第26話 ライアンVS虎之助
文字数 3,211文字
関西国際空港に、3人のエージェントが降り立った。
老人が一人と、若い男女が一人ずつである。
「リンゼイ老子、ここからは車が用意されているので、京都まで車でまいりましょう」
若い男が老人に伝える。
「いや、一旦、大阪に寄ってくれ」
「老子、我々は『国際電器保安協会』の京都支部に呼ばれているのですよ」
「わかっておるが、大阪で済ましておきたい用があるのじゃ」
と、老人は静かに言った。
「アーナヴわかってあげて、老子は、弟子のラディッシュとナジャを殺した者を見てみたいのよ」
「しかしマニッシュ。理事会からの指示では、京都に行くようにと」
若い男がアーナヴで、女がマニュシュという名らしい。
「アーナヴ。ワシも『国際電器保安協会』の理事じゃぞ」
「それは、わかってますが」
「それに、大阪の者もワシに用があるみたいじゃ」
リンゼイ老子が指さす先に、一人の男がいた。
男は車に近づいて来ると
「アンタを待っていた」
と、リンゼイ老子に向かって言った。
「誰だ、お前。なんの用だ?」
アーナヴは、当然のことながら警戒している。
「俺は阿部仲麻呂、過去を精算するために蘇った。リンゼイ・カーン老子に頼みたい事がある」
「なるほど、ワシの素性も知っとるのか。では、お前も一緒に車に乗れ、中で話を聞く、ワシらは急ぐのでな」
高層ビルの最上階では『大阪鬼連合団体』の定例会議が行なわれていた。
「本日は、みなさんに良いお知らせと、悪いお知らせがあります」
今回も議長は、鬼塚である。
「悪い方から、お願いします」
若い男が言った。
「では、悪いお知らから行きます。奈良にDSP[デビルスペシャルポリス]のリーダー暗殺に向かったチャッピー君が死にました」
「議長。チャッピー君はアンドロイドだから、死んだと言うのは、おかしいのでは?」
「そうかな?じゃ、チャッピー君が壊れました」
「なおせますか?」
「無理だと思います。ついでに牛頭と馬頭も、DSPの転送者を殺りに行ってから行方不明です」
「戦力がた落ちですね。良いニュースの方は?」
「京都に修行に出していた、牛鬼と黒瀬が帰って来ました」
「その2人は、かなり戦闘力が上がったのでしょうね」
「黒瀬の話によると、エイブラムス戦車120台分の戦闘力がついたそうです」
「米軍の主力戦車ですか。しかし、わかりにくい例えですね」
「できれば、チンパンジーで例えてくれませんか?」
「それは、できません」
「では、うまい棒の味で、例えて下さい」
「できるかボケッ!」
鬼塚がキレた。
「うまい棒の味で、戦闘力を例えれる訳ないやろ!」
「まあ、議長落ち着いて」
川島が、なだめる。
「では、ガリガリ君の味で例えて下さい」
「うま塩豚カルビ味やな」
自信ありげに、鬼塚が答えた。
「それは例えれるんかい!!しかも、そんな味無いし!」
川島に、激しく突っ込まれてしまった。
「とにかく、チャッピー君と牛頭と馬頭が消えて、牛鬼と黒瀬が帰って来たっちゅうこっちゃ」
「3人消えて2人帰って来たから、少しマイナスですね」
「まあ、そういうこっちゃ」
『大阪鬼連合団体』の定例会議は、いつもの事ながら内容は薄かった。
「なるほど、お前さんは世の中から陰陽師や鬼を、一掃したいと言うんじゃな」
車中でリンゼイ老子は、左近こと阿部仲麻呂と話し合っている。
「そうだ。陰陽師や鬼は、この世に有ってはならぬ者。すべて抹殺する。そのために俺はDSPの左近と融合したのだ」
「それで、どちらも滅ぼした後、お主は、どうするのじゃ?」
「冥府に戻る。俺もまた、この世に存在してはいけない者だ、この国に陰陽師を伝えた責任もあるしな」
「確かに、お前さんの目的は、ワシの組織の目的と同じではある」
「老子、この男の言うことを、鵜呑みにしては危険です」
アーナヴは、阿部仲麻呂を信用していない。
「話を聞くと、お前さんは阿部仲麻呂であるが、同時にDSPの左近でもある。左近として今までの仲間を殺すことが出来るのかを、アーナヴは疑っているんじゃよ」
