第66話 ゼウスVS鬼神
文字数 2,624文字
日本テクロノジーコーポレーションの社長室では、鬼塚と夜叉の話し合いが続いていた。
「鬼塚。お前が何を考えているか、当ててやろうか」
いきなり、夜叉にそう言われ、鬼塚は緊張した。
ーーなんや、このオッサン、読心術でも使えるんかいなーー
「そんなん、当てれるんでっか?」
「ワシには、だいたい分かるんや。お前、ワシを自宅に招待して、優子に会わしてあげたいと思ったやろ?」
ーーうアァ、そんなこと、全然、思ってないし。早く京都に帰って欲しいって思ってたのにーー
「じゃ、車出してくれや、今から行こか。しかし、娘に会うのも久しぶりやなあ」
嬉しそうな顔をして、夜叉は勝手に話を進めて行く。
ーーもう、しゃないなーー
「川島、車を用意してくれ」
鬼塚と夜叉は川島の運転する車で、鬼塚の自宅に向う事になった。
レムリアの屋敷では、電気屋のオヤジの活躍で、なんとかゼウス救出まで、あと一歩のところまで来ていた。
「装置のセッティングは完了しました。後はこのスイッチを押すだけです」
汗をタオルで拭きながら、オヤジが説明する。
「おお、ありがとう」
アポロンは喜んでいる。
「では、ポチッとな」
懐かしい掛け声で、スイッチを押す。
ウィーン、ウィーン
装置が唸り出すと、ゼウス、ポセイドン、ハーデース、ヘスティアーとガニメデに送られていた者たちが、次々と帰って来て最後にライアン、マーゴットと全員が無事に帰還した。
「やったー。成功だ!」
大喜びするアポロン。
「なんじゃ、ここは地球か?」
キョトンとしているゼウスに
「この電気屋のオヤジが、ゼウス様たちを連れ戻してくれたんですよ」
と、アポロンが説明する。
「おおっ、ありがとうオヤジ。お礼に鼻くそ味のチューインガムをあげよう」
ゼウスがオヤジにガムを渡す。
バキッ
「アホかお前は!そんな変なもん渡すな。俺たちの恩人だぞ、ちゃんとした物を渡せ」
ゼウスは、ハーデースに殴られた上に怒られた。
「痛いのう。じや、これをお礼にあげる」
ゼウスはオリンポス金貨を5枚ほど、オヤジに渡した。
「すいませんねぇ、こんな高そうな物を頂いちゃって」
電気屋のオヤジは嬉しそうだ。
「ライアン、マーゴット帰れて良かったな」
アンドロポプはライアンの側に、やって来た。
「アンドロポプ、お前も救出を手伝ってくれたのか、ありがとう」
ライアンは、アンドロポプの意外な優しさに感動した。
「仕事終わりのお茶は美味いわ、あれっ、何この辛さ、ムッチャ辛いわ、これ無理やわ、なにこれ辛っ、アカンもう無理や、死んでまう」
電気屋のオヤジは懲りずに、また持参したペットボトルのお茶を飲んでいる。
その頃、川島の運転する車に乗っていた夜叉は、異常なエネルギーを感知した。
「さっき、あっちの方で、巨大なエネルギーが突然、現れた。川島、そちらに向かってくれ」
「はい、私も感じました。確か、あちらにはレムリアさんの屋敷があリますね」
川島も同様にエネルギーを感知していた。
ーーエネルギー反応?俺は全く感じなかったぞ。なぜ夜叉や川島には感じたんだ?それに川島は、どうしてレムリアの屋敷の場所を知ってるんやーー
鬼塚は一人、悩み出した。
「レムリアの屋敷か、なにか良からぬ事が起きてそうやな」
夜叉は腕組みしながら深刻な顔をしている。
しばらく車を走らせると、大きな建物が見えて来た。レムリアの屋敷である。
「着きましたよ」
川島が車を屋敷の前に停める。
「よっしゃ、ほんだら、3人で何が起こったのか確認しに行こか」
夜叉が先に車を降りて、屋敷に向かって行く。その後を川島が付いて行った。
ーーなんや、ムッチャ嫌な予感がするわーー
鬼塚も仕方なく、とぼとぼと歩き出す。
バタン
屋敷の扉を開けて中に入ってみると、ゼウスを始め国際電器保安協会ギリシャ本部の、そうそうたるメンバーが居るではないか。
ーーうあぁ、ゼウスにハーデース、ポセイドンまで居るやん。この3人では100%勝たれへん、殺されてまうわーー
と、鬼塚がビビっていると
「ほう、大物が揃っとるな、ラッキーや。鬼塚、川島、こいつらぶっ殺すぞ」
「承知しました」
鬼塚の思いとは逆に、夜叉と川島は、やる気である。
「しかし、相手が多すぎまへんか?なんやゼウスみたいな大物も居てるし」
一人、鬼塚だけが弱音を吐いている。
「鬼塚、いいか。鬼神の戦いには、相手の強さや数は関係ないんや。グタグタ言っとらんで行くぞ」
夜叉に、そう言われた鬼塚は
ーーこうなったら死ぬ気で頑張るしかないな。ホンマは、もう少し長生きしたかってんけどーー
死ぬかもしれないと思った瞬間、今までの人生が走馬灯のように蘇った。
中学時代、クラスに友達がいなくて、体育館裏で唯一の友達である、カナブンと一緒に、お弁当を食べていた事。
高校時代、好きだった女の子が「鬼塚君て、腐った死体の臭いがするから、近付きたくないのよね」と言っているのを、影で聞いてしまい「腐った死体って、わしゃゾンビか!」と、3日ほどヘコんだ事。
大学時代、親友であった猫が家出したので、代わりに蝉を飼ったのだが、一週間で死んでしまった事。
ーーしもた。全然、良い思い出が無いやないか。っていうか、生まれて来たこと自体が大後悔やわーー
人生に後悔しながら、鬼塚も覚悟を決めた。
「ゼウス様、鬼どもが入って来ましたよ」
アポロンがゼウスに伝える。
「なんじゃ、たった3人で我らと殺りあうつもりか。ハーデース、ポセイドン、鬼どもを皆殺しにするんじゃ」
「お前に言われなくても、皆殺しにするわ」
ハーデースとポセイドンは、夜叉と川島に向かって行く。
「どうした、ライアン」
アンドロポプは、ライアンに袖を引っ張られた。
「アンドロポプ、マーゴット、ずらかるぞ。ココに居てはマズい」
なぜかライアンは、2人に逃げるように促してくる。
「なぜだ?どう見ても、こちらが有利なんだが。それに、今ずらかったら、後でマズい事にならないか」
不思議そうにするアンドロポプ。
「いいから、俺を信じろ」
「アンタがそう言うなら、わかったわ。とりあえず、この屋敷から出ましょう」
マーゴットはライアンの危機管理能力を信頼しているので、素直に従った。
「今のうちに裏口から、ずらかるぞ」
ライアンとマーゴットは、裏口から出て行く。
「しょうがねえなぁ」
アンドロポプは、訳がわからなままライアンに付いて行く事にした。
そして、なぜか電気屋のオッサンも付いて来るのであった。
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