第24話 小太郎見参
文字数 3,857文字
「姉さん、このアビレックスの、MA1ジャケットとかどうですやろ?」
「なかなか丈夫そうなジャンバーでござるな」
虎之助は小太郎を連れて、ジャンバーを買いにアメリカ村まで来ていた。
「こっちの、リアルマッコイのジャンバーの方が、生地が良さそうでござる」
「姉さん、それは高級品でっせ。軍隊でも大佐クラスでないと着れない代物や。我われの様な一兵卒は、アビレックスかアルファ社のジャンバーでっせ」
「拙者たちは軍隊でいえば、二等兵でござるからなぁ」
「あっ、でも、このダウンジャケットも暖かそうでっせ」
「これは軽くて、動きやすいでござるな」
虎之助は、ダウンジャケットを試着してみた。
「姉さんは、なに着ても似合いまんなぁ」
「拙者のスタイルの良さは、アメリカの大統領も怯えて第七艦隊を緊急出動させるレベルでござる」
「米軍を出動させるとは、さすがは姉さんでんなぁ」
2人はゲラゲラ笑い出した。
「あれっ!姉さん、ちょっと、あそこ見て下さい」
「なんでござるか」
小太郎が指さす方を見ると、狂四郎と桜田刑事が手を繋いで歩いている。
「アホカップルで、ござるな」
「あの2人、やっぱり付き合ってたんやな」
「今日はすいません、僕の買い物に付き合ってもらって」
狂四郎は照れながら、お礼を言った。
「良いのよ。私も今日は、ちょうど暇だったから」
楽しそうにショッピングをしている狂四郎と桜田刑事のあとを、付けている2人組の男がいた。
牛頭と馬頭である。
「あいつらがDSP[デビルスペシャルポリス]の刑事と転生者か、なんか恋人同士に見えるな」
馬頭がそう言うと
「ムカつく奴らだ、早くぶっ殺そうぜ」
いかつい外見の牛頭は、カップルが嫌いなようだ。
「まあ、待て。ここは人が多すぎる」
「俺は、こういう華やかな所で仲良くしているカップルを見ると、ムカつくんだ」
「それは、モテないお前のひがみだろ?」
「いや、そんな事ないぞ。俺だって若い頃は結構モテたぞ」
「若い頃って、お前まだ28歳だろ。普通なら男が一番モテる時期だぞ」
「あっ、アイツら路地に入ったぞ。まさかホテル街に行くつもりじゃないだろうな?」
「別に行っても良いじゃねえか。それより、路地なら殺るチャンスだぞ」
路地に入った瞬間、狂四郎は殺気を感じた。
「桜田さん、下がって!」
「どうしたの?」
不思議がる桜田刑事をよそに、狂四郎は敵にそなえて構えている。
「ほう、さすがに転生者だな。我らの気配に気づくとは」
牛頭と馬頭が、姿を現した。
「お前が殺気を出しすぎるんだよ」
馬頭は不服そうである。
「仕方ないだろう、俺はコイツらみたいな仲良しカップルが大嫌いなんだ」
ーー鬼どもが、タイミングの悪い時に出て来やがって。ここは、なんとしても桜田さんだけは守らないとーー
「新田家仙道、殻竹割り!」
狂四郎が、いきなり仕掛けた。
踵落としの様な狂四郎の技を、両手を十字の形にして受け止めた牛頭は、右ストレートを顔面に叩き込もうとしたのだが、急に胸を押さえてうずくまった。
「この野郎。俺の心臓を、えぐり取ろうとしやがった」
「ちっ、しくじったか。心臓を取りそこねた」
悔しがる狂四郎。
「なかなかやるな。踵落としはフェイントか」
馬頭は金棒を振り回しながら近づいて来る。
牛頭も胸の傷が回復し、立ち上がって来た。
「ぶっ殺してやる!」
ーー桜田さんを守りながら、この2人を相手にするのはキツいーー
「げふっ!」
馬頭の金棒に気を取られているスキに、牛頭のボディブロウを喰らってしまった。
腹を押さえて、うずくまる狂四郎を尻目に、牛頭は桜田刑事に向かって行く。
「俺は女を喰うのが大好きなんだ」
「逃げろ!桜田さん!」
「お前は、俺が相手してやる」
狂四郎には、馬頭が金棒を振り回しながら向って来る。
「お前は、ほんとにタコ焼きが好きだなぁ」
ライアンとマーゴットは、アメリカ村の公園でタコ焼きを食べていた。
「あっ、あの若いカップル、前に大阪城公園にいたDSP[デビルスペシャルポリス]のアホ2人じゃん」
虎之助と小太郎が、仲良くショッピングしている。
「どうする、殺っちゃう?」
「いや待て、良く見ろ。アホ2人組の後ろにいる男」
大男が2人を付けている。
「デカい男が、いるわね」
「『国際電器保安協会』ロシア支部のアンドロポプだ。奴は凶暴で非常に危険な男だ」
「なんで、そんな奴が日本に?」
「それはわからんが、奴は街中でも切れたら暴れるヤバい男だ。俺たちは厄介事に巻き込まれないように、離れて見ておこう」
「そうね。私もこんな街中で、騒ぎに巻き込まれるのは嫌だわ」
ライアンとマーゴットは、アンドロポプに見つからないように、離れて傍観することにした。
チャッピーは『奈良鬼連合団体』の鬼武者たちに案内されて、奈良の飛鳥に来ていた。
「ここに、左近という大阪DSPのリーダーがいるのか」
ボデイを修理して万全のコンディションのチャッピーは、鬼塚から前回の汚名返上のため、リーダーの左近を抹殺する指示を受けていたのである。
「奈良にも手練の鬼が居るのに、こんな所で修行したがって、ふざけた野郎だ」
奈良の鬼武者も憤慨しているようだ。
「チャッピー、左近を見つけしだいぶっ殺す」
スマホで指示を受けていた鬼武者の一人が
「左近の居場所がわかった。みんな行くぞ」
と皆に伝えると、チャッピーと鬼武者たちは車に乗り込み、左近の元へと向かった。
当の左近は、相変わらず一人で陰陽師の修行をしていた。
熱心に修行に励んでいる為、安部顧問と同格か、それ以上に上達した気がする。
そこへ、チャッピーと鬼武者たちがやって来た。
「鬼どもか。ちょうど腕試しをしたいと思っていたところだ」
厳しい修行をしたせいか、左近には余裕がある。
「アイツが左近だ、殺っちまえ!」
号令と共に、鬼とチャッピーが襲いかかる。
しかし、以前の左近ではない。オロチや天狗・河童・巨大武者と、あらゆる式神を出して迎え撃つ。
式神が鬼武者たちの相手をしているスキに、チャッピーが凄まじい速さで左近に襲いかかった。
左近は刀をかまえ、チャッピーの首を狙う。
ガキィン!!
