第75話 愛が芽生えるとき
文字数 1,861文字
「こらっ、俺の顔で遊ぶんじゃねえ!」
虎之助にビューティフルチョップをされて、羅漢鬼は激怒している。
「良いじゃないか、イケメンになったんだから」
「そうでござる、イケメンは怒っちゃダメでござる」
鬼一と虎之助が、そろって言い返す。
「えっ、そんなにイケメンになったのか?」
2人にそう言われて、自分の顔を見ていない羅漢鬼は、少し気になって来た。
「どっかに鏡はないかな」
羅漢鬼は鏡を探しだした。
ーースキあり、今でござるーー
「拙者の、もう一つ属性を試すでござる」
虎之助が何やら術を唱えると、どこからともなく数十匹の黒蛇が這い出して来た。
黒蛇は、それぞれが暗黒闘気をまとっており、骸骨のような不気味な外見をしている。
そんな黒蛇が、次々と羅漢鬼に襲いかかった。
「うわっ!なんだコイツら」
必死に払い落とそうとするが、黒蛇の集団は、しつこく向かって行き、羅漢鬼の身体に喰らいつく。
つかんで引きちぎろうとするが、暗黒闘気に守られている為、引きちぎる事が出来ない。
醜悪な姿をした何十匹もの黒蛇に羅漢鬼が喰われていく。
「俺の再生能力を舐めるな」
食われた部分を再生して行くが、黒蛇に食べられる速度の方が早く再生が間に合わない。
「うえっ!なんて、おぞましい技だ」
味方の攻撃ではあるが、鬼一は気持ち悪くて見ていられなくなった。
見る見るうちに羅漢鬼は、食い尽くされて行く。
「うぎゃぁあ、助けてくれ」
羅漢鬼の断末魔が聞こえる。
黒蛇たちは、完全に羅漢鬼を食い尽くすと、うねりながら暗黒闘気と共に天高く空に登って行った。
先程まで羅漢鬼の居たところには、跡形もなく食い尽くされて何も残っていない。
あまりにも残虐な光景を見せられた他の鬼たちは、怯えて逃げ去ってしまっている。
「拙者の2つ目の属性は、蛇でござるな」
勝手に虎之助は納得して、満足げな顔をしているが
「いや、お前の属性というか、今のは悪魔の所業だ!」
鬼一は声を震わせている。
百戦錬磨の戦士である鬼一が怯えた表情をしている。
ーーうわっ、鬼一が怯えて引いているでござる。なにかマズかったかなぁーー
「違うでござる!さっきのは何かの間違いでござる」
顧問である鬼一に引かれて、あせった虎之助は弁明し出した。
「さすがに今の術は恐ろし過ぎる、人の身で出来ることでは無い。きっ、君はいったい何者だ!」
怯えながらも、鬼一が尋ねる。
ーーヤバい、なんとか誤魔化さないと、拙者が邪悪な悪魔だと思われてしまうーー
「ほらっ、鬼一。これを見るでござる」
五円玉を糸で吊った物を鬼一に見せると、虎之助は五円玉を揺らしながら
「眠くなぁる、眠くなぁる、そして今見た事は忘れるでござ〜る」
と、唱えた。
「くふっ」
パタリ
虎之助の術で鬼一は、その場で深い眠りに落ちて倒れ込む。
「ふぅ、唐沢家極秘術『忘却術』なんとか成功したでござる」
額の汗を拭いながら、今度は眠っている鬼一を抱き起こして
「鬼一。起きるでござる」
と、声をかける。
すると「はっ」と、鬼一が目を覚ました。
なぜだか、虎之助に膝枕をしてもらって寝てしまっていた様である。
「恐ろしい夢を見ていた気がする」
と、呟き、気が付くと大量の冷や汗をかいている。
「恐い夢を見ていたの?でも、もう安心でござるよ。敵は拙者が倒したでござる」
「状況が良くわからないが、君が倒してくれたのか。ありがとう、もう大丈夫だ」
鬼一は立ち上がろうとしたが
「もう少し、休んだ方が良いでござる」
先程の怯え様を見ていた虎之助は、極わずかしか持ち合わせていない母性本能がくすぐられて、鬼一のことが可愛らしく思えた。
「いや、そうも言ってられ…」
そう言いかけた鬼一が立ち上がろうとした時、虎之助の顔が間近で見えた。
ーー近くで見ると、なんと優しげで美しい娘だ。それに、もう何年も経験していなかった、この和らぎは、なぜか無性に落ち着く。できる事ならずっと、こうして居たいーー
と、久しぶりに女性の母性的な優しさを感じ、心を奪われてしまった。
今この瞬間、日常では良くある事と言い伝えられている『勘違いから生まれた愛』が芽生えようとしていた。
見つめ合う2人は、お互い激しく抱きしめ合い、唇をかわす。
その後ろで、まだチワワとタヌキと会話している武蔵。
そのまた後方の自販機の裏で、退避したままの小太郎と狂四郎。
戦いは終わった。
だが、鬼一は他のメンバー同様に、戦うことしか知らなかった人生を送って来たため、女性を見る目が皆無であった。
そして、武蔵・小太郎・狂四郎は阿呆であった。
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