第67話 黒服とメガネ
文字数 2,789文字
ゼウスたちと夜叉率いる鬼の対決は、数で勝るゼウス側が有利かと思われたが、意外な事に互角の戦いとなっていた。
夜叉は圧倒的に強く、川島こと熊堂子もハーデースやポセイドン相手に一歩も引かない戦いを繰りひろげている。
ーー夜叉は分からんでも無いけど、川島があんなに強かったとは知らんかった。よし、俺も一応は茨木堂子だ、やってやるかーー
鬼塚は覚悟を決めて、敵に突っ込んで行った。
「おのれら、全員ぶち殺したる!」
バキッ
鬼塚の右フックが、ポセイドンの顔面にクリーンヒットした。
「はうっ」
吹っ飛ぶポセイドン
「ほう、やるやないか鬼塚」
夜叉は感心して鬼塚を見ている。
「思ったより、やりよるな鬼ども。だが、これで終わりだ」
ハーデースが冥界波を放つ
「ほう、冥界波か。ならば、こっちは神をも焼き尽くす、秘術『迦具土神の炎』」
夜叉が迦具土神の炎で迎え撃つ。
ドシャッ!
冥界波と迦具土神の炎が、ぶつかり合って屋敷の内部は、ほとんど破壊されてしまった。
「とどめの『魔導波動砲』」
夜叉の両手から、あり得ない程の強力な破壊エネルギーが発せられた。
ドガッ!バキッ!バキッ!
あまりにも巨大なエネルギーに耐えきれず、屋敷は粉々に吹き飛び、ゼウス側は甚大なダメージを受けた。
ポセイドン、ハーデース、ヘスティアを始め、アポロンとペガサスも重症を負ってしまい、唯一、戦闘可能なのはゼウスのみとなってしまった。
「ありゃ、なんて事だ、ギリシャ本部の猛者たちが。もう許さんぞ、神の雷を喰らえ!」
ドカーン!バリバリ、バリ!
ゼウスの必殺技『神の雷』が炸裂する。
「秘技『熊童子障壁』」
だが、川島のバリアで『神の雷』は防がれてしまった。
ーーええっ!川島ってあんな凄い技を持ってたんや。知らんかったーー
攻撃を防がれたゼウスよりも、鬼塚の方が驚いている。
さらに川島は
「迦具土神の炎」
と、ゼウスに攻撃を仕掛ける。
ーー川島の奴、あんな難しそうな名前の技まで使えるとは、なんかショックやーー
鬼塚がヘコんでいる間に、ゼウスの身体が迦具土神の炎で焼かれて行く。
「アチチっ、こりゃ熱いわ。もう、やってられん、みんな帰るぞ。ヘスティア頼む」
ゼウスのテンションが、最低値まで下がってしまった。
「しょうが無いわね」
負傷しているヘスティアは、よろめきながら立ち上がり
「アラビン・ドビン・ハゲマッチョ」
と、呪文を唱えると、多量の煙が発生し、ゼウスらギリシャ本部のメンバーは煙とともに姿を消した。
「あれっ、敵がいなくなりましたで」
鬼塚がキョロキョロしていると
「社長、逃げられたようです」
と、川島に告げられた。
「どうやら、奴ら、そうとう遠くに逃げたようやな。もう、日本には居らんみたいや」
空を見上げながら、夜叉が呟く。
ーー良かった、死なんで済んだーー
ゼウスたちとの死闘から、無事に生還できた事に、鬼塚はホッとするのであった。
夜叉たちが去った後、レムリアの屋敷があった場所に黒服の男が一人立っていた。
「夜叉か。鬼神の強さとは凄まじいものだな」
ゼウスと夜叉の戦いぶりを、偵察していたのである。
跡地には、豪華な屋敷があったとは思えないほど破壊し尽くされており、数本の柱を残すのみとなっている。
「ここで起こった事を、さっそく白鬼様に報告せねば」
黒服がスーツのポケットから、スマホを取り出そうとした時。
ガサガサ
と、物音がした
ーー誰か来たなーー
とっさに柱の裏に隠れる黒服。
「ありゃ、エライことになってまんなぁ。もの凄い音がしたから見に来てみたら、建物が全壊しとる」
「ガスでも爆発したのでござるかな」
小太郎と虎之助であった。
「姉さん、誰か倒れてまっせ」
「髭面のオッサンでござる」
2人は、ラスプーチンの死体を見ている。
ーーアイツら確かDSPの転生者だーー
黒服が気配を消して、そっと立ち去ろうとした時。
「曲者」
カッ!
