第77話 闇の死闘
文字数 2,190文字
小太郎が去ったアメリカ村の公園に、ラスプーチンが訪ねて来た。
「アンドロポプ、やはりココに居たか」
ライアンたちと談笑していたアンドロポプは
「ラスプーチン司令官、アナタは確かアポロンに殺されたハズでは」
いきなり死んだハズのラスプーチンが現れたので、アンドロポプは驚いた。
「俺は何度でも蘇るんだ、忘れたか」
「そうでしたっけ?」
「そうなんだよ」
「それで、俺に何の用です?」
「実は、あそこに停まっている車に、ロマノフ議員が乗っている」
ラスプーチンは、一台の高級車を指さした。
「えっ、あのロマノフ議員が!」
アンドロポプは緊張しながら車を凝視した。ロマノフ議員の正体を知っているからである。
「そのロマノフ議員が、変な少年に絡まれていますけど」
「あっ、ホントだ」
「と、言う訳で俺はココに居るねんけど、オッチャンちゃんと聞いてる?」
「聞いとるよ。ようするに、君は彼女が欲しいって事だな」
いつの間にか小太郎が車に乗り込んで、ロマノフ議員に愚痴を聞いてもらっている。
「近いけど、ちょっと違うんや。俺は姉さんとは付き合いたいとは思って無かったんや、姉さんはAカップやし。でも、いざ姉さんに恋人が出来たら、なぜか惜しいゆうか寂しいとゆうか、わかってもらえるかな」
「少年よ、君は大きな間違いを犯しているぞ」
「間違いって、なんでんねん?」
「いいか、一度しか言わないから、よく聞くんだぞ」
ロマノフ議員は、深刻な顔で言った。
「はい」
小太郎も深刻な顔で聞いている。
「Aカップは、歳を取っても垂れない!」
ーーなっ、なんやて!Aカップは垂れないやて、まさかそんな事が。いや、しかしそれが本当ならーー
小太郎は、脳天から稲妻に撃たれたような衝撃を受けた。
「邪魔だ、小僧」
小太郎は、戻って来たラスプーチンに腕を引っ張られて、車から降ろされそうになった。
「なにすんねん!あっ、アンタは俺がエクスカリバーを売ったったオッチャンや」
「ああ、あの時の小僧か」
ーーそう言えば聖剣エクスカリバーを、300円で売ってくれた少年が居たなーー
「そうや」
「俺たちは、この車で、今から非常に危険な所に行くんだ。死にたくなければ、すぐに降りるんだ」
ラスプーチンにしては珍しく、親切心から小太郎に忠告した。
「そうなんや、しゃないな。じゃ、オッチャンありがとう」
小太郎はロマノフ議員に、礼を言いながら立ち去って行く。
ーーAカップは垂れないか。そんな事は、今まで考えた事も無かったわーー
なんだか、素晴らしい格言を言われたような気がしたが、よく考えてみると「だから何やねん。それがどないしてん!」と、考え直す小太郎であった。
その頃、虎之助と鬼一は中央区の繁華街でデートを楽しんで、今から帰るところであった。
「今日の映画は、面白かったでござるな」
「そうだな『朝起きたら完全に猿になってたけど、魔王はきっちりブチ殺します』は良かったな。でも時間が逆行する場面は、わかり辛かったと思う」
「そうでござるな、難解な映画だったから、一度見ただけでは理解できなかった。また、一緒に見に行くでござる」
「でも、主演の女優さん背が高くて美人だったな」
「なに言ってる鬼一。実は拙者の方が美人でござる」
「こりゃ失礼。君が一番、綺麗だよ」
「なら良いで、ござる」
と、鬼一の腕にしがみつく虎之助。
可愛らしい女の子と映画を見て、お互いに感想を言い合いながらイチャついている。
小柄で中性的な顔立ちの鬼一と可愛らしい虎之助は、他者から見てもお似合いのカップルであった。
ーー転生してから、こんなに和らいだ事は、あまり無かったなーー
鬼一は幸せであった。いや、人生で最も穏やかな時間を過ごしていたのかも知れない。
「じゃ、俺は今日中に仕上げないといけない書類があるから、大阪府警に寄ってから帰るよ。君は先に宿舎に戻っていてくれ」
「早く帰って来るでござるよ」
「わかっているよ。たぶん、すぐに終わるから」
と言って、鬼一は大阪府警に向かって行く。
名残惜しそうに、鬼一の後ろ姿を眺めていた虎之助であったが、薄っすらと鬼一が透けて見えた。
ーーあれっ、何でだろう?ーー
なぜだが、もう鬼一は帰って来ない様な予感がした。
「ロマノフ議員、なにか様子が変です」
と、運転手がロマノフ議員に心配そうに伝えた。
窓を見ると、外は真っ暗な闇であった。
どうやら、すでに闇の結界を張られていたようである。
「やはり待ち伏せしておったか。では、行くぞ」
ロマノフ議員が小声で言うと、同乗しているラスプーチンとアンドロポプに緊張が走った。
「君は車で待っていなさい」
運転手に声をかけながらロマノフ議員が車を降りると、ラスプーチンとアンドロポプも続いて降りた。
車の外は、どこまでも続く永遠の闇であった。
「来るぞ」
ロマノフ議員が、そう呟くと、闇の中から数十人もの鬼が一斉に襲って来た。
それぞれが武器を持っており、屈強そうな鬼たちである。
だが、この鬼たちだけであれば、そう脅威では無い。闇の結界を張ったのは恐らく鬼神であろう。
アンドロポプは緊張のあまり、吐きそうになった。
不死と言われているラスプーチンでさえも、身体が硬直している。
「アンドロポプ、ぬかるなよ」
そう言いながらも、ラスプーチンは自分自身に気合を入れ直している。
闇の中で、鬼神対ロシア支部の死闘が始まろうとしていた。
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