第25話 アンドロポプVS虎之助
文字数 3,145文字
話しは、前回より少し戻る。
虎之助と小太郎が仲良くアメリカ村で買い物をしていると、2人同時に異変に気が付いた。
虎之助は後方にいる大男から強烈な殺気を感じ、小太郎は前方から桜田刑事の悲鳴が微かに聴こえた。
「姉さん、どうします?」
「拙者が後の男の相手をするので、小太郎は桜田の方に行くでござる」
「承知つかまつった」
そう言うと、小太郎は疾風のように駆けて行く。
虎之助は、大男が付けて来るのを確認すると、あえて人気の無い路地に入った。
「あれっ、あの娘どこに行きやがった」
路地に入ったアンドロポプは、虎之助を見失ってしまった。
「なぜ拙者を付ける?」
どこからか娘の声が聞こえる。
「上からの命令でな。隠れても無駄だ、悪いが死んでもらう」
アンドロポプは口から大量の煙を吐き出した。
ーーマズい、これは毒ガスでござるなーー
路地のビルの壁に張り付いていた虎之助は、素早く飛び降り地面に伏せる。
「ほう、姿を現したな。だが、俺が毒ガスを出し続けている間は近寄れまい」
煙を吐きながらも、アンドロポプはポケットから数本のナイフを取り出し、虎之助めがけて高速で投げつけた。
ブスブスッ!!
ナイフの刺さる音がする。
「たわいもない」
ズボッ!!
勝利を確信したアンドロポプの頭頂部から足元まで、鉄パイプが貫いた。
地面に伏せたのは、代わり身の術の服だけであり、虎之助はビルの屋上からアンドロポプに鉄パイプを投げたのである。
「くそう!油断した」
「串刺しにしたのに、まだ生きてるとは、しぶといでござるな」
「この程度では死なん」
なんとアンドロポプは、両手で自分を串刺しにしている鉄パイプを抜き始めた。
「タフな男でござるな」
虎之助が屋上から降りて来た時には、鉄パイプを抜き終わっていた。
「とどめを刺すでござる」
虎之助は、アンドロポプに向かって走る。
アンドロポプは、逆に跳躍して虎之助の居た屋上に上がった。
ーーこのまま、ブチ殺してやりたいが、さすがにダメージが大きい、とりあえず回復しなければーー
「勝負は預ける」
と、素早く去って行ってしまった。
「追いかけたいでござるが、小太郎の方が気になるでござる」
代わり身の術で脱いだ服を着ると、虎之助は小太郎の向かった方向へと走り出した。
一方、前回から、小太郎と馬頭との戦いが行なわれていた。
右腕を切り落とされた馬頭は、怒り狂いながら小太郎に向かって行く。
「姉さんから教わった、唐沢流の剣術で相手してやる」
馬頭は、右腕を再生させながら
「ブチ殺す!!」
と、小太郎に殴りかかる。
「唐沢流、千枚切り!」
すかさず小太郎は、必殺の奥義をくり出す。
ズブズブズブッ!
「クフッ」
バタッと馬頭が倒れた。
「どうや、一秒に千回攻撃した。貴様はもう2度と立てん」
勝ち誇る小太郎の足首を掴むと、馬頭は普通に立ち上がった。
「なにが一秒に千回だ。せいぜい3回ぐらいだったぞ」
「しもた、踏み込みが甘かっかた」
「いや、踏み込みの問題じゃ無くて、3回しか斬られてないって」
馬頭に、突っ込まれた。
「デタラメ言うな、ちゃんと千回斬ったわ、このバカ鬼」
「なんだと!3回だけだったぞ、このアホ男」
小太郎と馬頭が激戦を行っているスキに、狂四郎は牛頭の背後から、馬頭の落とした金棒を拾って殴りかかった。
「死ね!この鬼野郎!」
ボコッ!!
「痛てッ!なにすんだ!」
金棒は牛頭の後頭部に命中するが、怒らせただけで意外と効果は無かった。
腹部にダメージを負っている狂四郎は、あきらかに劣勢である。
「大丈夫?狂四郎君」
桜田刑事は拳銃を構えているが、このレベルの鬼に効果が無いことは承知している。
4人が激闘を繰りひろげていると、ようやく虎之助が到着した。
「こっちには、鬼が居たのでござるね」
「あっ、姉さんや。今こいつを殺すので待っといて下さい」
小太郎は、張りきっている。
「お前のようなアホに、殺されてたまるか!」
馬頭も、やる気まんまんである。
「虎之助!狂四郎君を助けて」
桜田刑事が叫んだ。
意外に牛頭は強く、狂四郎が押されている。
「承知したでござる」
素早く、牛頭の後方から側面に周ると、虎之助は刀を抜いて斬りかかった。
「唐沢忍術、3枚おろし」
パサッ!
