第16話 裏切り者でござる
文字数 3,184文字
電話を切ると桜田刑事は、岩法師に安倍顧問からの指示を伝えて、式神のキツネに栗の助を見張るよう手配した。
そんな時、大阪府警の近くに鬼が出現したという情報が入った。
「みんな出動よ!」
どんな時でも、鬼が出たとなるとDSPは出動しなければならない。
不安を抱えながら、桜田刑事は現場に向かった。
居残りメンバーを全員引き連れて、岩法師たちが現場に到着してみると、10人ほどの鬼がたむろしている。
「これは、罠だな」
と、栗の助が言った。
「どんな罠だ?」
岩法師は事情を聞かされているので、栗の助のことを、あまり信用していない。
「全員、殺せばわかるだろう」
そう言うと、栗の助は鬼の集団に突っ込んで行く。
「お師匠様、拙者も行くでござる!」
虎之助が栗の助に続くと、小太郎と狂四郎も続いた。
栗の助の強さは凄まじく、一瞬で2体の鬼の首を落とし、3体目に向った時には、鬼は戦意を喪失して、いっせいに逃げ出した。
「待て!」
すぐさま栗の助は追う。それを虎之助と狂四郎が追いかけて行く。
小太郎も追いかけようとしたが、鬼たちが速すぎて途中で脱落してしまった。
鬼を追っていた虎之助と狂四郎の前に、突然、美女が現れた。霊鬼である。
「お嬢ちゃんは、私が相手してあげるわ」
「お主も鬼でござるか?」
虎之助は刀を、かまえる。
「俺も相手してくれよ」
狂四郎は、霊鬼の美しさに目を奪われてしまっている。
「アンタには用が無いから、あっち行って」
「ちぇ」
軽くあしらわてしまい、狂四郎は美女を諦めて、栗の助を追うことにした。
「お主、初めから拙者を狙っていたでござるね」
「そうよ、あの鬼たちは、おとりよ」
と、霊鬼が言った瞬間、虎之助に首を切られた。
が、切った感触はなく、霊鬼の首は繋がったままである。
「霊体でござったか」
虎之助に緊張が走った。
「霊体の私を、倒せる者など居ないわ」
霊鬼の表情には、余裕がある。
「面倒でござるね」
虎之助は、霊鬼の腹部に手刀を向けて
『唐沢家忍術「火遁の術」』
と、唱えた。
「火なんかで、アタシを倒すことは出来ないわよ」
「これは、ただの火では無いでござる。悪霊をも焼き尽くす、加具土命の炎』でござる」
「なんですって!お前のような小娘が、なんで、そんな高度な術を使えるのよ!」
そう言いながも、霊鬼の身体は燃え始めている。
「熱い!」
必死に、炎を消そうと手で叩くが、炎は消えず、霊鬼は苦痛の表情を浮べた。
「助けて」
小さな声で、霊鬼は助けを求めた。
パン!
虎之助が、両手を強く叩くと、今まで霊鬼を焼いていた炎が、とたんに消えた。
「どうして、助けてくれるの?」
霊鬼は不思議そうな顔をしている。
「お主が『助けて』って言ったのでござる。では、拙者は急ぐのでこれで」
そう言うと、虎之助は走り去って行った。
桜田刑事が到着すると、岩法師と小太郎が現場残っていた。
「他のメンバーは、どうしたの?」
岩法師は、今までの経緯を話し
「今しがたまで、キツネが栗の助を監視していたのだが、キツネの気配が消えた。おそらく殺されてしまった」
と、力なく答える。
「なんですって!」
ーーなにかマズいことが起きそうだわ。とにかく、栗の助を追わなければーー
狂四郎が追いついた時には、鬼は全員、栗の助に首を切らて死んでおり、栗の助は、まだ刀を持ったまま立っていた。
どうやら、最後の鬼を倒したところの様だ。
「さすが、京都からの助っ人だ。やりますね」
狂四郎は感心しながら、栗の助に近づいて行く。
安倍顧問は、急いで電車に乗り込み大阪に向かっていた。
要注意人物の栗の助と、正体不明の虎之助が師弟関係にあったとは、嫌な予感しかしない。
普段は、速いと思っていた大阪行きの電車が、やけに遅く感じる。
ーー気の、まわし過ぎであれば、良いのだがーー
やっと、栗の助の所に、虎之助が到着した。
「お師匠様、大丈夫でござるか」
栗の助の足元に、狂四郎が腹部から血を流して倒れている。
