第97話 ピロシキはモスクワの味
文字数 2,193文字
DSPの宿舎では、加藤に返り討ちにあった小太郎と狂四郎が、庭先で倒れていた。
「クソっ、姉さんさえ居ったら、あんなクソジジイには負けへんのやけどな」
悔しそうに小太郎がつぶやく。
「あのアホ娘は、どこに行ったんだ?アイツが居ないと加藤が好き放題しやがる」
狂四郎も悔しがっている。
「商店街にお菓子を買いに行ったきり帰って来ないんや。姉さん早く帰って来てや」
と、2人が虎之助の帰りを待ちわびている頃
虎之助はロシアに居た。
「お嬢ちゃん、モスクワに着いたぞ」
ラスプーチンが虎之助に伝える。
「へえー、ここがモスクワでござるか。拙者はピロシキが食べたいでござる」
虎之助は、お腹が空いているようである。
「じゃ、そこの食堂でピロシキを食べさせてやるから、俺の話を聞いてくれ」
「奢ってくれるなら、話ぐらいは聞くでござる」
2人が食堂に入ろうとしていると、ついて来た鳩が虎之助に何かを訴え出した。
「なんでござるか」
鳩の訴えを聞いてみると、自分はボルデ本山に魔法で鳩にされたモットプールであるとの事である。
「じゃ、拙者が魔法を解いてあげるでござる」
虎之助は呪文を唱えだした。
すると、たちまち鳩はモットプールに戻っていく。
と、思いきや、なぜかセクシーロシアン美女へと変化した。
「ありがとう、お嬢ちゃん。やっと元の姿に戻れたわ」
ロシアン美女は、虎之助にお礼を言った。
「もどって良かったでござる」
2人は楽しそうに笑っている。
「いやいや、お前ら、おかしいだろ。鳩にされる前は、機械のサイボーグだっただろ」
おもわずラスプーチンが、突っ込む。
「そんな細かいことを言われても、困るでござる。悪質なクレームは受け付けないでござる」
虎之助は自分の術を、おかしいと言われて、迷惑そうな顔をした。
「全然、細かく無いと思うけどな」
ラスプーチンは、納得していない。
「そんな事より、早くピロシキを食べるでござる」
虎之助は、かなりお腹が減っているようだ。
「そうだった、ピロシキを食べながら、怪物退治の話をしなくては」
ラスプーチンは、本来の目的を思いだした。
とりあえず、3人は食堂に入ってピロシキを食べるのであった。
虎之助より、少し遅れて鬼塚たちはロシアに到着した。
「ロシアは寒いわ」
鬼塚が寒さに震えているので
「なんだ、だらしがないぞ。あのラスプーチンって男を殺すんだろ?」
ボルデ本山から励まされていた。
「そうやねんけど、優先する任務は、あの女の子を上司の所に連れていかなアカンねん」
「あの女の子って、ラスプーチンが抱えていた娘のことか」
「そうや」
ボルデ本山は、少し考えてから
「あの娘は、いったい何者なんだ?吾輩も、なぜか見覚えがあるんだが」
と、たずねた。
「その説明をすると長くなるから、あそこのレストランに入ってウォッカでも飲もうや。もう寒くてかなわん」
「レストランに入るのは、かまわんが、ロシアのお金は持っているのか?」
「日本円しか持ってへんわ。どっかで両替してもらわんと」
鬼塚は、キョロキョロと街並を見渡すが、ふと、会社を出る前に夜叉からもらった小袋のことを思いだした。
「そや、夜叉さんが困った時には、この小袋を開けろって言ってたな」
鬼塚は期待を、ふくらませながら小袋の中を確認する。
小袋の中には、神社の御守りが1つ入っていた。
「やったー、お守りや、ムッチャ欲しかったんや。って喜ぶわけないやろ、神様は俺ら鬼の敵やで」
鬼塚はガッカリした。
「ちょっと待て、その御守り、少し分厚くないか」
ボルデ本山が、御守りの不自然なふくらみに気づいた。
「ほんまや、分厚い御守りが前から欲しかったんや。って言うわけないやろ!」
不機嫌そうに鬼塚が言った。
「そうじゃなくて、分厚いって事は、中に何か入ってるんじゃないか」
「えっ、そうなんか」
鬼塚は、捨てようとしていた御守りの中身を、あわてて確認する。
「あっ、お札が何枚か入ってる」
「おおっ、5000ルーブル紙幣じゃないか、ロシアのお金だ」
ボルデ本山はロシアのお金に詳しいようである。
「へえ、これでレストランに行けるかな」
「充分だ。ウォッカを飲んで好きな物が食べれるぞ」
「やったー、って。なんで夜叉さんは、ロシアのお金を俺に持たせたんやろ」
鬼塚が悩み出した。
「まあ、そんな事より、早くレストランに入ろう。吾輩も腹が減ってきた」
ボルデ本山に促されて、鬼塚はレストランに入るのであった。
その頃、日本では、夜叉が川島から電話で報告を受けていた。
「なにっ、鬼塚がボルデ本山という魔法使いとロシアに」
電話を終えると、夜叉は
「ロシアか、ワシの予知夢が当たったな。だが、川島が一緒じゃないというのは誤算であった」
と言って、ため息をついた。
巨大で邪悪な妖気が、数日前よりロシアで発生している。
夜叉は、鬼塚がロシアに行って、その邪悪な者と対峙する夢を見た。
鬼神が見た夢は、現実に起こることが多い。
日頃から、いまいち頼りない鬼塚を、きたえ直す良い機会だと思い、ロシアのお金も持たせておいた。
しかし、川島も同行すると思っていたのだが、ボルデ本山とかいう、よくわからない男と一緒だとの事である。
川島が一緒でないとなると、鬼塚が非常に危険だ。
「しかたない、ロシアの友人に鬼塚のガードを頼むとするか」
夜叉は鬼塚への親心から、ロシアへ電話をかけるのであった。
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