ハラりと牛頭は横から3枚に割れて、そのまま倒れこむ。
「わっ、大変だ!!」
3枚におろされた牛頭を見て、慌てた馬頭は、牛頭を抱えて逃げ出した。
「俺に恐れをなして逃げよったな。口ほどにも無い奴や」
逃げて行く馬頭に向かって、小太郎は勝ち誇っている。
「助かったわ、ありがとう虎之助」
虎之助は、転生して以来、初めて桜田刑事から褒められた。
狂四郎の方は、まだ腹を押さえてうずくまっている。
「大丈夫?狂四郎君」
寄り添う桜田刑事。
「やっぱり、あの2人は出来てまんなぁ」
確信する小太郎。
「お腹が減ったでござる」
空腹を訴える虎之助。
アメリカ村での戦闘は終わったが、離れた所でライアンとマーゴットが戦いの一部始終を、タコ焼きを食べながら見ていた。
「やはり、あの小娘はクセ者だな」
「アンドロポプは、たいした事ないじゃん」
「いや、アイツは強いハズなんだけどなあ」
「姉ちゃん、手ぇ握ってもええ」
「ダメに、決まってるでしょ!って何で、ここに居るのよ!」
いつの間にか、小太郎がマーゴットの手を握ろうとしている。
「拙者にも、タコ焼き、ちょうだい」
「うわっ!お前もか」
虎之助も来ていた。
「このタコ焼きあげるから、あっちに行ってなさい!」
小太郎と虎之助は、タコ焼きを渡されて、追っ払われてしまった。
「ここまで来れば、大丈夫だろう」
馬頭は、瀕死の状態である牛頭を抱えて難波まで逃げて来ていた。
「おい牛頭、大丈夫か?」
少しずつ治癒して来ているが、さすがに3枚におろされた牛頭は、まだ返事ができる状態では無い。
トン!
見知らぬ男と肩がぶつかったので、馬頭は
「失礼」
と、謝罪して立ち去ろうとしたが、男に腕を掴まれてしまった。
「待て、お前たちは鬼だな」
「なんだと、てめえ、なに者だ?」
「俺の名は阿部仲麻呂。今から死ぬお前たちは覚える必要は無いがな」
「左近が行方不明になった」
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、珍しく安倍顧問を中心にミーティングが行なわれていた。
「奈良県警の大伴警部より連絡があった。飛鳥で複数の鬼と戦った形跡があり、鬼の遺体が数体見つかったのだが、左近が帰って来ず、行方がわからないそうだ」
「重傷を負って、どこかへ運ばれたとか?」
一番、仲の良かった、岩法師が心配そうに聞いた。
「奈良県警が、近隣の病院等に問い合わせてみたが、左近らしき者は来ていないそうだ」
「不思議な話でんなぁ。左近さんが自分で動ける状態なら、病院に行くかか奈良県警に戻っているハズですもんね」
小太郎も心配している。
「とりあえず、俺のチワワ、岩法師のヤモリ、虎之助のタヌキの式神で捜索してみよう。もしかすると、大阪に帰って来ているかもしれん」
「俺のゴキブリの式神は」
小太郎が、自信ありげに聞いてきた。
「それは、いらん!」
だが、キッパリと断われてしまった。
「あと、大伴警部が、気になる事を言っていたのだが」
「どんな事ですか?」
桜田刑事が、たずねた。
「飛鳥には、陰陽師の修行中に稀ではあるが、阿部仲麻呂の屋敷が現れるそうだ」
「それは、誰でござるか?」
「陰陽師を日本に持ち込んだ、奈良時代の俺の先祖だ。左近にも阿部仲麻呂の屋敷が見えたそうだ」
「その男が怪しいでござるね」
「それは、まだ、わからんが。とにかく式神を使える者は、早速捜索してくれ」
「俺のゴキブリの式神は?」
小太郎が念のため、もう一度、聞いてみた。
「それは、いらん!」
安倍顧問は、自信を持ってキッパリと断った
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