虎之助が、黒服が隠れている柱に手裏剣を投げた
ーーしまった、見つかった。こうなったらしょうがないーー
「待て、私は敵じゃない」
自ら黒服は姿を現した。
「黒服の男や、コイツは悪者や」
小太郎が刀を抜く。
「ちがう、私はこういう者だ」
と言いながら、常に持ち歩いている、偽の名刺を小太郎に渡した。
「ほう、ハイパーメディアクリエイターでっか、何する人かわからんけど、怪し過ぎる肩書でんな」
名刺を見ながら、小太郎は不信がっている。
「中には怪しい人もいるけど、ウチは江戸時代から続く老舗だから大丈夫だよ」
とりあえず、適当な嘘でごまかす黒服。
「へえ、じゃ信用できますなぁ」
小太郎は、すぐに騙された。
「この男の眼鏡が怪しいでござる」
まだ疑っている虎之助が、黒服の眼鏡をひったくり、自分でかけてみた。
「あれっ、小太郎の頭に数字が出てるでござる」
ーーしまった。俺の眼鏡はスカウターになっていて、見た者の戦闘力が、数字で見えるんだーー
黒服は焦った。
「姉さん、俺にも見して下さいよ」
小太郎は、眼鏡を借りて虎之助を見てみた
「今日の、姉さんの下着は水色でんな」
小太郎は、ガン見している。
「透視メガネでござるか?やっぱり、この男は変質者でござる」
ーーえっ、そんな機能ついて無いけどーー
「殺ってまいましょうか?」
小太郎は刀を黒服に向ける。
「待て、待て。そんな機能は付いてないハズだ。ちょっと貸してみろ」
黒服は眼鏡をかけて虎之助を見てみた。
虎之助の頭の上に、なぜかプリンが1つ見えた。
「あれっ、プリンが見えるぞ。デブ眼鏡マッチョの手作り焼きプリンって書いてある」
すると、虎之助は顔を赤らめながら
「それは、拙者が、さっき食べたプリンでござる」
と、照れくさそうにしている。
ーーおかしいなあ、こんな機能も付いて無いはずなんだがーー
黒服が悩んでいると。
「とりあえず、コイツは殺しときましょうや」
小太郎が刀を黒服の首元に当てる。
「待てよ、私は殺されるような事はしてないぞ」
必死に弁明する黒服の背後に、突然、人影が現れた。
ガブッ
と、いきなり黒服は後頭部を人影に噛られて
「くふぅ〜」
そのまま息絶えてしまった。
「あっ、黒服が死んでもうた」
「こいつは、倒れていた髭のオッサンでござる」
いつの間にか、ラスプーチンが生き返っており、黒服の頭部を食べている。
「美味いわ、これ。ケチャップがあれば、もっと美味いと思うんだけど、君たちケチャップ持ってない?」
と、ラスプーチンが虎之助たちに聞いて来た。
「ひぃー、ゾンビでござる」
血まみれのラスプーチンの姿を見て、虎之助は慌てて逃げ出す。
「姉さん、待って下さい!」
小太郎も逃げて行った。
一人残ったラスプーチンは
「アポロンめ、俺を殴り殺しやがって、必ずブッ殺してやる。しかし美味いな、これ。どこで売ってるんやろ?」
と、復讐に燃えながらも、美味しいご馳走にありつけて、ご満悦であった。
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