第6話 黒瀬の不安でござる
文字数 1,829文字
鬼塚と川島は、黒瀬からの報告を受けて[大阪鬼連合団体]の緊急カンファレンスを開いていた。
大阪鬼連合団体とは、日本テクノロジーコーポレーションを含めた、大阪在住の主な鬼たちが集まっている団体である。
「今日は、みなさんに、いくつか報告することがあります」
議長は鬼塚である。
「30年ぶりに牛鬼が覚醒した。これで大阪支部にSランクの鬼が4人そろいました」
「四天王の復活ですな」
初老の男が、しみじみと言った。
「悪いニュースもある。今までで最強の転生者が現れた。ウチの黒瀬の話だと、若い娘やそうや」
「最強と言いますと、どのぐらい強いんですか?」
若い男が質問する。
「並の鬼武者では、瞬殺されるぐらい強い。見た目が小娘だからといって、あなどれない相手や。動きの素早さからして、おそらく前世では忍びの者だ」
「忍者ですか、奴らは一流の者ほど名を残さない。前世の情報がないので厄介ですね」
「それが何でか、転生してからは、虎之助と堂々と名のっているんや」
「変わった忍ですね」
「変わっているが凄腕や。放っとけば鬼神たちの耳に入る」
鬼神という言葉で、一同に緊張が走った。
京都には鬼神と呼ばれる、恐ろしく強い鬼たちが居る。その鬼神に対抗するため、京都府警のDSPには、渡辺綱や芹沢鴨といった、歴史上でも凄腕の転生者が配属されている。
「マズいですね。四天王の誰か出動できませんか?」
鬼塚は、少し考えてから答えた。
「そうやなぁ。在阪の四天王は、まず俺が茨木堂子やろ、あと熊堂子・金鬼・霊鬼が居て、牛鬼が新しく加わるから」
「ちょっと待って下さい。四天王なのに5人いますやん」
「あっ!ホンマや」
「こうなったら、四天王という名称を変えましょう」
「そうやな、なにか良い案はあるか?」
「五鬼レンジャーというのは、どうでしょうか?」
まず、若い男が提案した。
「アホか、お前は。レンジャーなら人々を助けなきゃアカンやろ」
「五鬼大将は、どうですか?」
中年の男も提案する。
「そんな、ガキ大将みたいな名前はダメや」
「令和ファイブは?」
「なんか、弱そうやな」
「鬼殺し特戦隊はどうでしょう?」
「意味がわからん。なんで鬼殺しなんや?鬼は殺しちゃダメやろ」
「なんか、強そうだと思いまして」
「そんな理由じゃアカン、みんな真面目に考えろ」
「じゃ、五人囃子で行きまょう」
「それは、なんか少し怖い」
川島が気に入らないようである。
「三代目デビルブラザーズは、どうでしょう?」
「それや!」
やっと、鬼塚の気に入る名前が出た。
「いきなり三代目って。初代もニ代目もいないのに」
これには川島が反対した。
「ほんなら、やめや。他に何かないんか?」
その後も多数の意見が出たが、鬼塚の気に入る案は出て来なかった。
大阪鬼連合団体のカンファレンスは、長時間に渡って行なわれたが、内容は意外にも薄かった。
大阪市の、とある、お好み焼き屋では、30歳前後の男と若い娘が話し込んでいた。
「おい、黒瀬。あの若林と言う若造は何者でごる?モグモグ」
虎之助が、お好み焼きを口に詰め込みながら、男に聞いている。
「そう言われましても、私にもわからんのです。あの時までは普通の気弱な若者でしたので。それより、もう帰っても良いですか?こんな所を仲間に見られたら殺されます」
「ちゃんと話さないと、仲間に殺される前に拙者が、お前を殺すでござる」
ーーこの小娘は、本当に殺る気だから怖いーー
黒瀬は心底怯えていた。
鬼武者は、一般の鬼と比べると、かなり戦闘力が高い。黒瀬は、その中でも上位の部類に入る強者である。
その俺が、こんな小娘に怯えてるなんて、以前なら考えられない事だが本気でこの娘はヤバい。
「わかりましたよ。本当かどうか知りませんが、ちょっと聞いた話では、若林の祖父も牛鬼に変身できたそうです」
「わかった。では次はカフェで、拙者にタピオカミルクティーを奢るでござる」
「また、奢るんですか?」
「ガタガタ言わないで、殺されたくなければ奢るでござる。さては、拙者がAカップだからって舐めてるでござるな」
「いやいや、とんでもない。舐めてませんよ、ちゃんと奢りますよ」
ーー華奢な身体だとは思っていたが、こいつAカップだったのかーー
それにしては、よく食うな。
もしかして、俺から情報を聞き出したいんじゃなくて、食べ物を奢って欲しいだけじゃないのか?
どちらにしろ、とんでもない奴に、目を付けられてしまった。
黒瀬は、いろんな意味で不安になるのであった。
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