第31話 デビルスペシャルポリスVS阿倍仲麻呂 前編
文字数 2,950文字
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、いつも通りみんなで朝食を摂っていた。
「今日のスクランブルエッグは、美味いでんなぁ」
小太郎は上機嫌で、トーストとスクランブルエッグを食べている。
「拙者を毒殺しようとしたので、小太郎のトーストを半分もらうでござる」
虎之助が小太郎のトーストを取ろうとした。
「ダメですよ姉さん。俺は姉さんに殴られて、半日も意識不明やったんですよ。姉さんこそ、そのスクランブルエッグを半分くださいよ」
「絶対に嫌でござる。拙者の食べ物を取った奴は、ぶっ殺して地獄に落とすでござる」
もめている虎之助と小太郎の隣では、安倍と鬼一が何やら深刻な顔で朝食を食べていた。
「しかし、あの老人が創造主だったとは。我らも今後の対応を、検討し直さねばなりませんな」
ブラフマーと対峙した時、鬼一は思わず足がすくんでしまっていたのである。
「しかし、創造主を相手に、どう戦えば良いのだ」
安倍も鬼一と同じくブラフマー相手に、弱気になっているようだ。
「虎之助の使った毒が、少しは効いていた様ですが」
ーー確かに、毒を盛られた後、ブラフマーは気分が悪くなったと言って退散していったな。とりあえず、毒の成分を聞いておこうかーー
「虎之助。あのアイスコーヒーに入っていた毒は、どこから手に入れたんだ?」
「あれは拙者が、鬼神をブッ殺す用に作っておいた物で、蛇の毒を元に調合したのでござる」
「鬼神用の毒なら、相当強力な毒だな。それにしても、お前はよく創造主に対して、ひるまず攻撃できるな」
2人は、臆する事なく創造主に立ち向かって行った虎之助を、目の前で見ていた。
「お主らは、ダーウィンの進化論を知らないのでござるか?この世に創造主など居ないでござるよ。人間は猿から進化したのであって、創造主に造られたのでは無いのでござる。あのジジイは、少し強いだけの、ただのジジイでござる」
安倍と鬼一は、ダーウィンの進化論ぐらいは我らも、わかっている。今さら言われるまでも無い。
とは、思わなかった。
ブラフマーや鬼に転生者と、今まで自分たちの周りには、非科学的な現象が続いている為か、すっかりブラフマーに気おい負けしていたのは事実である。
人類の進化の過程がどうであれ、敵は倒さねばならないのだ。
安倍と鬼一は苦笑しながらも、ブラフマーに対する勇気が湧いて来るのを実感していた。
「姉さん、ダーウィンの進化論って何でんねん?」
隣で聞いていた小太郎は、ダーウィンを知らないようだ。
「ダーウィンの進化論っていうのは」
虎之助が説明しかけると、狂四郎がさえぎった。
「そのぐらい、俺でも知ってるぜ。進化論っていうのは、ハゲ親父の息子は禿げる確率が高いってやつだろ」
「ちょっと違うでござる。それは、どちらかというと、メンデルの法則に近いでござるな」
「へえ、姉さんは、なんでも知ってまんなぁ」
感心する小太郎。
「拙者の知識の多さは、宇宙人オーソン並でござる」
虎之助は得意げに自慢した。
しかし
ーー誰それ?ーー
と、宿舎にいる全員が思った。
「すんまへん。その人、知りまへんので、ナメクジで例えてもらっても良いですか?」
小太郎が、例えを変えてもらうように頼んだ。
「ええっと、それじゃ。拙者の知識はナメクジ並でござる」
「ブッ!」
狂四郎が、飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「あいかわらず、狂四郎は食事マナーがなって無いでござるね」
「いや、お前らの会話がアホすぎるからだろ」
「おのれの様な世界的な阿呆に、アホと言われる筋合いは無いわ!」
小太郎がキレた。
「なんだと、このアホ侍が!」
狂四郎もキレて、2人は取っ組み合いの、喧嘩を始めた。
「お前ら、止めんか」
岩法師が止めに入る。
「2人とも、まだ若いでござるな。気が短すぎるでござるよ」
意外と虎之助は、落ち着いてお茶を飲んでいる。
パコッ!!
