第136話 2人の魔人
文字数 2,155文字
コールド猫座右衛門に頼まれて、仕方なく武蔵は近くのスーパーまでビールを買いに来ていた。
「この缶ビールで良いスよね」
缶ビールを持ってレジに向かおうとしていると、野菜売り場のキャベツの中に埋もれている小太郎を見つけた。
「小太郎ッチ!大丈夫ッスか」
急いでキャベツの中から小太郎を引っ張り出すと
「なんや、武蔵やないか」
ダメージは有るものの、なんとか立ち上がって話をすることは出来るようだ。
「こんな所まで、吹っ飛ばされたんスカ?」
このスーパーは、山椒鬼の居る所から300メートルは離れている。
「そうやねん、あのアホ鬼が馬鹿力で吹っ飛ばすさかいに。それより武蔵、戦闘中にビールなんか買ったらアカンやろ」
「僕が飲むんじゃないッス。これは、コールド猫座右衛門に頼まれたんス。それより小太郎ッチ、何か服を着ないと裸ッスよ」
小太郎は、まだ全裸であった。
「いや、服は別にいいわ」
なぜか断る小太郎。
「いいこと無いッスよ、全裸のままだと警察を呼ばれるッス」
「警察って、俺らも一応は警察官やで」
「警官なら、なおさら全裸は駄目ッス」
「なんや裸に慣れてもうてな。今後、俺は服を着ない方向性で生きて行こうと思うとるんや」
「アホな事を言ってないで、服を着て戦いに戻るッス」
武蔵は強引に、小太郎を服売り場に連れて行くと
「とりあえず、このパンツとTシャツを買うッス」
適当に選んだ服を着せた。
「靴も買ってえや。出来たら、ナイキのエアジョーダンが良いな」
服を着たとたんに、小太郎は贅沢を言い出した。
「このビーチサンダルで我慢するッスよ」
武蔵は安物のビーチサンダルを小太郎に渡す。
「ビーサンか。俺はナイキのバッシュしか履けへんねんけどなぁ」
文句を言いながらも、しぶしぶビーチサンダルを履く小太郎。
「じゃ、戻るッスよ」
武蔵は小太郎を連れて、足早に戦いの場まで向かった。
その頃、崑崙では
下界の全てを見渡せる望遠鏡で、地上の様子を監視していたパーカーは、鬼神とDSPとの戦いを見ていた。
「なんと『フレイム豚の助』と『コールド猫座右衛門』が召喚されているではないか!これは、急いで西王母様に報告せねば」
パーカーは、急いで西王母の部屋に駆け込むと
「西王母様、大変です!」
と、叫ぶように伝えた。
コミック雑誌を読みながら、関西ローカルの銘菓『おにぎりせんべい』を、ポリポリと食べていた西王母は
「何ですかパーカー。まるで『フレイム豚の助』と『コールド猫座右衛門』が同時に出現したかのように大騒ぎして。ちょっと落ち着きなさい」
と、冷めた目で、コチラを見ている。
「その『フレイム豚の助』と『コールド猫座右衛門』が現れたんですよ!」
慌てながら伝えるパーカー。
「なんですって!『フレイム豚の助』と『コールド猫座右衛門』が!」
驚きすぎて、西王母は食べかけの『おにぎりせんべい』を落としてしまった。
「あっ、落ちちゃった」
と言いながら『おにぎりせんべい』を拾って食べようとする西王母。
「西王母様。落ちた食べ物は、食べちゃ駄目ですよ」
「床に落ちても、3秒以内に拾えばセーフなのよ」
パーカーに咎められても、気にせず西王母はポリポリと食べている。
「地球に氷河期をもたらす『フレイム豚の助』と、空から炎と共に降り立ち人類を滅ぼすと言われている恐怖の大王こと『コールド猫座右衛門』が同時に現れるなんて、不吉だわ」
不安そうな表情をしている西王母。
「不吉ですねぇ」
パーカーも不安を隠せない。
「人類の危機だわ」
さすがの西王母も、深刻な顔をしている。
「なんとか阻止しないと」
2人とも、かって人類が経験した事がない、未曾有うの危機が迫っていることを充分に認識していた。
「じゃ、用が済んだら出て行って。私はマンガ読むのに忙しいから」
西王母は再び、せんべいを食べながらマンガを読みだした。
「それでは失礼しました、西王母様」
西王母の部屋から出て、トボトボと歩き出すパーカーであったが
「って、違うでしょ!なんとかしないと地上が滅びますよ」
怒りながらパーカーは、急いで西王母の部屋に戻った。
「わっ、ビックリした」
驚いた顔でパーカーを見る西王母。
「ビックリしたのは、こっちですよ。なにか手を打たないと、マンガなんか読んでる場合じゃ無いですよ」
「何かって言われても、困るわ。柴咲コウの散歩にも行かなくちゃいけないし」
「犬の散歩なら私がやっておきますから、西王母様は魔人どもの対処をして下さい」
「犬の散歩はダメよ、絶対に譲れないわ」
「なぜです」
「犬を散歩さすのは、私が子供の頃からの夢だったのよ!」
「散歩には毎日いってるじゃないですか。一度ぐらい良いでしょう」
パーカーは、少し呆れた表情をしている。
「いいえ。1度たりとも他人には譲りません。そうだ、犬の散歩がてらに魔人どもの様子を見て来ましょう」
「えっ、犬を連れて魔人の所に行くのですか?」
「そうですよ。それが何か?」
「いえ、犬を危険に晒すのはどうかと思いまして」
「別に良いじゃない。だって犬だもの」
「全然、理由になって無いですけど」
「じゃ、行くわよ柴咲コウ」
「危ないから駄目ですよ」
柴咲コウの身を案じて止めるパーカーであったが、西王母は反対を押し切って、柴犬の柴咲コウと一緒に下界に降りて行くのであった。
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