金属音と共に、チャッピーの首がボトっと地面に落ちた。
「グフっ」
同時に左近も膝をついた。腹部には深々とチャッピーの手刀が突き刺さっている。
「待ってろ、とどめを刺してやる」
チャッピーは左近の腹部から手刀を抜くと、自分の首を拾おうとした。が、急に動きが止まり、全身が土色に変化して行く。
「土遁の術だ。土に還れ」
左近はチャッピーの首を切り落とすと同時に、術をかけていたのである。
チャッピーの身体は砂へと変わり、サラサラと崩れ出し砂の塊となって行く。
その間に鬼武者たちは式神にやられて、ほぼ壊滅状態になっていた。残った数名の鬼武者も逃げて行ったようである。
なんとか鬼を撃退した左近であるが、自身も腹部に致命傷を負って、その場に倒れ込んでしまった。
「見事だ左近。これ程の腕前になるまで、よく修行したな」
いつの間にか、阿倍仲麻呂が側にいた。
「ああ、満足だ」
仰向けに倒れながら左近は、つぶやく。
「だが、お前はこの程度で満足してはならぬ。私と共に鬼神以上の存在になるのだ」
「なれるのか?」
「なれる。だが、このままでは、お前は死ぬ。今なら全てを捨て去る事が出来るだろう」
「そりゃそうだ」
なぜだか、左近は阿倍仲麻呂の言葉に納得し、眠りについた。
火星では、『太陽系暗黒大魔王』こと助清と娘のパクチーが、屋台を作っていた。
「あのう、ちょっと聞いてもよろしいですか?」
火星人の間では『太陽系暗黒大魔王』が、火星の住民であるタコを材料にしてタコ焼き屋を始めると噂されており、みな恐怖していた。
銅鬼は火星人たちの事を心配して、タコ太郎と一緒に確認しに来たのである。
「なんでヤンスか?」
「タコ焼き屋を始めると聞いたのですが?」
「ワスは、そのつもりだったでヤンスが、パクチーに大反対されて辞めたでヤンス」
「では、この屋台は?」
「今、流行のタピオカミルクティーを売るですぅ」
パクチーは、売る気まんまんである。
「そういえば確か、私が地球に居た頃にも、タピオカミルクティーは流行ってましたね」
「火星でも、流行るはずですぅ」
タコ太郎は、タコ焼きでは無くタピオカミルクティーの屋台だとわかり、安心して喜んでいる。
「みんなにも勧めておくでチュー」
「ありがとうですぅ」
とりあえず、火星人の脅威は去った、と思われた。
「ところで、君が連れているタコだが、なにやら美味そうでヤンスね。ワスはタコ焼きが大好物なんでヤンスが」
助清は、舌なめずりしながら、タコ太郎を凝視している。
「では、私たちは、これで」
銅鬼は、慌てて、タコ太郎を連れて屋台から立ち去って行く。
「助清は、なんだか怖いでチュー」
タコ太郎は怯えている
「あの男とは出来るだけ、関わらないようにしよう」
「その方が良いでチュー」
いずれ『太陽系暗黒大魔王』と対決する日が来ることを、銅鬼は覚悟するのであった。
「天才剣士、小太郎、見参!」
ガチャッ!
いきなり飛び出て来た小太郎が、馬頭の右腕を叩き斬った。
馬頭の右手が、金棒ごと地面に落ちる。
絶体絶命のピンチであった狂四郎に、小太郎が加勢に現れた。
「助かったぞ小太郎。虎之助は一緒か?」
「俺、一人だ!」
ーーええッ、コイツ一人かよ!一瞬助かったと思ったが、アホの小太郎と俺だけでは、この2人の鬼を倒すのは無理だ!!ーー
狂四郎のピンチは、まだまだ続くのであった。
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