第29話 リンゼイ老師VS虎之助 前編
文字数 4,052文字
リンゼイ老子たちが宿泊している大帝国ホテルの一室に、阿部仲麻呂がやって来た。
「アンタの望み通り、DSP[デビルスペシャルポリス]の安倍を殺って来たぞ」
「さすがじゃ、やることが素早いのぉ」
阿部仲麻呂の対応の早さに、老子は満足した。
「では、約束どうり、アンタたちの情報を貰おうか」
ソファに座ると阿部仲麻呂は、堂々とくつろいでいる。
リンゼイ老子はタブレットを渡しながら
「好きなだけ見るがよい。ただし持ち出しは禁止じゃ」
と、断わった。
「俺たちの同士討ちを防ぐ為に見るだけだ。しかし、アンタら世界中に支部があるなぁ。全部、覚えるのに少し時間がかかる」
「ところで、お前さん。半分はDSPの左近なんじゃから、ワシらにDSPの情報をくれんか?」
「どんな情報だ?」
タブレットを見ながら阿部仲麻呂が、興味なさそうな返事をする。
「DSPの、若い娘の事なんじゃが?」
「ああ、虎之助か」
「その娘の情報が欲しいのじゃが、どのぐらい強いのかもな」
「元は忍者だ。自分では、史上最強の忍者だと言っていたな。なにかの手違いで、妹の姿で転生してしまったらしい」
「珍しいケースじゃな」
「なんでも、5万年に一人の逸材らしい」
「やはり、それほどの手練じゃったか」
「忍術・剣術は超一流で、陰陽道も少しは使えるらしい。今はタヌキの式神を使っている」
「やっかいな相手じゃな」
「そうだ。あと妹はDカップだったが、転生した自分はAカップしかないと嘆いていたな」
「その情報は、いらん」
しばらくパソコンを見ていた阿部仲麻呂は、あることに気がついた。
ーーやはりそうか、国際電器保安協会とは、奴らの作った組織だったのか。敵にまわさずに正解だったなーー
恐ろしい事実に気付いた阿部仲麻呂は、鬼とDSPに同情すら感じるのであった。
夕食時の千日前で、30代の男が、青いセーラー服を着た少女と一緒に高級蟹料理屋で夕食を食べていた。
「モグモグ。これは、なかなか美味い蟹でござるな」
虎之助は、ご馳走を前にして機嫌が良い。
「そりゃ、そうですよ。今回は奮発しましたから」
ーーちょっと痛いが、数万円で命が助かったと思えば安いもんだ。それにしても、こいつ何故まだポピリンの姿なんだ?ーー
「モグモグ、ところで黒瀬。阿部仲麻呂とは何者でござる?」
「さあ。我われ鬼連合団体も調べているんですが、はっきりした事は、わかっていません」
「安倍顧問を殺したのは、阿部仲麻呂でござるな?」
「たしか、若林がそう言ってましたね」
「なるほど。では、次回は海老料理を奢るでござる」
「えっ、今日の蟹料理で、この前の埋め合わせは済んだんじゃ」
「なにふざけた事を言ってるでござる!さては、拙者が魔法セーラー戦士ポピリンだからって、舐めているでござるな!」
魔法セーラー戦士ポピリンは怒り出して、短刀を黒瀬の首に突きつけた。
「とんでもない、舐めてませんよ。わかりました、次は海老料理を奢りますから」
しぶしぶ、奢る約束をさせられる黒瀬であったが、なぜ、自分が魔法セーラー戦士に脅されなければいけないのか、理解はできなかった。
翌日、安倍康晴と鬼一は大量の式神から情報を集め、阿部仲麻呂と左近の居所を探っていた。
「この大帝国ホテルから、左近が出て来たようですよ」
鬼一は、自分の得た情報を安倍に伝える。
「奴は、ここに泊まっていたのか、それとも誰かに会いに来たのか」
「ヤモリからの報告では、ここの21階に数日前から怪しいインド人が3人で宿泊しています」
「どこが怪しいんだ?」
「高級ホテルに泊まって居ますが、警察と公安のリストには載っていません、おそらく偽名でしょう。『国際電器保安協会』の可能性があります」
「左近と国際電器保安協会が繋がっているのか?」
「それを調べるために、とりあえず、そのインド人の部屋に行ってみましょう」
2人は、ホテルを調べる事にした。
その頃、虎之助と小太郎もタヌキの式神を使って左近の行方を追っていた。
「姉さんのタヌキの式神は、優秀でんなぁ」
「式神は、出した術者の能力によって性能が変わってくるでござる」
「じゃ、姉さんは、優秀な能力の術者という事に、なりまんなぁ」
「そうでござる。拙者の能力は、レオナルド・ダ・ヴィンチ並の高さでござる」
「すんまへん。その、レオナルド何とかさんって人、知りまへんので、ダンゴ虫で例えてみてくれまへんか」
「えっ、ええっと、それじゃ、拙者の能力は、ダンゴ虫並でござる」
「へえ、そうでっか。あれっ、タヌキがあのホテルに向かって行きまっせ」
「高級そうなホテルでござるな。拙者たちの服装では、入りづらいでござるね」
虎之助はMA1ジャケットにスカートで、小太郎はダウンジャケットにジーンズという、ラフな服装である。
「姉さん、あの2人は、安倍顧問の弟さんと新しい顧問とちゃいまっか」
小太郎が、大帝国ホテルに入って行く2人を見つけた。
「拙者たちも、一緒に行くでござる」
虎之助と小太郎は、ホテルに向かって走り出した。
安倍康晴と鬼一が、ホテルの一階ロビーでエレベーターを待っていると。
「待つでござる、拙者たちも行くでござる」
と、虎之助と小太郎が走って来た。
ーーコイツは、兄が警戒していた転生の経路が不明な娘だーー
安倍は警戒するが、ここまで来てしまったのなら仕方ないと、あきらめ。
「では、付いて来てくれ」
と、不本意ながらも、一緒にエレベーターに乗り、21階へと向かった。
「2101号室に、あやしいインド人の3人組が宿泊しているので、今から調べに行くところだ」
安倍が、虎之助と小太郎に状況を説明する。
エレベーターが21階に着くと
「アハハハ………」
と、急に虎之助が笑い出した。
「どうしたんだ、何がおかしい?」
安倍と鬼一が驚くと、なぜか小太郎が焦って
「すんまへん。姉さんは、時々おかしくなるんです」
とりあえず、適当な言い訳をして誤魔化すことにした。
ポカっ!
