第134話 魔人対決
文字数 2,275文字
駆け出したポピノヒーは、目の前に手頃な物体を見つけると、山椒鬼に向かって高速で投げつけた。
「お主を半殺しにして、無理やりにでも拙者の芝居を見せるでござる」
投げられた物体は、またしてもケヴィンであった。
ーー我ながら、素晴らしいビッチングで投げれたでござる。おそらく音速は超えているはずーー
ケヴィンはポピノヒーの予想通り、音速を超える速度で山椒鬼に飛んで行く。
パスッ
しかし、山椒鬼は上手くケヴィンをキャッチして、そのまま大リーガー並みの完璧なフォームのピッチングで投げ返してきた。
もはや物理学的に、ありえない程のスピードで、ケヴィンは飛ばされたが、ポピノヒーにぶつかる寸前でパッと消えた。
「うわっ!消える魔球でござる」
驚くポピノヒー。
「いや。スピードが光速を超えたんで、時空の壁を突き破ってしまったんだろう」
加藤が物理学的に解説する。
「まさか光速を超えるとは。ピッチング対決は、拙者の負けでござる」
ガクッと、うなだれるポピノヒー。
「あれほど完璧なピッチングが出来るとは、日本ハムに奴が入団すれば来年は優勝できるやもしれん。それにしても、やはり鬼神は侮れんな」
加藤の額に、冷や汗がにじむ。
一方、山椒鬼は
「光速を超えてしまうとは、ちょいと本気を出し過ぎたかな」
と、右肩を回しながら、余裕の表情である。
圧倒的な実力を見せつけた山椒鬼であった。
その頃、燕鬼と戦っているコールド猫座右衛門は
スパー
と、アイコスを吸いながら、くつろいでいた。
「やっぱ、アイコスって充電が面倒くさいんだニャ」
「そんなの吸ってないで、戦うッスよ」
武蔵に急かされても、くつろぎ続けているコールド猫座右衛門。
「変な奴を召喚しやがって。だが俺様は、もっと変な奴を召喚できるぞ」
妙なところに対抗心を持った燕鬼は、呪文を唱えて、自分も魔人を召喚した。
現れたのは、小太りで冴えない容貌の魔人である。
「魔人よ、奴らを倒すのだ」
「了解したのだ」
燕鬼に指示され魔人が、こちらに歩いて来る。
「変な奴が来たっすよ」
「なんかウザそうな奴だニャ」
2人は一応、警戒している。
「俺は『とにかくウザい秋山』だ。ウザったさでは右に出る者は居らん油の魔人なのだ」
と言って、身体中から油を出し始めた。
「あいつ、体から油を出してるっスよ」
早くも武蔵はウザがっている。
「俺の油をくらうのだ」
とにかくウザい秋山は、口から油を吹き出した。
「うわっ、ウザっ」
咄嗟に避ける武蔵。
「フギャ!」
しかし、コールド猫座右衛門は、油をまともに浴びてしまった。
「大丈夫ッスか?っていうか、少しは敵の攻撃を避けたらどうなんスカ?」
「大丈夫じゃ無いニャ!これは、そうとう質の悪い油だニャ」
油まみれになったコールド猫座右衛門は、油を舐めながらも怒っている。
「俺の油は最低品質なので、料理にも燃料にも使えないのだ」
なぜか威張っている、とにかくウザい秋山。
「とんでもなく使えない、ウザい魔人だニャ」
「たしかに。奴に比べれば、コールド猫座右衛門の方がマシっスね。山椒鬼、恐るべしッス」
燕鬼の召喚能力の高さに、驚愕する2人である。
変な魔人召喚対決は、燕鬼の圧勝であった。
光速を超えた為、異空間に突入してしまったケヴィンは、できる限り元の場所と時間に戻ろうと、感覚を研ぎ澄ましていた。
ーー羅刹といい山椒鬼といい、鬼神のパワーは凄まじいな。とにかく、元いた場所に戻らなくてはーー
ケヴィンは魔力を使って空間移動を行った。
「なんだ、お前は?」
スーツを着た上品な男が驚いている。
正確に戻ることが出来ず、ケヴィンは、どこかのオフィスの一室に出てしまったようだ。
「なんや君、裸やないかい」
なんとそこは、日本テクロノジーコーポレーションの社長室であった。
仕事の打ち合わせをしていた鬼塚と川島は、驚い表情でケヴィンを見ている。
「驚かせてしまって、すいません。僕はケヴィンと言います」
まずは、謝罪して名乗るケヴィン。
「なんや事情がありそうやな。とりあえず、これでも着とき」
鬼塚は、ロッカーからトレーニング用のジャージを出してケヴィンに渡した。
「ありがとうございます」
ジャージを着ると、川島から、こうなった経緯を聞かれケヴィンは正直に今までの出来事を話した。
「なるほど。ボルデ本山はんに召喚されて、鬼神の羅刹と戦ってたんか」
横で聞いていた鬼塚がつぶやいた。
「ボルデ本山の旦那を、知っているのですか?」
「知ってるも何も、本山はんを召喚して蘇らせたのは俺や」
鬼塚は得意げに言った。
「そうだったのですか」
「一緒にロシアにも行ったしな。ほんで本山はんは元気にしとるか?」
「いえ。それが、山椒鬼って鬼神に殺されてしまったんです」
「奴は残忍やからな」
「山椒鬼の事も知っているのですか。貴方はいったい何者なんです?」
「俺ら2人も一応は鬼神なんや。でも、心配せんでも良いで、山椒鬼は俺も嫌いやさかい」
「鬼神でも派閥があるのですか?」
「そんな大したもんじゃ無いけど、山椒鬼や羅刹なんかは過激なグループやな。俺らは、平和主義者やから争い事には関わらないようにしてるねん」
アイコスを吸いながら鬼塚は言った。
「そうなんですか。しかし僕は、どうしてもボルデ本山の旦那の仇を取りたいのです」
「気持ちは、わかるが。君の話を聞くかぎり、山椒鬼のことはDSPの連中に任せといた方が良えんちゃうか。きっちり殺してくれるやろう」
「でも…。たぶん、あの連中は馬鹿ですよ」
ケヴィンは、DSPのメンバーを思い浮かべながら、不安げに呟くのであった。。
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