「もちろん、この身体は左近であるが、彼は最強になる事だけを望んでいた。今の俺からするとDSPの連中を殺るなど、造作もない事である」
「わかった。では、手始めにDSPの者を一人殺って来てくれ。そうすれば、お前さんに協力しよう」
「承知した」
話が付き、左近が車を降りた直後に、アーナヴが予想通り
「良いのですか、あのような男を信用しても?」
と、確認してきた。
「あの男は、小細工など必要ないほど凄まじい力を持っている。あれ程の男が頼みに来たのじゃ、信用してやらねばいかんじゃろ」
「老子が、それほどまで言われるのでしたら」
アーナヴも納得したようである。
前回ジャンバーを買いそびれてしまった為、虎之助と小太郎は、再びアメリカ村にやって来た。
「あれっ、姉さん。あの2人、この前いた『国際電器保安協会』の奴らとちゃいますか?」
ライアンとマーゴットが、また公園でタコ焼きを食べている。
「タコ焼きを貰いに行くでござる」
「俺は、あの姉ちゃんを、デートに誘おう」
虎之助たちがマーゴットの方へ向かっていると、黒塗りの高級車から一人の男が降りて、ライアンの方に向かって行く。
「お前たち、またサボっているな」
アーナヴが呆れながら、ライアンに言った。
「なんだ、アーナヴか。日本に来ていたのか」
「俺だけじゃないぞ、リンゼイ老子も一緒だ」
「マジか!老子が大阪なんかに何の用だ。行くなら京都か東京だろ?」
「弟子の、ラディッシュとナジャを殺った奴を見てみたいそうだ」
「アンタら、あっち行きなさいよ」
「拙者は、そのタコ焼きが食べたいでござる」
「姉ちゃん、手ェ握らしてぇや」
ライアンのすぐ隣で、マーゴットが虎之助と小太郎に絡まれている。
「それなら、この娘だ」
ライアンが虎之助を指さした。
「嘘だろ?こんな娘に殺られる2人じゃないぞ」
アーナヴは信じない。
「本当だから仕方ないだろ。氾会たちも、この娘に殺られたんだから」
「そうなのか?」
しばらく、虎之助を見ていたアーナヴは、車に戻ってリンゼイ老子に報告することにした。
「あんな小娘に、ラディッシュとナジャが負けたというのか……」
さすがにリンゼイ老子は驚いて、車の窓から虎之助を見つめる。
「しばらく大阪に居る事になりそうじゃな。アーナヴ、すまないがホテルをとってくれんか」
「わかりました。しかし、アイツら何やってんですかね?」
アーナヴは、まだ虎之助を見ている。
「よほど余裕があるか馬鹿か、どちらかじゃな」
リンゼイ老子の車は走り去って行った。
「姉ちゃん、俺と面白プール行かへんか?」
「行かないわよ!そんな変なトコ」
「タコ焼き一個ちょうだい」
「あげないわよ!アンタたち、敵でしょう!」
まだ、マーゴットは絡まれている。
「敵でも、タコ焼き欲しいでござる」
「敵とか、そんなんどうでもエエやん」
虎之助と小太郎は、ごね出した。
「おい!お前ら、いい加減にしろ!それに、面白プールって何だ?」
ライアンに、中途半端に怒られた。
「なんやお前!この姉ちゃん、お前の彼女か?」
小太郎は、喧嘩ごしである。
「タコ焼きくれたら、あっち行くでござる」
「クソッ!大阪DSPの連中は聞いてたのより、たちが悪いな。千円やるから、そこの店でタコ焼き買って来いや」
ライアンが、千円札を虎之助に渡そうとした時、虎之助が素早く小刀をライアンの首元に当てて
「お前が、買って来るでござる」
と、低い声で脅した。
ーー速い!コイツいったい何者だ。動作が全く見えなかったーー
けっきょく、ライアンにタコ焼きを買って来てもらい、上機嫌で虎之助たちは去って行った。
「どうしたの?あんな小娘の言いなりになって?」
マーゴットは、ライアンが虎之助に脅されて、タコ焼きを買って来たことが理解できない。
「あの娘、恐ろしく強い。断わったら確実に殺されていた」
そう言ったライアンの額からは、冷や汗が流れていた。
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