「いてっ!」
しかし、虎之助に頭を殴られた。
「おかしくなって無いでござる。こんな時の為に編みだした、拙者の必殺技を出すでござる」
虎之助は銀のお盆を取り出すと、一瞬でメイド少女戦士マリリンへと変身した。
黒ベースで、白いエプロンとフリルの付いたメイド姿である。
さらに、銀のお盆には、いつの間にか、アイスコーヒーが3つ並んでいる。
「もし『国際電器保安協会』の者だったら、メイド姿で油断させて、この毒入りアイスコーヒーで毒殺するでござる」
メイド少女戦士マリリンは、自信まんまんに言った。
「さすが姉さん、やる事が過激でんなぁ」
小太郎は一人で感心している。
「君は、大変な勘違いをしているぞ」
鬼一が、メイド少女戦士マリリンに指摘して来た。
「なにを、でござるか?」
「日本のホテルには、メイドはいないぞ」
「居ないのでござるか?」
「普通は居ない」
安倍は念を押した。
「では、力ずくで、毒入りアイスコーヒーを飲ませるでござる」
「いや、そんなの無理だって」
鬼一が止めるが、メイド少女戦士マリリンは、2101号室に向かって行く。
カチャ。
ドアが開く音がして、部屋からアーナヴが出て来た。
「なんだ。騒がしいな」
「これを飲むでござる」
メイド少女戦士マリリンが無理やり、アーナヴにアイスコーヒーを飲ませる。
「うぐっ、苦しい」
「どうしたのアーナヴ?」
マニッシュが、心配して出て来た。
「お前も、アイスコーヒーを飲むでござる」
マニッシュも、無理やりアイスコーヒーを飲まされた。
「おい!ムチャは止めろ!」
安倍が制止しようとするが、メイド少女戦士マリリンはやめない。
「やっぱりコイツらは、『国際電器保安協会』でござる。以前にアメリカ村で確認したでござる」
「そういえば、あの男、アメリカ村で奴らのエージェントと話していましたわ」
小太郎も、ライアンとアーナヴが親しそうに話していた事を思い出した。
「なに事じゃ!」
騒ぎを聞いて、リンゼイ老子も出て来た。
「親玉が現れましたよ」
鬼一が安倍に、ささやく。
「このジジイにも、アイスコーヒーを飲ませるござる」
「ダッ、ダメです老子、ゴフッ、これは毒入りコーヒーです。我らも飲まされてしまいました。グフッ!」
アーナヴが必死に止める。
「ジジイも飲むでござる」
メイド少女戦士マリリンが、リンゼイ老子にアイスコーヒーを飲ませようとする。
「やめんか!この愚か者が!」
リンゼイ老子の掌底で、メイド少女戦士マリリンは吹っ飛ばされた。
「無茶苦茶な娘じゃな。待てよ、良く見ると弟子たちを殺した小娘ではないか」
リンゼイ老子は、懐から丸薬を取り出すと、アーナヴとマニッシュに渡した。
「これを飲んで静養しておれば、毒も消えるじゃろう。後はワシに任せるのじゃ」
「すいません老子。油断しました」
アーナヴとマニッシュは、非常階段に向かって退避しようとしている。
「姉さん、あいつら逃げようとしてまっせ」
小太郎は、吹っ飛ばされたメイド少女戦士マリリンを、抱き起こそうとした。
「あのジジイ!可憐なメイド少女を吹っ飛ばすとは、非常識な奴でござるな」
「いえ、非常識さでは、姉さんも負けてまへんで」
「拙者の非常識さは、三千年続く一子相伝の非常識さで、ござるからなぁ」
「さすがは姉さん、なに言ってんのか、サッパリわかりまへんが。カッコええでんな」
メイド少女戦士マリリンと小太郎は、ゲラゲラ笑い出した。
笑っている2人を他所に、安倍と鬼一はリンゼイ老子と対峙していた。
リンゼイ老子からは、ただならぬ妖気が立ち込めている。
「安倍さん、この老人ただ者じゃないですよ」
鬼一は、老師から出ている妖気が、異様であることに気付いている。
「俺は、目の前の老人より、後ろで笑っている2人の方が気になる」
安倍は、虎之助と小太郎が馬鹿である事に気付き始めていた。
「気持ちは、わかりますが。あの2人は、ほっといて、この老人を倒すことに専念しましょう」
なんとかモチベーションを、リンゼイ老師に向けるよう努力する鬼一であった。
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