第112話 妖怪尻ふき
文字数 2,204文字
愛宕山を捜索中の加藤たちの前に、突如として西王母が現れた。
「崑崙から見ていましたが、いったい何をしているのですか、アホの加藤?」
「なにを、って。白鬼の屋敷を探しているんですよ」
加藤は当然のように答えた。
「こんな柴犬が、白鬼を探せる訳ないでしょう」
西王母は、少し怒っているようだ。
「いや、これは柴犬に見えるが、実はケルベロスなんだよ」
ハーデースが説明する。
「バカか、お前は、この犬のどこがケルベロスなんだよ。この真実の姿を映すマーの鏡で見なさい、この負け組クズ魔神が」
急に口汚くなった西王母が、マーの鏡をハーデースに渡した。
「そんなに言う事ないだろう、ひどいな西王母は」
と、愚痴りながらマーの鏡に柴犬を写してみた。
「あっ、コイツ本物の柴犬だ」
マーの鏡には普通の柴犬が写っていた。
「ほらね、私の言った通りでしょう」
西王母が勝ち誇ったように言った。
「じゃ、本物のケルベロスは、いったいドコに居るんだ?」
焦るハーデース。
「知るか!落ちこぼれ社内ニートが」
「ひどいな。言いすぎだ」
西王母に罵られて、テンションがダダ下がりのハーデース。
「くそっ、こうなったら、お前の正体も暴いてやる」
ヤケになったハーデースは、マーの鏡を西王母に向けた。
「キャーッ、何するの!やめてよー」
嫌がる西王母だが、マーの鏡には普段の西王母の姿しか写っていない。
「おかしいなぁ、もっとハッキリ写してやる」
「キャーッ、やめてよ、この変態男子」
やめてよ、と言いながらも、西王母は嬉しそうに逃げ回っている。
「ちょっと、アンタたち。ふざけてないで真面目に白鬼を探しなさいよ」
2人の様子を見て、ヘスティアが怒りだした。
「いや、ふざけてるつもりは無いんだが、ケルベロスがドコに行ったのか心配で」
ハーデースが弁解する。
「それに、この柴犬がケルベロスじゃ無いとしたら、時空の歪を探せなくなってしまったな」
ポセイドンは、腕組みしながら考え込んでいる。
「大丈夫です。こんな事もあろうかと、私は以前から嗅覚と聴覚を鍛えて来たので、私が探してあげましょう」
自慢げに西王母が言った。
「アンタ、この時のために、本気で鼻と耳を鍛えていたのか?」
ポセイドンが驚いて尋ねる。
「そうですよ、10年前から鍛えていました。しかも、鍛え過ぎて、大きい音を聴くと耳の穴から大量の血が吹き出し、貧血で死にかけるほど聴力を鍛えました」
ーーこの人、本当は凄いバカなのでは?ーー
西王母以外の全員が、そう思った。
「それに、鼻も鍛えて過ぎて、クサい匂いを嗅ぐと大量の鼻血が吹き出して、出血多量で即死します」
ーーこの人、とてつもなくヤバいーー
この場にいる全員が引いた。
その頃、ニャン平太との別れを終えた虎之助は、夜叉の元へ向かおうとしていた。
「急がねば、武蔵が危ないでござる。そうだ、まめヤッコに変身すれば早く行けるでござる」
虎之助は、まめヤッコに変身すると素早く走り出す。
しかし、和服を着て下駄を履いているので、意外とスピードは遅かった。
「ちょっと、そこのお嬢ちゃん」
ふいに、まめヤッコは誰かに呼び止められた。
「なんどすか?」
「僕は『妖怪尻ふき』ニャン平太の代わりにスマホから出て来たんだ」
妖怪尻ふきとは、虎之助が極まれにプレイしている『妖怪クロック』というスマホゲームの登場人物である。
ゲームの中での設定は、ウォッシュレットが普及したため、自分にも需要が有ると思い込んで現れた、時代の最先端をいくハイブリット妖怪である。
トイレ後に、お尻を拭いてくれる便利な妖怪だが、最新の調査で、国民の100パーセントが従来のウォッシュレットの方が良いという結果が出たので、テンションが下がってしまっている。
「ニャン平太の代わりに、僕が一緒に戦うよ」
妖怪尻ふきは、仲間になってくれるようだ。
ーーこんな頭のオカシイ妖怪は、相手にしちゃダメどすえーー
まめヤッコは『妖怪尻ふき』をガン無視して走り去って行った。
「もうこれ以上、僕一人で相手するのは無理ッス」
夜叉を相手に一人で戦っていた武蔵も、ついに力つきて膝を付いた。
「雑魚のワリには頑張った方だな」
ゆっくりと夜叉が近づいて来る。
ーーちくしょう。悔しいが、これまでッスかーー
武蔵は死を覚悟した。が、その時
「待たんかい!」
と、小太郎がボルデ本山に付き添われながら現れた。
「小太郎チッ、大丈夫なんスカ?」
「平気や。俺は最強の剣士やさかい」
そう小太郎は答えたものの、足元がフラついて外見もボロボロである。
「あの鬼神オヤジは、俺がブッ殺したるさかいに」
小太郎は剣を構えると、フラつきながらも夜叉に向かって行く。
「無理だ小太郎、よすんだ」
ボルデ本山が小太郎を止めに入る。
「いや、俺に殺らしておくんなはれ、本山はん」
「無理をしてはいかん、死んでしまうぞ」
なんとか止めようとするボルデ本山。
「何としても俺が殺るんや、止めんといてくれなはれ、本山はん。後生ですから」
「お前ら、ゴチャゴチャうるさいのお。三文芝居は止めんか!」
2人のやり取りを見て、イラついた夜叉が、小太郎の腕を掴んで引き寄せた。
「小太郎を離せ、この鬼野郎!」
ボルデ本山が杖から魔法弾を放つ
ポスッ
夜叉の胸に命中するが
「なんだ、このチャチな魔法は」
まったく効果が無かった。
「死ね、小僧!」
夜叉の手刀が、小太郎の首に向けて振り下ろされた。
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