第140話 アレクサンドリア大帝
文字数 2,278文字
「姉さん、すんまへん」
地中のマントル付近まで埋まっていた小太郎を、虎之助と地底人ジョーンズが助け出してくれた。
地底人ジョーンズは、ジェントルマンらしく膝をついて虎之助の手の甲に軽くキスをすると
「では、私はこれで失礼いたします、マドモアゼル」
と、紳士のような振る舞いで去って行く。
「あの地底人は、姉さんの友達でっか?」
小太郎は、いきなり現れて、自分を助けてくれたジョーンズの事を尋ねた。
「拙者の元カレでござる」
すると、意外な返答が返って来た。
「ええっ!姉さん、地底人と付き合ってたんでっか?」
小太郎は腰を抜かすほど驚いた。
「嘘でござる」
だが、嘘であった。
「お前ら、くだらないこと言ってないで、早く士会鬼様をなんとかしてくれよ」
羅刹と燕鬼は、身の危険を感じているので、気がきでは無い。
だが、鬼の始祖ともなると、居所を探し出すだけでも大変そうだ。
「わかってまんがな。それで士会鬼っていう奴は、どこに居るんや?」
小太郎は、なんとなく京都の山奥に住んでいると想像しながら聞いた。
「京都の河原町だけど」
燕鬼は、意外な場所を言った。
「ええっ、そんな賑やかな所に居るの?」
「そうだ。士会鬼様の命を狙う者はいるが、彼を倒せる者が存在しないので、隠れ住む必要が無いのだ」
羅刹が説明した。
確かに、倒せる者がいないなら身を隠す必要は無い。
「おい、小太郎。本気で士会鬼を殺りに行くのか?」
心配そうに加藤が確認する。
「そうや。俺らは京都に疎いから、アンタが案内してくれや」
「えっ、ワシが?」
士会鬼の恐ろしさを知っている加藤は、さすがに躊躇している。
鬼神たちが束になっても勝てない相手に、自分や小太郎が勝てる訳が無い。
「確かに、士会鬼は、いずれ倒さなければならない敵ではあるが」
加藤は言葉を濁す。
「なんだが、取り込み中みたいだから、私はこれで失礼するわ」
そう言っている間に、西王母は柴犬を連れて帰ろうとしていた。
「ちょっと、西王母様も手伝って下さいよ」
加藤はDSPのメンバーだけで、士会鬼を倒す自信が無いので、西王母を引き止めた。
「私は、そんな雑魚は相手にしない事にしてるのよ。じゃ、万が一アンタが生きてたら、また会いましょう」
と言い残すと、西王母は犬を連れて帰ってしまった。
「西王母様がいないと、士会鬼を倒すのが難しくなるな」
「大丈夫や加藤はん。こっちには姉さんが居てはります」
小太郎は虎之助に頼るつもりのようだ。
「拙者も、そんなゲスな生き物は相手にしないでござる」
虎之助も帰ろうとしている。
「いやいや、姉さんは居ないと無理なんで、一緒に来てくれないと困りますわ」
当然、小太郎は引き止めた。
「じゃ、万が一お主たちが生きてたら、また会う事もあるかもしれないござる」
虎之助は、西王母の真似をして、帰ろうとした。
「姉さん、頼んますわ。協力して下さいよ」
さすがに小太郎も、士会鬼を自分の力だけで倒せるとは思っていない。というより、始めから全てを虎之助に任せるつもりであった。
「しょうがあらへん。こうなったら、力ずくでも連れて行きまっせ」
小太郎は、呪文を唱えて出した。
すると土の中から魔人『アレクサンドリア大帝』が現れた。
大柄で、いかにも強そうな屈強な身体付きをしている。
「魔人よ、姉さんを連れて行くんや」
小太郎が指示すると
「承知した」
アレクサンドリア大帝は、自信ありげに虎之助に向かって行く。
「強そうな魔人でござるな。だが、まだ拙者から見ると、ヒヨッコでドジっ子でござる」
虎之助はポケットからビスケットを取り出すと、アレクサンドリア大帝に渡して
「これをあげるから帰るでござる」
と、交渉し始めた。
「これっぽっちじゃ、駄目だな」
アレクサンドリア大帝のような大男には、ビスケット1枚では足りないようだ。
「じゃ、黒ネコのイラスト入りガムも、あげるでござる」
虎之助は、フィリックスガムも渡した。
「まだ、足りないな」
「じゃ『都こんぶ』も、あげるでござる」
虎之助は、懐かしい塩昆布のお菓子も渡そうとした。
「そんな爺くさい物は、いらん」
『都こんぶ』は、アレクサンドリア大帝に断わられてしまった。
「我がまま言うと、お菓子の代わりに、拙者が、お前を食べるでござる」
大好きな『都こんぶ』を断わられて、怒った虎之助が、口を大きく開けて、アレクサンドリア大帝を威嚇し始めた。
「わかった、わかった。帰れば良いんだろ」
何故か虎之助の威嚇で、あっさりとアレクサンドリア大帝は帰って行った。
「ああっ、久しぶりに、まともな魔人を呼び出せたと思ったのに」
帰って行くアレクサンドリア大帝を見ながら、小太郎は打ちひしがれている。
「小太郎の魔人が、帰ったでござる〜。拙者の勝ちでござる〜」
勝利のダンスを踊りながら、勝ち誇っている虎之助であったが
「虎之助、一緒に行ってやれよ。ワシも行ってやるから」
しかし、一部始終を見ていた加藤から、見かねて頼まれてしまった。
「そうッスよ、僕も行くッスから」
さらに、小太郎に同情した武蔵にも頼まれた。
「仕方ないでござるね。じゃ、さっさと行って士会鬼とやらを、ブッ殺すでござる」
虎之助も、やっと行く気になったようだ。
「やったー。姉さんが来てくれはったら敵無しや」
虎之助が一緒に来てくれる事になり、小太郎は大喜びするのであった。
アレクサンドリア大帝は家路につきながら
ーーあの小娘が俺様を食べると脅したとき、一瞬であるが数百年ぶりに恐怖を感じた。いったい、あの娘は何者だ?ーー
と、思いながら足早に帰って行くのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)