第126話 羅刹VS小太郎
文字数 2,198文字
「じつは、その、大変な事情がござりまして」
ーー何かないか、姉さんをブッ殺せるような武器はーー
虎之助に追い詰められた小太郎は、土下座で命乞いをしながらも、武器になるような物を探していた。
すると、近くにボーリングの玉のような物を見つけた。
ーーよっしゃ、あの玉をブチ当てて、姉さんをブッ殺したるーー
小太郎は素早く玉を両手で掴んで、虎之助に投げようとしたが
「アレッ!また会ったね」
玉が喋り出した。
玉は、ボーリングの玉では無く、丸まっていた妖怪尻ふきであった。
「うわっ!お前は妖怪尻ふき。宇宙に居たんじゃなかったんか!」
驚く小太郎。
「頑張ったら、もう一度テレポートできたんだ」
「なんやと!ほんだら、俺が大気圏外に居た時に頑張らんかい!」
小太郎は怒った。しかし、同時に良いアイデアが浮かんだ。
「もう一度頑張ってテレポートするんや。2人で、ここから逃げるぞ」
「逃げるって、何から?」
「あの悪魔からや」
小太郎は虎之助を指さした。
「あの娘が悪魔なのか?そうは見えないな」
妖怪尻ふきは信じられない、といった顔をしている。
「とにかく、何処でも良いからテレポートするんや!」
小太郎がキレた。
「わかった、やってみるよ」
妖怪尻ふきは、妖力を振り絞ってテレポートを試みた。
ブワン!
小太郎の周りの空間に歪みが生じたと思ったら、次の瞬間には違う場所に居た。
「やったー。テレポート成功や」
喜ぶ小太郎。
「ここは、どこだろう?」
妖怪尻ふきは、辺りを見まわしている。
「あそこにリーサルウエポン・ロイヤルホテルが見えるな。ちゅう事は、ここは中之島やな」
すぐ近くに有名高級ホテルがある。
「あのホテルから出て来た男から、物凄い妖気が見えるよ」
妖怪尻ふきが、一人の不審な男を見つけた。
「あっ、あれは羅刹や。加藤が描いた似顔絵にそっくりや」
「あの男は危険だ、他の仲間も呼ぼうよ」
妖怪尻ふきは少し怯えている。
「大丈夫や、俺は奴の事を知り尽くしているんや。行くで、2人で倒すんや。そしたら、姉さんも許してくれるやろう」
小太郎は羅刹に向かって走り出した。
「むちゃだ、やめるんだ。あの男の妖気は普通じゃない」
妖気尻ふきは必死に止めるが、小太郎は羅刹に近づいて行く。
「なんだ、お前は。俺に何か用か?」
小太郎に気づいた羅刹が、声をかけて来た。
「用は大ありじゃ、ボケッ。でも、ちょと待ってや」
小太郎は急いで自分のノートを取り出した。羅刹の情報がびっしり書いてあるハズである。
しかし、ノートは書き込んだ文字を全て虎之助に消されており、白紙であった。
ーーヤバい、なんも書いてへんーー
「やっぱり用は無いですわ。ほな、さいなら」
クルッと背を向け立ち去ろうとする小太郎。
「待て。お前、見た顔だな」
小太郎は羅刹に肩を掴まれてしまった。
「人違いちゃいまっか?ほな、ワテはこれで失礼しまっさ」
「いや、確かに見た顔だ。ちょと待て」
「あんさんも、しつこいでんなぁ。ワテは、アンタはんの事なんか知りまへんさかいに、離しておくれやす」
強引に、この場から離れようとする小太郎であったが
「あっ、お前は、大阪DSPの資料の写真に乗ってた転生者だ!」
やっと羅刹は、小太郎の情報を思い出した。
「クックっくっ、バレちゃ仕方ありまへんな。死ねや、アホ鬼!」
小太郎は聖剣を取り出して、羅刹に斬りかかった。
ガシ
しかし、羅刹は右腕で聖剣を受け止める。
「よし、今や妖怪尻ふき、コイツの首に攻撃するんや!」
と、小太郎は叫んだが、肝心の妖怪尻ふきが見あたらない。
「あれっ、あいつドコ行ったんだ?」
不思議がる小太郎をよそに、妖怪尻ふきはテレポートで、南国のリゾート地に来ていた。
「ああ、太陽が眩しい。やっぱり来て良かった」
妖怪尻ふきは小太郎や羅刹の事など、すっかり忘れて、ビーチでトロピカルジュースを飲みながらくつろいでいる。
すると
「ちょと、そこの君」
ゴリマッチヨで髭面の男に声をかけられた。
「なんですか?」
「私は映画の監督やプロデューサーをしている、ゴリーブン・ゴリラバーグという者だが。君は映画に興味はないかね?」
と聞いて来た。
「ええっ、あの有名なゴリラバーグさんですか?」
妖怪尻ふきは、いきなり世界的な有名人に声をかけられて驚いた。
その頃、大阪の中之島では、小太郎が羅刹を相手に苦戦していた。
ーーこいつ加藤の言うとおりムッチャ強いやん。絶対、一人では勝たれへんわ。妖怪尻ふきは何処に行ったんやーー
と、妖怪尻ふきの援護を待っていたのであるが、南国のビーチに居る妖怪尻ふきは小太郎のことを、すっかり忘れており、ゴリラバーグ監督と話をしていた。
「映画ですか」
ゴリラバーグの質問に、少し考えてから
「映画は成人映画しか見ないっすね」
と、興味なさそうに答える。
「次に撮る、僕の新作映画に出て欲しいんだけど、どうかな?」
なんと、世界的映画監督から直々にオファーされた。
「尻を拭く役ですか?」
「ちがうよ、ヒロインを助けるナイスガイの役だよ」
ゴリラバーグが説明する。
「ヒロインの尻を拭く役か。ちょっと興味がありますね」
「いや、そんなシーンは無いが、カッコよく敵を倒す役だ」
「カッコよく敵の尻を拭くのですか。難しいですね」
「だから、尻は拭かなくても良いんだよ!」
妖怪尻ふきと、ゴリーブン・ゴリラバーグの交渉は、意外にも難航しているのであった。
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