小太郎を狙った狂四郎の蹴りが、虎之助の顔面にヒットした。
「痛いでござる」
ブチンッ!
ブチ切れた虎之助は、メイド少女戦士マリリン変身して
「貴様ら、全員この毒入りアイスコーヒーで、毒殺するでござる!」
と、もの凄い勢いで怒り狂った。
「まずいぞ!」
安倍と鬼一が、慌ててメイド少女戦士マリリンを抑えるが
「放すでござる!」
メイド少女戦士マリリンの怒りは収まらない。
結局、小太郎と狂四郎も喧嘩を止めて、メイド少女戦士マリリンを止めに入った。
なんとか、全員でマリリンを抑えていると、鳩の式神が戻って来て安倍に何やら報告し始めた。
鳩からの報告を聞き終わった安倍は
「みんな、よく聞け!左近の居所がわかった。今から向かうぞ!」
と、怒鳴るように叫んだ。
高級ホテル一室では、リンゼイ老師一行が休息していた。
「まったく、あのバカ娘には、えらい目にあったわい」
メイド少女戦士マリリンに毒を飲まされたおかげで、リンゼイ老子はお腹をくだし下痢でトイレに籠もっている。
アーナブとマニッシュは、まだ完全に毒が抜けておらず、ベッドで横になって休んでいた。
やっとトイレから出たリンゼイ老師は、温かいお茶を飲みながら
「確かに、ラディッシュとナジャでは、あのバカ娘には勝てんな。じゃが、アーナブとマニッシュなら、そう簡単にはいかんぞ。前回は油断したが、次は必ず殺してやる」
と、笑みを浮かべた。が、その瞬間
「はうっ!」
うめき声をあげながら、トイレに駆け込んだ。まだ、下痢は治っていなかったのである。
DSPの一行は、留守番に岩法師と狂四郎を残し、左近が現れたという現場に向かっていた。
「鳩の情報によれば、この辺りなんだが」
「安倍さん。この先には、ただならぬ妖気が立ち込めています」
鬼一は、この類の気配には敏感である。
しばらく進むと、前方が黒く闇に包まれている。
「闇の結界を張っているな。我らが来ることが、わかっていたか」
「そのようですね。どうします、うかつに進むと危険ですよ」
安倍と鬼一が思案していると、メイド少女戦士マリリンが小太郎に布を渡して
「これで目隠しをするでござる」
と、不思議な指示を出している。
「どうして、小太郎に目隠しさせるんだ?」
気になって、鬼一は聞いてみた。
「目隠しすると、結界の中でも、幻覚に惑わされずに進めるでござる」
「さすがは姉さん。目隠しすると、全然、怖くないですわ」
小太郎は、なぜか喜んでいる。
「では拙者を、おんぶして突撃するでござる」
「はな、行きまっせ」
目隠しされた小太郎は、メイド少女戦士マリリンを背負い、結界に向かって突っ込んで行った。
「あれ、大丈夫なんですか?」
心配になった鬼一は、安倍にたずねる。
「いや、全然ダメだろ」
あきれた顔で安倍は答えた。
一方その頃、霊気たちはパチンコ店で情報収集をしていた。
「どうや?なんか良い情報はあったん?」
霊気が、隣の台でパチンコを打っている三吉鬼に尋ねた。
「難波に安い酒屋があるそうです」
「隠形鬼、あんたは?」
三吉鬼の隣で、パチンコを打っている隠形鬼にも聞いてみる。
「どうやら、港区にあるパチンコ屋が穴場だそうです」
「よっしゃ。ほんだら、今から港区に移動や」
という具合に、川島の予想どおり、霊気率いる処刑鬼隊の別働隊は、パチンコ屋と居酒屋に入り浸っていたのであった。
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