第80話 闇の死闘パート4
文字数 2,049文字
「なかなか襲って来ないでござるな」
黒い影は、先程からコチラを見すえているが、まったく動いていない。
「みょうだな」
岩法師は少し思案してから
「もしや」
と、黒い影に向かって走って行った。
「急に走り出して、どないしたんや?」
小太郎は、岩法師の行動を不思議がって見ている。
「人食いバクテリアに脳を喰われて、おかしくなったのでござるな」
虎之助が岩法師の症状を、わかりやすく解説した。
「えっ、そりゃ大変や」
「たぶん、先週ジャングルに行って裸祭りに参加した時に、バクテリアが脳に入ったのでござるな」
「岩法師先生は、そんな事してたんでっか」
「日頃から、裸で踊るのが大好きじゃ、と言ってたでござる」
ボカッ
「こらっ!デタラメを吹き込むな!」
虎之助は頭を軽く殴られた。振り向くと、いつの間にか岩法師が戻って来ている。
「戻っていたのでござるか」
「拙僧が裸踊りが好きな訳ないだろ!それよりアイツらは幻影だった」
「幻影って。俺らは、幻を見せられてたんでっか」
「そうだ、最初に襲って来た一人だけが本物だったんだ。おそらく我らを足止めするのが目的だろう」
岩法師は、悔しそうに言った。
「なんで、そないな事するんやろ」
小太郎には、足止めされた理由がわからない。
「わかった、ドッキリでござる。どこかに隠しカメラが仕掛けてあるでござる」
虎之助には解ったようだ。
「違うわ!フロントガラスをブチ破るようなドッキリがあるか!」
しかし、全然、違っていたようだ。
そこへ、桜田刑事が呼んだパトカーがやって来た。
「みんな、パトカーで現場に送ってもらうわよ」
電柱にぶつけた車が動かなくなったので、転生者たちはパトカーで移動する事となった。
「君が撒いた毒は、このラスプーチンが全部吸い込んで回収した」
毒に犯されて倒れている鬼一の前に、ロマノフ議員とラスプーチンが立っている。
「そして別の物を私が撒いた。今、君が苦しんでいる特別の毒だ。無論、我らは解毒剤を服用しているがな」
鬼一に向かって、ロマノフは続ける。
「ロシア支部は毒に対してのスペシャリストだ。毒に関しては、君ごときが及ぶところでは無い」
ーー俺の戦術を読まれていたのか。もはや、これまでか。使いたくはなかったが、致し方ないーー
「なるほどな、そういう事か、残念だが仕方ない。京八流最終奥義『月影の剣』」
鬼一の手に薄青白く光る剣が現れた。
「俺の死を賭した奥義だ、ありがたく受けてみよ」
そう叫ぶように言いながら、ロマノフとラスプーチンに向かって剣を振りかざす。
「無駄な、あがきはよせ」
ロマノフは、いつの間にか剣を手にしており、鬼一の攻撃に備える。
ーー確か、あの薄青白く光る剣は、なにかヤバい物だったようなーー
ラスプーチンは警戒して一歩下がった。
鬼一が振り下ろした剣をロマノフが剣で受け止めた。が、鬼一の剣はロマノフの剣を通り抜けてロマノフの右肩に深々と斬り込んだ。
「くっ」
小さなうめき声をあげながらロマノフは、右肩から剣を抜こうとしたが見当たらない。どうやら剣は消えてしまったようである。
「『月影の剣』は別名『死光剣』と言われ斬られた者は近々死ぬ運命にある」
毒がまわって倒れ込みながらも、鬼一がつぶやいた。
ーーそうだ、思い出した、あの剣は死の剣だ。確か使用した術者にも死が訪れるという呪いの術だ。ゆえに使用する術者も数百年前に絶えたはずだーー
呪術に長けているラスプーチンが、久しぶりに恐怖を感じた。
「苦し紛れに戯言を言いおって」
ズブっ!
ロマノフの剣が鬼一の胸を貫く。
「ぐふっ」
鬼一は、そのまま動かなくなった。
ーー虎之助よ、すまないーー
スッと、なにか魂のような物が、鬼一の身体から抜け出して行く。
虎之助に謝罪しながら、鬼一は絶命した。
鬼一の死を見届けたロマノフは白鬼に向かって
「雑魚は始末した。次は、お前の番だ」
と、言い放つが
「ロマノフ議員、不吉な予感がします。今日のところは、引き上げた方がよろしいかと」
先程の『死光剣』が、どうしても気になり、ラスプーチンは一旦引き上げることを進言した。
「君は、あんな戯言を信じるのか。仮にそんな物があったとしても私には通用しない、私はスヴェントヴィトだ。神である」
ロマノフは自信を持って言い切っているが、ラスプーチンは不安でたまらない。
ーー神々でも『死光剣』の呪術からは逃れられない、彼は必ず近いうちに死ぬことになる。いま鬼神レベルの敵と戦ったりしたら確実に命を落とすだろうーー
「いえ、今回は引きましょう」
ラスプーチンが、なんとかロマノフを引き下がらせようとしていると、パトカーで送ってもらった虎之助たちが到着した。
「あっ、鬼一さんが倒れてまっせ」
小太郎が素早く鬼一に駆け寄る。
「大変や!鬼一さんが息をしてない」
それを聞いた虎之助が、急いで鬼一のもとに走って行く。
「鬼一、鬼一!起きるでござる!」
大声で呼び掛けて、体を揺するが、鬼一は全く反応しない。
「鬼一ぃ〜!」
虎之助の声が闇の結界に響きわたった。
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