第125話 サンダースの犬
文字数 2,187文字
「おいおい虎之助。羅刹を探している時に、貴重な戦力を減らすなよ」
虎之助にブッ飛ばされて、星になった小太郎を見ながら加藤が言った。
「羅刹なんて、武蔵が一人で倒せるでござる」
「えっ、僕が殺るんスカ?」
急に虎之助にふられて武蔵は驚いた。
「そうでござる。お主が一人で倒すでござる」
虎之助は真剣な眼差しで武蔵を見ている。
「いや、無理ッス。お嬢ちゃんこそ一人で殺ったら良いじゃないスカ」
「面倒くさいから、拙者は嫌でござる」
と、武蔵と虎之助が話していると。
「やはり、臭うな。この辺りに敵がいるハズじゃ」
何かの気配を嗅ぎつけて、加藤は周囲を見まわしている。
「それは、この唐揚げの臭いでござる」
虎之助が、ボルデ本山が食べている唐揚げを指差した。
「なんだ、唐揚げか」
加藤はガッカリした。
その頃、小太郎は大気圏外をさまよっていた。
ーーまさか、姉さんが、あれほど怒るとは思ってなかったな。本心をそのまま正直に伝えたのが悪かったのかもしれへん。本気じゃない遊び相手の女には、もっと上手く口説かなアカンな。しかし、ここ寒いわーー
と、相変わらずゲスな考えを巡らせていると、だんだんテンションが下がって来たので、小太郎は考えるのを止めた。
すると
「おい」
と、誰かが呼ぶ声がした。
ーーなんか幻聴が聞こえてきたな。こんな所に、誰かいるハズもないのにーー
「おい、君」
ーーまた誰かが呼ぶ声がしたで、いったい誰やーー
「僕だよ『妖怪尻ふき』だよ」
なんと『妖怪尻ふき』であった。
「アンタは確か、夜叉に殺されたんちゃうの?」
「踏みつぶさる直前にテレポートしたんだよ」
「テレポート出来るんやったら、俺を地上に連れて帰ってえや」
「無理だよ。僕は生涯で一度しかテレポート出来ないんだ」
「なんや、その中途半端な能力は」
上がりかけた小太郎のテンションが、また下がった。
「大丈夫だよ。お尻なら、僕がいつでも拭いてあげるから」
「いや、尻ぐらい自分で拭くわ」
「遠慮しなくても良いよ。そうだ、今から拭いてあげよう」
妖怪尻ふきは、小太郎のズボンを脱がそうとして来た。
「やめろや、この変態アホ妖怪」
いやがる小太郎。
「ムダな抵抗は、しない方が良いよ」
妖怪尻ふきは、意外に強い力でズボンを下ろして行く。
「やめんかい!」
バキッ!
小太郎の右ストレートが、妖怪尻ふきの顔面にヒットした。
「ウキョ〜」
妖怪尻ふきは、宇宙の彼方へ吹っ飛んでいった。
そして、運の良いことに、反動で小太郎の方は地上へと向かって行く。
「やった、このまま地上に帰れるで」
と喜んだのも、つかの間。大気圏内に突入して小太郎の身体が燃え始めた。
ーーまずい。良く考えたら、このまま地上に落ちると、地面に激突して死んでしまうやないかいーー
小太郎は焦った。
とりあえず、出せるだけの神気を身にまとい、死を覚悟しながら地上に突入して行った。
小太郎が死ぬと思ったその時、過去の情景が走馬灯の様に映し出された。
「姉さん、さっきから何を見てはるんでっか?」
虎之助がリビングで、熱心にスマホの動画を見ている。
「『サンダースの犬』というアニメでござる」
「なんですのそれ?聞いた事ありまへんな」
小太郎の知らないアニメである。
「知らないのでござるか。アメリカのサンダース上院議員の犬と呼ばれた凄腕の諜報部員が、教会で犬と一緒に死ぬという、名作アニメでござる」
と、虎之助が説明してくれた。
「反吐が出るほど、つまらなそうでんな」
小太郎は冷たく言い放つ。
「ムカッ!『サンダースの犬』をバカにする奴は殺すでござる」
怒った虎之助が、小太郎の首を締め出した。
「ううっ、苦しい」
苦しむ小太郎。
「死ぬでござる」
「苦しい、助けて」
命乞いをする小太郎。
「命乞いは聞かないでござる、早く死ぬでござる」
さらに首を締めつける虎之助。
ーーそういえば、こんな事もあったなーー
と、虎之助とのやりとりを、思い出しながら小太郎は地上に落ちて行く。
「大丈夫か、小太郎?」
目を開けると、ボルデ本山の心配そうな顔が見えた。
「本山はん、俺はいったい」
ボルデ本山は、小太郎を抱き起こそうとしている。
「君が猛スピードで空から落ちて来たんで、吾輩が鷲に変身して助けたんだ」
「そうなんや、俺は助かったんや。おおきに本山はん」
小太郎は、よろけながら立ち上がると、お礼を言った。
ーー良かった、一時は死を覚悟してたんやがーー
と、小太郎がホッとしていると
「貴様、まだ生きてたのか!トドメを刺すでござる」
まだ怒っている虎之助が、こちらに向かって走って来る。
「ヤバい、姉さんに殺される」
小太郎は、フラつきながらも、神気を振り絞って聖剣を取り出した。
ーーあんな悪魔に殺られてたまるかーー
「殺られる前に殺ったるで!」
虎之助に向かって走り出す。
「死ね、ゲス人間!」
虎之助が信じられないほど大量の暗黒闘気を、小太郎に向けて放った。
ドガーん!
「うきゃ〜」
暗黒闘気が直撃し、小太郎は倒れた。
「では、遠慮なくトドメを刺すでござる」
倒れている小太郎に、虎之助は小刀を向ける。
「まっ、待っておくんなはれ、姉さん。これには訳がありまんのや」
とりあえず殺されないように、命乞いをする小太郎。
「どんな訳でござるか」
「それは、あの、その……」
と言いながらも反撃のために、手近に武器になるような物を探す小太郎であった。
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