第9話 金鬼vs虎之助
文字数 2,365文字
黒瀬は若林を連れて、転生者の侍と僧侶を探していた。
黒瀬が一般の鬼にも指示を出し、街中の情報を集めていると、それらしき男が大阪府警の近くにある公園に居るとの情報を得た。
2人は、さっそく公園へと向かう。
目的の男は、公園内で竹刀の素振りをしているところであった。
「若林、やつは確か転生者の侍だ。牛鬼の力を試して来い」
若林の両手が、金属のような巨大な爪へと変化していく。
「わかりました、行って来ます」
剣の鍛錬をしていた左近は、背後に鋭い殺気を感じると、竹刀を捨て真剣に持ちかえた。
「何者だ?」
背後に牛鬼となった若林がいる。
「悪いが死んでもらう」
若林の左爪が左近の心臓を狙って伸びて来る、左近は左へ体をかわし爪を避けた。はずであったが、爪も左に曲がり、しつこく心臓を狙う。
左近は刀で爪を斬ろうとするが、固くて斬れない。
「これはマズい」
左近は若林に向かって走り、頭部に素早く刀を振り下ろすが、右爪で防がれた。
その瞬間、左近に向かっていた左爪が、背中に刺さった。
「しまった!」
膝をつく左近に、容赦無く両爪が襲い、左近の心臓を貫いた。と、若林が思った時には、左近の姿は消えていた。
「逃げられたな」
黒瀬がつぶやいた。
「やつは、どこに?」
若林は辺りを見回している。
「今日は、もう良い。始めてにしては上出来だ、社長も満足されるだろう」
黒瀬と若林は目的を果たし、日本テクノロジーコーポレーションへと引き上げて行った。
コンビニで小太郎にお菓子を買ってもらった虎之助は、少しずつ機嫌が治ってきていた。
「姉さん、もうそろそろ宿舎に帰りましょう」
「そうでござるね、帰って晩ごはんを食べるでござる」
「いや、夕食には、まだ早いと思いますけど」
川沿いのベンチに座り、2人で街並みを眺めながら、コンビニで買ったアイスクリームを食べていた。
そんな、虎之助と小太郎の様子を、少し離れた所から1人の男が見ていた。
ーー商店街のコンビニから付けて来たが、美味そうな娘だ、ゆっくり味わって喰ってやる。それにしても人気の無い川辺に来たのは好都合だ、まずは邪魔な男を始末してから娘を喰うかーー
男は大きな一本角が頭部にあり、全身が金色の金鬼の姿へと変化した。右手には大きな金棒を持っている。
金鬼は、持っていた金棒を、高速で小太郎に目掛けて投げつけた。
ガキーン!
小太郎の刀が金棒を払い落とす。
「何者や!」
小太郎たちが気づいた瞬間、小太郎は金鬼に殴り飛ばされた。
「うへぇー」
小太郎は、吹っ飛んで行った。
「くせ者でござるな」
虎之助の刀が金鬼の首を斬る。
カキーン!
しかし、金鬼の首は切れず、なんと虎之助の刀が折れた。
「俺は金鬼。刀ごときで、俺の身体に傷を付けることは出来ぬ」
金鬼は右腕を虎之助に向けて振り下ろす。
ーーとりあえず、腕の一本でも潰しておくかーー
「刀で斬れないとは、面倒くさいでござるね」
虎之助は金鬼の腕を軽くかわし、手刀を金鬼の首に向けて振りきった。
ーーこの攻撃は、なにかヤバいーー
金鬼は、とっさに後方に飛び両手で首をガードする。虎之助の手刀は届いていない、首は無事だ。
「そんな、やわな手刀で俺の首は切れぬわ」
そう言いながら金鬼は、虎之助を殴りつけようとしたが、金鬼の両腕が無くなっていた。
「あれ?」
金鬼が下を見ると、地面に自分の両腕が落ちている。
首をガードした両腕が、切り落とされたようだ。
ーーなんの腕など、すぐに再生するーー
金鬼が両腕を再生しようとすると、ズバッ!と音がして、急に視界が逆さまになった。
ドサッ!
金鬼の上半身が地面に落ちた。
虎之助の手刀が金鬼の胴体を、ぶった斬ったのである。
「なぜ、鋼鉄よりも硬い俺の身体が斬れるんだ!」
「唐沢家忍術『手刀かまいたち』でござる。斬れぬ物は、無いでござる」
ーーこいつ、化物だ!ーー
金鬼は急いで両手を再生し、足の代わりに手で走って逃げた。
「おーい!下半身を忘れてるでござるよ〜」
虎之助の声が聞こえたが、金鬼は持てる力を全て両腕に使って必死に逃げた。
あんな化物と戦ったら、殺される!
金鬼は恐怖にかられ、無我夢中で逃げ続けた。
虎之助は逃げた金鬼にかまわず、倒れている小太郎に駆けより
「小太郎、大丈夫でござるか?」
と、小太郎を抱き起こす。
「うっ、すいません姉さん」
起き上がろうとした小太郎であったが、転生する前は、ほとんど女性と接する機会が無かったため、可愛らしい女の子に抱き起こされてみると、もう少し、このままでいたいと思ってしまい
「頭を打ったみたいで、少し休むと治まると思うのですが」
と、嘘をついてしまった。
「小太郎は、まだまだ未熟でござるな」
虎之助に膝枕をしてもらって、小太郎は幸せであった。
「さっきの鬼は、どうなりました?」
「あの金鬼という奴は、下半身を置いて逃げたでござる。両手で器用に走って行くとは、なかなか面白い鬼でござる」
「えっ、金鬼って、かなりの大物ですやん。姉さん、よく倒しましたね」
「たしかに、今までの鬼とは違ったでござる。斬ろうとしたら、刀が折れてしまったでござる」
「刀なしで、どうやって倒しはったんです?」
「拙者は元々、忍者でござるよ、もちろん忍術でござる。でも、忍術は気と体力を使うから、刀で斬り殺した方が楽でござる」
「へえ、そういうもんなんですか」
「それより小太郎。まだ、起き上がれないでござるか?」
返事が無い。
「小太郎?」
小太郎は、眠っていた。
まだ18歳である小太郎は、虎之助の外見は別として、実際にはDSPで一番若く、まだ、あどけなさが残っている。
虎之助と出会う前から、凶悪な鬼と戦い続けており、精神的にも疲れていたのかも知れない。
「しょうが無いでござるね」
虎之助は、しばらく小太郎を膝枕で寝かしてあげる事にした。
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