第17話 師弟対決でござる
文字数 3,894文字
伊賀栗の助と虎之助は対峙しており、まさに、超一流の忍者どうしの死合が始まろうとしていた。
「いかに、お前が5万年に一人の逸材であろうとも、拙者には、まだ伝授していない秘術がある。拙者が負けることは決して無い!」
栗の助は刀を鞘に収めると、なにやら呪文を唱えだした。
すると、栗の助の身体が幾つも分裂していき、7人の栗の助が現れた。
「これぞ、イガグリ忍法『北斗死殺の術』だ、この術から逃れた者は、15人しかおらん!」
ーー15人も居るのかよ!ーー
隠れて見ている霊鬼は、おもわず声に出しそうになった。
「さすがは、お師匠様、やるでござるな。まるで、北斗神拳みたいでござる」
虎之助は感心している。
「では、拙者も術を出すでござる。この術から逃れられなかった者は、一人も居ないでござる」
虎之助も、なにやら唱えだした。
すると、虎之助が着ている服が変化してピンクのセーラ服となり、刀は丸い玉が付いた棒へと変わって、魔法セーラ戦士ポピリンに変身した。
ポピリンは大きな声で
「じっちゃんの名にかけて、お仕置きでござる!」
と、さけんだ。
ーー全員に逃げられてるやん!それに、じっちゃんって誰だ?ーー
こいつら、アホすぎる。霊鬼は必死に口を、おさえて出そうになる声をこらえた。
「さすがは、我が高弟であるな、凄まじい術だ。だが、お遊びはここまでだ。そろそろ死んでもらうぞ」
栗の助は、一体に戻ると、ゆっくりと円を描くように近付いて来る。
「拙者は、戦いたくないでござる」
虎之助は、まだ、魔法セーラ戦士ポピリンの姿のままである。
「イガグリ忍法『金剛鉄』の術。この術を使用している間、拙者の身体は鋼より固くなり、いかなる攻撃も通用しない、生涯無敗の術だ」
走りながらも栗の助の拳は、虎之助の心臓を狙って来る。
ーーお師匠様は本気でござる。このままでは殺られるーー
そう感じながらも虎之助は、修業時代のことを思い出していた。
「よいか虎之助。万物は全て大地から生まれて来る。この鋼の鎧ですら、元は鉄を含んだ石から作るのだ。そして、いずれは大地に戻り土に還るのだ」
幼少時代の虎之助は、栗の助の話を真剣に聞いている。
「よって、この世に破壊できぬ物は無く、すべての物は土に還すことが出来るのである。修行を積めば手刀で、この鎧でさえ貫くことが出来る」
「では、お師匠様は、この鎧も貫けるのでござるか?」
栗の助は、近くの岩に深ぶかと手刀を突き刺して
「今の拙者の腕では、この岩までだが、技術を極めれば、どんな物でも手刀で貫けるようになる。この鋼の鎧も、いずれは土に戻る物だ、貫けぬ訳がない」
と、説明する。
「凄いでござるね」
虎之助は、尊敬の眼差しで、栗の助を見ている。
気が付くと、自分の手刀が栗の助の胸を貫いていた。
「お師匠様……」虎之助は泣いていた。
死合が終わったのを見届けると、霊鬼が実体を現して近付いて来た。
上着のポケットから、何かを取り出すと
「これを、使いな」
と、虎之助にハンカチを渡す。
「かたじけないでござる」
ハンカチを受け取った後も、虎之助は泣き続けた。
ーーこれじゃ、とても殺す気にならないわーー
泣きじゃくる虎之助を後に、霊鬼は去って行く。
桜田刑事たちが到着した時には、狂四郎が救急車で搬送される所であった。
どうやら、虎之助が呼んだようだ。
「だいじょうぶ?狂四郎君!」
桜田刑事が駆け寄るが、返事は無く、そのまま救急隊員に搬送されて行った。
あとは、倒れている栗の助の側で、泣きじゃくる虎之助だけである。
「姉さん!何があったんです?」
小太郎が聞くが、虎之助は泣き続けている。
「栗の助は、息絶えている」
岩法師が、栗の助に近寄り確認していた。
桜田刑事と岩法師は、安倍顧問からの事前情報で、なにが起こったのか察することが出来たが、小太郎には、さっぱりわからない。
「小太郎、そっとしておいてやれ」
「はい」
そう言われ、小太郎も、なにかを感じとり虎之助から離れた。
ビジネス街の高層ビル最上階では『大阪鬼連合団体』の臨時カンファレンスが行われていた。
議長は鬼塚である。
「今日は、みなさんに、大切なお知らせがあります」
「やっと、あの小娘を殺ったんですか?」
中年の男が聞いた。
「ぜんぜん違います。霊鬼姉さんから『国際電器保安協会』という組織が、鬼と転生者の抹殺に乗り出した、との情報がありました」
「なんですか、その組織は?」
「それが、良くわからんねん」
「鬼を含めた、異能者の排除が目的の国際的組織のようですね」
川島が説明し始める。
「そんな組織が、あったのですね」
カンファレンスの参加者たちは、驚いている。
「なんでも、中世ヨーロッパの魔女狩りの時代からあるそうです」
川島は、くわしく知っているようである。
「えらい昔から、あんねんなぁ」