「狂四郎!」
虎之助は、急いで狂四郎に駆け寄って声を掛けるが、意識が無いようである。
「そいつは、鬼に殺られた」
栗の助が、当然のように言った。
狂四郎の容態を見ながらも、虎之助は栗の助の足元に落ちている御札を見つけた。
ーーたしか、これは式神のキツネの御札でござる。誰かに斬られようでござるーー
「これは、鬼の仕業では、ないでござるな」
虎之助が低い声で言った。
「なにを言うんだ虎之助。鬼以外に、誰が狂四郎を殺すというのか?」
「お師匠様!なぜ、狂四郎を刺したのでござる」
「バカなことを言うな!拙者が味方である狂四郎を刺す訳がなかろう」
「この腹部の刺し傷は、鬼の物では無いでござる。お師匠様の刀の刺し傷でござる」
「くっ、あとで鬼の金棒でも、突き刺しておこうと思っていたが。そうだ、拙者がこいつを刺した。さすがに、お前の目は、ごまかせんな」
栗の助は開きなおり、虎之助に対して刀を向ける。
「どうして、狂四郎を刺したでござる?」
虎之助も刀に手をかけた。
ーーなんだか、変な展開になって来たわねーー
虎之助の後方に、霊体化した霊鬼がいた。
こっそり後を付けて来ていたのだ。
焼かれた部位は、すでに治癒しており、姿を完全に消して隙をみて虎之助を殺そうと思っていたのだが、なにやらDSPで仲間割れが始まっているではないか。
ーー敵同士の仲間割れは良いけど、あのイガグリ男は、どうして仲間を刺したのかしら?ーー
栗の助の行動には、敵である霊鬼も興味を持った。
「虎之助よ、これから鬼も転生者も、全員死ぬことになる」
栗の助は、虎之助に向かって言った。
「なにを、言っているのでござるか?」
「『国際電器保安協会』が動き出したのだ、彼らは鬼や異能力者の存在を、排除する巨大国際組織だ」
「そのダサすぎる名前の組織と、お師匠様と何の関係があるのでござるか?」
「排除されたくなければ『国際電器保安協会』に忠誠を誓うしかない。拙者は転生してすぐに忠誠を誓った。彼らの力は巨大だ、鬼や警察も彼らの前では無力だ」
「お師匠様は、DSPを裏切ったのでござるか」
「お前も仲間になれ『国際電器保安協会』に入らねば、死んでもらわなければならない」
「名前がダサいから、嫌でござる!」
「また、負け戦をするつもりか。転生前に大阪方に付き、徳川に敗北して殺されたのを忘れたか?」
「忘れてはござらんが、そんな組織には入らないでござる!」
「では、死んでもらう」
栗の助は刀をかまえ、虎之助に向かって来る。
「いかに、お師匠様といえど、拙者は倒せぬ。拙者は5万年に一人の逸材でござる」
ーーなんなの?『国際電器保安協会』っていう組織が気になるわーー
霊気は、まだ様子を見ている。
「拙者は、お前の師匠だ、強さも弱点も知り尽くしている。組織に入らないのであれば死んでもらう」
栗の助は、殺気を込めて刀をかまえた。
「お師匠様がやる気なら、仕方ないでござる」
虎之助も刀に殺気を込める。
師弟の凄まじい死合が、始まろうとしていた。
一方、火星では『山田タコ14世』が山田タコ王朝の建国記念日を祝っていた。
貴族たちが宮殿に集まり、豪華な食事や酒を楽しんでいる。
『山田タコ14世』もご機嫌でシャンパン飲みながら、イカゲソを食べていた。
そこへ、一人の将校が駆け込んで来て
「大変です!『タコ山五十六』将軍が反乱軍に破れ戦死しました!」
と、叫ぶように報告した。
ざわめく貴族たちに向かって、シャンパンを持ったまま、山田タコ14世は
「そんなこと、どうでも良いや、ないか〜い」
と、笑顔で答えた。
「それもそうや、ないか〜い」
貴族たちは、お互いにシャンパンで乾杯しながら、何ごとも無かった様に飲み食いを続けている。
ーーダメだ。この王朝は滅びるーー
将校は、あきれはて、部下を引き連れ反乱軍に加わる事になるのであった。
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