第59話 武蔵vs虎之助
文字数 2,343文字
虎之助は、高級寿司屋でアポロンたちから寿司を奢って貰って、上機嫌であった。
「これは美味い寿司でござるな」
「お嬢ちゃん、ウニもありますよ」
ペガサスが虎之助の接待している間に、アポロンはポセイドンと神波通信で状況を把握しようとしている。
「どうだ、救出できそうか」
アンドロポプが聞いてきたが、やはりガニメデは遠すぎる。
「難しいな。三神の一人であるゼウス様でも、自力では無理らしい」
「そういえば、この娘は一度、火星から帰って来たことがあるんだ」
アンドロポプが思い出した。
「火星からか。ガニメデは、もっと遠いからなぁ」
アポロンは、ため息をつく。
「お主ら、さっきから、なにをコソコソやってるんでござる」
虎之助が、アポロンの様子を怪しみ出した。
「いや、なんでも無いんだ。こっちの話しだ」
慌てて、アンドロポプが誤魔化す。
「そっちの話しで、ござったか」
「そうそう、こっちの話。ところで、もうお腹いっぱい食べたのか」
なんとか誤魔化せたようだ。
「お腹いっぱい食べたでござる。もう、お主らに用は無いので、今から殺すでござる」
と言いながら、虎之助は刀を抜いた。
「待て待て、ちょっと待て。明日はイタリアンを奢ってやるから、刀をしまえ」
あわててアポロンが止めた。
「イタリア料理でござるか」
イタリア料理と聞いて、虎之助は刀を鞘に収める。
「そうだ、食べるだろ?」
「食べるでござる」
「じゃ、詳細は、あとでメールするから」
「承知したでござる」
驚くほど簡単に、虎之助は買収されていた。
その頃、小太郎とグッピーちゃんは、武蔵と険悪な雰囲気が続いていた。
「まあまあ、落ち着いて、お2人さん」
武蔵が、なだめるが、2人の怒りは収まりそうにない。
その時
「グッピーちゃん…」
と、水鬼が蚊の鳴くような声で、助けを求めている。
睨みあっていたグッピーちゃんは、武蔵にメッタ斬りにされた水鬼を見て
「今日のところは、しょうがないから引き上げてあげるわ」
と、重症の水鬼や温羅たちを抱えて、しぶしぶ去って行った。
「あれっ、帰っちゃうワケ〜」
武蔵が残念がっていると。
「あっ、姉さんが戻って来はった」
満腹になったお腹を摩りながら、虎之助が戻って来た。
「お嬢ちゃん、アイツら殺りましたぁかあ〜」
アポロンたちの始末を、武蔵に聞かれた。
「奴ら、逃げ足が早くて、逃げられたでござる。ゲプッ」
げっぷをしながら虎之助は、お腹を摩っている。
「お嬢ちゃんも、意外と駄目ダメっすねえ」
武蔵がチャラく、チャカしてきた。
「こいつ、ムカつくでござる」
虎之助は、自分が買収された事を棚に上げて、非常に気分を害した。
「確かに、武蔵ウザいわ」
「みなさん、そうおっしゃりますね」
武蔵は、ウザがられても、まったく気にしていない。
「武蔵とは、合わんわ」
「拙者もでござる」
文句を言いながら、虎之助と小太郎は宿舎へ帰る事にした。
「もう帰るんす〜かぁ」
「帰るでござる」
「まだ、大阪の街を堪能してない気がしちゃうかもぉ」
「うざいなぁ、一人で堪能しとけや」
小太郎は、武蔵を毛嫌いしている。
「やっぱり、そうなっちゃうワケ。なんか消化不良じゃな〜い。そうだ、お嬢ちゃん、僕と剣術の試合しちゃわない?」
唐突に武蔵が、虎之助に試合を挑んで来た。
「拙者と試合するなど、100ギガバイト早いでござる」
「姉さん、ギガバイトって、単位間違ってまっせ」
小太郎が突っ込む。
「えっ、じゃ、101匹の猫ぐらい、早いでござる」
「意味が、分かりまへんわ。数字も変わってますやん」
「お嬢ちゃん、ひよっとしてバカなのかも〜」
虎之助は、武蔵にもバカにされてしまった。
ブチン
虎之助がキレた。
「この毒入り饅頭を食うでござる!」
ブチ切れた虎之助が、饅頭を武蔵の口に突っ込んだ。
「くふっ」
パタリ、と倒れる武蔵。
「あちゃ、武蔵が死んでもうた」
呆然としている小太郎を尻目に、虎之助はスタスタと歩き出し
「拙者は、もう帰るでござる」
と、宿舎へと帰って行ってしまった。
「ただいまでござる」
宿舎に戻ると、リビングで鬼一と岩法師が、なにやら話し込んでいる。
帰って来た虎之助を見て
「おう、虎之助、お帰り。武蔵はどうした?」
と、岩法師が尋ねて来た。
「生意気言うから、毒饅頭で毒殺したでござる」
平然と虎之助が答える。
それを聞いて、岩法師と鬼一は固まった。
2人の動きが、完全に止まっているので、虎之助は時間が止まったのだと思い込み、確認のため岩法師の頬をつねってみた。
「痛い。何すんじゃ!」
岩法師に怒られてしまった。
どうやら時間は止まっていなかった様だ。
「本当に毒殺したのか?」
心配した鬼一が確認する。
「本当は、睡眠薬入りの饅頭でござる。武蔵にはムカついたけど、殺してはござらん」
「なんだ、そうだったのか、驚いたぞ。まあ、私も平安時代の生まれだから、武蔵の言動には多少なりともイラつく事があるが」
鬼一も、やはり武蔵が苦手なようだ。
「そういえば、岩法師は何時代から、転生して来たのでござるか?」
虎之助が尋ねた。
「実は拙僧は、200年後の未来から来たんだ」
意外すぎる答えに、虎之助と鬼一の動きが止まった。
あまりにも止まっているので、岩法師は時間が止まったのだと思い、確認するため虎之助のほっぺたを、左右に強く引っ張ってみた。
「痛いでござる」
虎之助が怒った。
「すまん、時間が止まったのかと思って」
「時間が、止まるわけ無いでござる」
虎之助は、プリプリ怒っている。
「でも、未来から来たっていうのは、冗談だろ?」
と、鬼一が聞くと
「本当は、鎌倉時代からだ」
すまなそうに、岩法師が答える。
「そうだと思ったでござる」
虎之助は当然のような顔をして、まだ少し怒っているのであった。
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