「それが日本にまで進出して来るとなると、対応を考えねばなりません」
「そうやなぁ」
「悪魔払いや吸血鬼退治もしていたそうです。鬼は英語に訳すとデビルですから、とうぜん狙われます」
「俺らも悪魔払いされるんか、イヤやなぁ。そういえば、霊鬼姉さんがDSPにも『国際電器保安協会』のメンバーが潜り込んでいて、例の小娘に始末されたって言ってたで」
「それで、けっきょく霊鬼さんは小娘を倒せたのですか?」
若い男性が、たずねた。
「なんか、一度負けたらしいねんけど、霊鬼姉さんは、そのまま田舎に帰ってもうた」
「あの、質問があるんですけど」
さきほどの、若い男性が手を挙げた。
「なんや」
「小娘に負けた鬼は、よく田舎に帰りますけど、田舎って、いったい何処なんです?」
「さあ、岡山県とかちゃう」
「昔話で、鬼ヶ島とか、ありますもんね」
「じゃ、鬼は全員、岡山県出身なんですか?」
「そうちゃうの」
「鬼の田舎は、秋田県じゃないですか?」
「それは、『なまはげ』や」
『大阪鬼連合団体』の臨時カンファレンスは、特に得るものも無く続くのであった。
安倍顧問は大阪に到着すると、すぐに警察病院へと向かった。
なんとか一命をとり止めた狂四郎の病室に入ると、桜田刑事が待っていた。
「狂四郎の容態は、どうだ?」
「刺された後、すぐに仙道で出血を抑えたみたいで命に別状は無いそうですが、しばらく入院することになりました」
「話せるか?」
「今は寝ていますが、会話は大丈夫です」
「なにが起こったのか、詳しく聞きたいのだが」
「とりあえず、私が知ってることを話しますね」
桜田刑事は、岩法師と狂四郎・虎之助から、それぞれ事情を聞いており大体のことは把握できた。
「虎之助は、今どうしてる?」
「相当落ち込んでるみたいで、自分の部屋に籠もったままの様です」
「そうか。しかし、その『国際電器保安協会』という組織が気になるな。少し調べてみる」
安倍顧問は病室を出ようとした。
「どちらに行くのですか?」
「まず、大阪府警に行って、手掛かりが無ければ警視庁の弟に聞いてみるつもりだ」
そう言うと、安倍顧問は行ってしまった。
「桜田刑事……」
狂四郎が目を覚ました。
「どうしたの?狂四郎君」
「すいません、僕が油断したせいで、大袈裟なことになってしまって」
「ごめんなさい。栗の助のことは、安倍顧問から電話で気を付けるように言われていたのに、アナタに伝えていなくて」
「いえ、じつは僕は始めから栗の助を怪しんでいたのです。僕ら仙道士は、直感で嘘が見抜けることがあるので。ただ、京都DSPの人を疑っている事は口外できないので黙っていたのですが」
「そうだったの。仙道士って凄いわね」
「僕は、まだ未熟です。それより、さっき誰か来てませんでしたか?」
「安倍顧問が来てたけど、アナタを起こすのは遠慮したみたいね」
「たしか、あの人は警察の顧問ですよね?」
「そうよ」
「僕を刺した後、栗の助が『警察内にも『国際電器保安協会』のスパイが居るって言ってました」
「なんですって!」
関西国際空港に向かう旅客機に、その男は乗っていた。
ジャンボジェット機の座席が狭いようで、いごこち悪そうに座っている、筋肉質の大男である。
「もうすぐ関空か」
タイメックス社製の腕時計を見ながら、つぶやく。
彼は、できるだけ母国製の物を使用したいという、愛国心の強い男である。
腕時計もアメリカ製の物を使うようにしているのであるが、現在のアメリカは、腕時計を作っているメーカーが少なく、タイメックス社かスマートウォッチかの二択状態であり、仕事柄、衝撃に強いタイメックス社製の物を愛用している。
彼は『国際電器保安協会』のエージェントであった。
しかも、異能力者に対抗するために戦闘用に骨格や筋肉に強化手術を施した強化人間である。
彼は身体の、ほとんどが強化されており、もはやサイボーグと言ってもさしつかえない。
名を、バビエル・ロドリゲスといい、ロサンゼルスから日本の異能者を抹殺するために、やって来たのである。
ーー日本のデビルと異能者を、みな殺しにしてやる。殺し終わったら、アニメグッズをいっぱい買って帰ろうーー
バビエルは笑みを浮べ、魔法セーラ戦士ポピリンのフィギュアを買っている自分の姿を想像した。
愛国者のバビエルではあるが、日本のアニメとコミックも愛するオタクでもあった。
空港に着いてゲートを通ろうとした時、金属探知機のブザーが、けたたましく鳴った。
ーーしまった!俺の身体は半分機械だったーー
「お客様ちょっとこちらへ」
警備員に、別室に連れて行かれそうになった。
「ワタシ、日本語わかりませ〜ん」
と、ごまかしたが、当然のことながら無駄であった。
バビエルは、アメリカに強制送還された。
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