第52話 ハーデース
文字数 2,777文字
ポセイドンたちはアメリカ村で、ライアンとマーゴットと合流していた。
「あの小娘は、ハーデースが冥界に落としたから、もう大丈夫だ。これでリンゼイ老師やアキレスの仇は取ったぞ」
アポロンは嬉しそうに、ライアンに話すが
「甘いぞ。あの娘は冥界ぐらいなら、すぐに戻って来るぞ」
と、ライアンに忠告された。
「アポロンよ、この男は馬鹿なのか?冥界から戻れる訳はないだろう」
ポセイドンは、ライアンの話を信じていない。
「信じてもらえなくても、かまわないよ。別に、俺が困る訳じゃないし」
「この男は生意気だな。俺たちを誰だと思ってるんだ」
ハーデースはアポロンの物の言い方に対して、不快に思った。
「アンタらのことは知ってるよ、本部の主力部隊だろ。だが、あの娘を甘くみると痛い目に合うと言ってるんだ」
「ほう、エラく小娘のことを高くかっているじゃないか」
「俺は、事実を言っているだけだ」
ライアンとハーデースが口論をしていると、黒いスーツを着た5人組の男たちが近づいて来た。
彼らは、スーツだけでなく、黒いネクタイに黒いサングラスをかけており、全員が黒ずくめである。
ーーなにか得体の知れない奴らだ。一応、警戒しておくかーー
ライアンはマーゴットに目配せして、アポロンたちより後方に下がり様子を見ることにした。
「君たちは、国際電器保安協会の者だな」
黒スーツの一人が、アポロンに話しかけてきた。
「なんだ、お前らは?」
アポロンは無愛想に答える。
「お前たちが知る必要は無い」
黒スーツの男は、胸ポケットから万年筆の様な装置を取り出しながら無感情に言った。
「今日は、さんざんだったな」
小太郎が宿舎に帰ってみると、食堂で虎之助と左近が一緒に、ご飯を食べているところであった。
「あっ、小太郎兄ちゃん、お帰りなさい」
左近が、スパゲッティを食べながら挨拶する。
「ただいま。あれっ、姉さん。あの大男たちは、どうしはりましたん?」
「髭男と戦っている途中に、後ろから別の奴に攻撃されて冥界に落とされたでござる」
虎之助からは、湯気が出ている。
「それで、温泉に寄ってから、帰って来はったんでんな」
「そうでござる。地獄の温泉は、気持ち良かったでござるモグモグ」
虎之助はトンカツ定食を、口に詰め込みながら喋っている。
「次に会ったら、アイツらブチ殺してやりましょうや」
「それが。タヌキの式神に聞いたのでござるが、アイツら黒ずくめの男たちに、さらわれた様でござる」
「エエっ!アイツらって結構、強そうでしたけでど、さらわれたんや」
「そうなのでござる。だから拙者はブチ殺すのを諦めて、ここで、ご飯を食べているのでござる」
「なるほど。それで姉さんは、ここで、ご飯を食べていたんや。しかし、黒ずくめの男たちって何者なんやろ」
「黒ずくめだから、拙者は甲賀忍者だと思うでござる」
「いや、俺は、アパッチ野球軍やと思いまんな」
小太郎は、なぜか自信まんまんである。
「それなら、アストロ球団の方が怪しいでござる」
「いえ、広島東洋カープもクサイですね」
「野球なら、やっぱり、ジャイアンツでござるよ」
虎之助は、嬉しそうに言った。
「姉さん、ここは大阪やさかい、応援するならタイガースでっせ」
「大阪でも、拙者はジャイアンツを応援するでござる!」
野球の話で盛り上がっていると
「ちょっと、お姉ちゃんたち。野球チームは、黒ずくめの男たちと関係ないと思うよ」
左近に突っ込まれてしまった。
「野球チームじゃないとしたら、女子プロレスラーでっか?」
「違うよ、小太郎兄ちゃん。黒ずくめの男たちとスポーツは関係ないよ。それに女子じゃ無いし」
左近にそう言われ、小太郎は落ち着いて考え直してみた。
「そう言われてみれば、そうでんな。姉さん、どうやら我われは、見当違いの推測をしていたのかも知れまへんで」
「そうなると、拙者たちの推理は、振り出しに戻ったでござるな」
虎之助と小太郎は、腕組みをしながら真剣に思案している。
そんな2人を見ていた左近は
ーーこの2人は、やっぱり馬鹿なのかも知れないーー
と、思うのであった。
その頃、ゼウスは、やっと任天堂スイッチを購入し終えて、アメリカ村に到着したところであった。
「確か、この辺でポセイドンたちが、待ってるハズなんじゃが」
ゼウスが、キョロキョロしていると
「もしかして、ゼウス様では?」
と、言いながら、ライアンとマーゴットが近づいて来た。
「アンタら、誰じゃ?」
「アメリカ支部のライアンとマーゴットですよ」
「そうなのか。君ら、ポセイドンたちを知らんかね?」
「それが、彼らは、黒ずくめの男たちに、さらわれてしまったんです。俺らは咄嗟に逃げたので助かったのですが」
ライアンは今までの状況を、ゼウスに説明し出した。
「黒ずくめの男たち?そいつらは何者じゃ」
「まったくわかりません。全知全能のゼウス様なら、なにか知ってるのでは?」
ライアンから、鋭い質問をされた。
「もっ、もちろん、知ってるとも。そいつらは、アパッチ野球軍じゃ」
「それは絶対に、違うと思います」
「えっ、違うの?」
「違うに決まってるでしょ!」
「じゃ、アストロ球団じゃ」
「違いますよ。野球チームが、ポセイドンたちをさらう訳ないでしょう」
「そう言われても、ワシらには敵が多いからのう」
「アパッチ野球軍やアストロ球団は、もともと敵じゃ無いでしょ!」
ライアンは少しキレてきた。
「君は、怒りっぽいのぉ。そうじゃ、この件は無かった事にして、各自もう家に帰ろう。任天堂スイッチも買った事だし」
ゼウスは考えるのを諦めて、自宅に戻りゲームを楽しもうとしている。
ーーなんだ、このジジイはーー
ライアンとマーゴットが、ゼウスに呆れていると。
「こらぁ!ゼウス。お前は何考えとるんじゃ!」
と、後方から怒鳴り声が聞こえて来た。
ゼウスが振り向いてみると、ボロボロの服をまとったハーデースが怒っている。
「おお、ハーデース。無事じゃったか」
「無事もクソもあるかい!俺はスキをみて、冥界に逃げたので助かったが、ポセイドンとヘスティアーは、捕らえられてしまったぞ」
怒鳴るように、ハーデースは言った。
「アイツらは、いったい何者なんです?」
ライアンはハーデースに、たずねた。
「奴らは、アパッチ野球軍じゃ」
横から、ゼウスが答える。
「お前は黙っとけ!」
ゼウスを怒鳴りつけてから、ハーデースは
「アイツらは、恐らく超古代人だ」
と、呟く。
「それ誰?」
ゼウスも知らない様である。
「俺たちが地球から追い出した、超古代文明を築いていた奴らだよ」
「なんじゃと!あいつらが、戻って来たのか」
やっと、ゼウスも想いだした。
「何の事なんですか、超古代人って?」
ライアンには、話が全く分からない。
「聞かない方が良い。この世には、知らない方がよい事もあるんだぞ」
ハーデースは、苦い顔をした。
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