第49話 ぬらりひょんでござる
文字数 2,711文字
大阪鬼連合団体では、いつものように高層ビルの最上階で、定例カンファレンスを行っていた。
議長は毎度ながら鬼塚で、補佐は川島である。
「今日は、良いお知らせと、よくないお知らせがあります」
鬼塚の、現状報告からカンファレンスが始まる。
「では、よくないの方からお願いします」
カンファレンス参加している若い男が言った。
「えっ、そっちから言うの?」
鬼塚が驚いている。
「ダメですか?」
「ダメじゃないんやけど、時系列的には、良いお知らせが先なんや」
「それでも、かまいませんよ。よくない方から、お願いします」
「じゃ、よくない方から言うけど、国際電器保安協会のアポロンに逃げられてしまいました」
「なるほど、そういう事でしたか。よくわかりました」
なぜだか、カンファレンスの参加者たちは、みんな納得している。
「良いお知らせは、国際電器保安協会のヘラクレスを、グッピーちゃん率いる処刑鬼隊が見事に処刑しました」
「それは素晴らしい成果ですね」
参加者たちは、感心して喜んでいる。
「そして、その後にやって来たアポロンっていう奴に全員、半殺しにされました」
「相変わらず、弱いですねぇ」
「と、言うわけや」
鬼塚は、話を締める。
「それで、アポロンはどうして逃げたんですか?」
「それは、あまり言いたくないねんけどなぁ」
「じゃ、言わなくても良いです」
「いや、聞けや!」
鬼塚は、キレかけた。
「どうせ、DSP[デビルスペシャルポリス]の小娘にやられて逃げたんでしょう」
「なんで、知ってるんや?」
ズバリ言い当てられたので、鬼塚は驚いている。
「なんでって、いつものパターンですから」
ーーこっ、これが、いつものパターンやったんかぁ〜。そういえば、毎回あの小娘にやられていた様な気がする。薄々は気付いていたんやが、みんなは知ってたんやなーー
鬼塚が、今更ながら、なにか大切なことに気付いて苦悩していると
カチャ
会議室のドアが空いた。
「ゴメンやっしゃ」
と、言いながら、和服を着た小柄の老人が、会議室に入って来た。
「アンタは『ぬらりひょん』やないか。なにしに来たんや?」
この『ぬらりひょん』と呼ばれる老人を、鬼塚は知っているようである。
「お主らが、DSPや国際電器保安協会に手を焼いていると聞いて、助けてやろうと思ってな」
「いえ、けっこうです」
鬼塚はキッパリと断った。
「なんじゃと。ワシは妖怪の総大将じゃぞ」
即効で断られたのでは、老人は憤慨している。
「議長。一応、話しを聞いてみたらどうです。妖怪の総大将なら、かなりの戦力になるのではないでしょうか?」
カンファレンス参加者たちは、話も聞かず断るのは惜しいと思い提案してきた。
「『ぬらりひょん』が妖怪の総大将っていうのは、アニメや漫画での話しや。こんな死に損ないの糞ジジイが実際に戦力なんかに、なるかいな。アホなことを言うな」
「そうなんですか」
「漫画だけでなく、実際にワシは総大将なんじゃ!」
鬼塚の言いように、老人は激怒している。
「黒瀬。このジジイを、つまみ出せ!」
鬼塚が黒瀬に指示した。
「えっ、私が?」
カンファレンスに出席していた黒瀬は、いきなりふられて戸惑ったが、仕方なく
「お爺さん、とりあえず外に出ましょう」
と、『ぬらりひょん』を会議室の外に誘導しようとするが
「なにをするんじゃ、この若造が」
黒瀬の手が肩に触れると『ぬらりひょん』は、怒って殴りかかって来た。
「止めて下さい」
攻撃をかわしながら黒瀬は『ぬらりひょん』を、なだめる。
ガツン!
しかし、かわしたハズのパンチが異様に伸びて反転すると、後頭部に直撃して、黒瀬はそのまま気を失ってしまった。
「こんな若造では、ワシの相手にならんわい」
『ぬらりひょん』は、倒れている黒瀬に向かって言い放った。
ーーなんやぁ、鬼武者の中でも最強クラスの黒瀬を、簡単にやっつけおった。このジジイ本当に強いんやーー
鬼塚は唖然として『ぬらりひょん』を眺めている。
「気分を害したわい。ワシは、もう帰る。こんな所には二度と来んからな」
『ぬらりひょん』は怒りながら、扉を開けて出て行こうとした。
「ちょっと待って、おくんなはれ」
あせった鬼塚が、今さらながら引き止めに入る。
「なんじゃ」
「申し訳ない。実は、アンタを試してたんや。最近は、実力も無いのに勘違いして来る奴が多いさかい、芝居をさせてもろたんや」
鬼塚は、バレバレの嘘をついて『ぬらりひょん』を引き止めようとした。
「そんな勘違いした奴、来ましたっけ?私は聞いた事が無いですけど」
会議に参加していた若い男が、不思議そうに言った。
「お前は、黙っとけ!川島、この若造をメキシコ湾に捨てて来い!」
鬼塚は、キレながら川島に指示する。
「えっ。南港じゃなくてメキシコ湾ですか?ちょっと遠すぎませんか?」
ビックリして、川島が聞きなおす。
「遠い方が良いんや、ゴビ砂漠でも良いで。できれば月の裏側あたりが一番、いいねんけどな」
「えっ、ダークサイドムーンですか?」
さらに、川島が驚く。
「そうや。こういう奴は、出来るだけ遠くに捨てて来ないと、いつの間にか戻って来るんや」
と、鬼塚が、なんだか良く分からない理屈を説明していると
「もう良い。ワシも始めから芝居だと分かっていたわい」
意外なことに『ぬらりひょん』は、鬼塚のバレバレの嘘を、信じて機嫌を直している。あまり頭は良くないようだ。
「さすが、妖怪の総大将でんなぁ。芝居って事がバレてましたんや、かないまへんわ」
冷や汗を、かきながらも鬼塚は誤魔化す。
ーー『ぬらりひょん』が阿呆で良かったーー
鬼塚は、ホッとした。
「では、ワシがDSPと国際電器保安協会の奴らを、始末してやろう」
自信ありげに『ぬらりひょん』は、自分の顎髭を撫でている。
「たのんまっせ」
「ただ、一つ条件がある」
「なんでっか?」
「ワシら妖怪は、戦闘力は高いんじゃが、最近の都市開発で住む所が減ってきてのう。とりあえず、どっか適当な住処を提供してくれんか」
ーーなるほど。都市開発で住処を失った野生動物が、街に出てくるのと同じ原理やなーー
なぜ『ぬらりひょん』がココに現れたのか、鬼塚は納得した。
鬼連合団体は鬼が経営する企業の集まりである。
当然のことながら、土地や資金も豊富に所有しているのである。
「そやったら、ウチらが所有している土地を貸しますわ。遠慮なく住んでもうて結構です」
「そりゃ助かるわい」
『ぬらりひょん』は、嬉しそうである。
ーー思わぬ戦力が手に入ったわ。あいつらは妖怪やから鬼とDSPとの休戦協定も関係あらへんし。とりあえず、あのムカつく小娘をブッ殺してもらおうーー
一人、ニヤつく鬼塚であった。
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