第120話 加藤の帰還
文字数 2,289文字
「もうわかっていると思うが、君らを呼び寄せたのはワシじゃ」
と言った老人は、和室の中央部に座っていた。
鬼塚と川島は、かしこまって部屋の端で正座している。
「はぁ。それでワシらみたいな者に、士会鬼様が何の御用で?」
士会鬼と呼ばれた老人は
「夜叉が死んだ」
と、伝えた。
「やはり、そうでしたんか。私も何か夜叉さんの魂のようなモノを感じましたんや」
鬼塚は、しみじみと言った。
「それは、夜叉からの知らせじゃ。君を後継者に選んだのじゃ」
「私が夜叉さんの後継者?」
鬼塚は驚いて士会鬼の顔を見た。
ーーうわっ。さすがに、鬼の始祖と言われるだけあって、シワだらけのお爺さんやなーー
などと、夜叉に全く関係ない事を、鬼塚が思っていると
「君らは鬼神に成るのじゃ」
士会鬼は意外なことを言った。
「私たちが鬼神でっか?」
鬼塚は、よく理解できていない。
「私もですか?」
川島も戸惑っている。
「そうじゃ。鬼塚君は夜叉の後継者として、川島君はワシらが与えた試練に合格したので、十分に鬼神の資格がある」
「川島の試練て、何でんねん?」
鬼塚が尋ねた。
「元々、鬼神に近い実力を持っていた川島君に、鬼塚君を鬼神に育てあげるように夜叉が頼んだのじゃ」
「なるほど、そういう事でしたんか」
ーー川島が俺に、うるさく言って来てたのは、そういう理由があったんかーー
鬼塚はスッと立ち上がると
「帰るぞ、川島」
と言い、部屋から出ようとした。
「ちょっと、社長。士会鬼様の前で失礼ですよ」
驚いて川島が止める。
「私は鬼神になるつもりはありまへん。それよりも早く帰って妻の元に行かないとあきまへん。父親を亡くして、きっと悲しんでいるでしょうから」
鬼塚は部屋から出て行こうとした。
「社長!」
ーーまずい、社長が鬼神に成らなければ、私も成れないではないかーー
川島は鬼塚を、追いかけようとした。
白鬼は全ての邪悪なエネルギーを吸い取られしまっていた。
しかし、西王母の方は邪気エネルギーを吸い取られまいと、頑張っている。
「もう、諦めて、西王母さんも邪悪エネルギーを吸い取ってもらいましょうよ」
加藤は、邪気を失くした方が西王母のために良いのでは、と思った。
「嫌よ。そうだ、今のうちに、さっさと白鬼をブチ殺して『久宝蓮華』の術を止めれば良いんだわ」
西王母は、剣を持って白鬼に近づいて行く。
「よくも、やってくれたな西王母」
白鬼も剣を構えて、迎え討つ気である。
ついに、2人が決着をつける時が来た。
しかし、西王母は近づいてみて、あまりにもの白鬼の姿の変わりように剣を下げてしまった。
「アンタ。元は、そんな姿だったの?」
西王母が驚くのは無理もなく、白鬼は華奢な色白の美少年の姿になっていた。
「それが、どうした。かかって来い」
白鬼は強がって言ったが、邪悪なエネルギーを完全に吸い取られて、戦闘能力は普通の少年並みに落ちている。
「西王母パンチ!」
ボコッ!
「くふっ」
白鬼は西王母の右ストレートで、呆気なく倒れた。
「アホの加藤。コイツは連れて帰るわよ」
西王母は、気を失っている白鬼の足を掴んで言った。
「とどめは刺さないのですか?」
疑問に思った加藤が尋ねる。
「もはや、この男は無害よ。とりあえず連れて帰るわ」
「わかりました。でも、西王母さん『久宝蓮華』の術を早く止めないと、まだ邪気を吸い取られてますよ」
加藤の言うとおり、西王母から黒い邪気エネルギーが9個の玉に吸い取られ続けている。
「あわわ。大変、忘れてたわ」
加藤に指摘され、慌てて『久宝蓮華』の術を解除する西王母であった。
鬼塚が部屋から出て行こうとした時
他の鬼が部屋に入るなり、士会鬼に何かを伝えた。
士会鬼は、少し驚いたような表情をして
「鬼塚君、少し待ちなさい」
と、鬼塚を止めた。
「なんですの?」
「君の意見を尊重しようと思っていたが、今しがた事情が変わった。白鬼が鬼神の力を失ったようじゃ」
「えっ、あの白鬼さんが?」
「そうじゃ。西王母と戦いで力を失い、鬼神では無くなったようじゃ」
「まさか」
「もはや君たちに選択権は無くなった。否が応でも鬼神になるのじゃ」
優しげな表情であった士会鬼の顔が、意見を言うことすら、はばかれる程の厳しい形相へと変わっている。
鬼塚は、拒否する事を諦めた。
加藤は久しぶりにDSPの宿舎に帰って来た。
「いろんな事があって疲れたな。今日は、ゆっくりと休もう」
リビングに行くと、皆んなが、そろって夕食を食べているところである。
「あっ。加藤が帰って来たで」
「ホントだ。この野郎、よくも帰って来れたな」
小太郎と狂四郎が、そろって嫌そうに顔をする。
「そう言うな、ワシは今しがた白鬼を倒して来たところなんだから」
加藤は疲れた声で言った。
「えっ、あの鬼神の白鬼をでっか?」
驚いて小太郎が聞き直す。
「そうだ。西王母さんと一緒にだが」
「西王母さんって誰でんねん」
「西王母は、崑崙山に住む伝説の聖女だ」
説明を聞いても、小太郎と狂四郎は、あまり理解できていない。
「しかし、よく白鬼を倒せましたね」
岩法師は素直に感心している。
「そういえば、拙者と岩法師は白鬼に会った事があるでござる」
虎之助は一度、白鬼と戦ったことを思い出して、加藤の顔をじっと見つめた。
ーーこの男が、あの白鬼を倒したのでござるか。ただの馬鹿だと思っていたけど、なかなかの手練でござるなーー
加藤も虎之助の顔をマジマジと見た。
ーーこの娘、ほんとに西王母さんにそっくりだな。外見も似てるが、2人とも変な性格で乱暴者だしーー
2人は、じっと見つめ合っていたが、何故か、そこに愛は生まれなかった。
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