られる前に殺ってやるッス」
虎之助と武蔵は、お互い刀を抜いて、味方同士で殺し合いを始めた。
「あの2人は、もうダメや。しゃーない、今回は、お前で良いわ」
小太郎は合体相手を、狂四郎で妥協することにした。
「えっ、俺は嫌だ」
狂四郎は、キッパリと断る。
「ええから、いくで『友情合体魔竜』」
嫌がる狂四郎に対し、強引に小太郎は合体技をかけた。
『友情合体魔竜』とは、お互いの友情が強ければ強いほど、強力な竜に変身できる合体技である。
小太郎が術を唱えると
プシューと大量の煙が出て来て、2人は煙に包まれた。
煙の中で小太郎と狂四郎は合体し、竜神である夜刀神へと変化して行く。
「やった、成功や」
と、小太郎は喜んでいるが
「いや、ちょっと待てよ。なんか小さくないか」
狂四郎の言う通り、竜神に成ったのは良いが、サイズが、かなり小さく、ヤモリほどの大きさある。敵の鬼が恐ろしく巨大に見えている。
「しもた。俺と狂四郎には友情なんて、これっぽっちも無かったわ。俺とした事が大失態や」
鬼の一人が、こちらに歩いて来る。
「ヤバい、この大きさでは勝ち目はない。小太郎、撤退するぞ」
カサカカサカサと、自販機の裏に逃げて行く夜刀神。
「もう、4人とも何してんのよ!鬼一さん、なんとかして下さい」
あきれた桜田刑事が鬼一の方を見ると
「オエーッ」
路地裏で鬼一が吐いている。
慣れないビールを飲んで、酔っ払って車に乗った為、悪酔いしたようである。
敵を目前にした大阪DSPは、戦う前から壊滅寸前になっているのであった。
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