第18話 聖剣エクスカリバー
文字数 4,435文字
大阪市の、あるホテルに、ラディッシュとナジャは居た。
「バビエルのやつ遅いな」
ラディッシュは、しきりに時計を見ている。
「アイツはバカだから、入国に失敗したんじゃないかしら」
ナジャはインド系のグラマラスな美女である。
「スマホも繋がらないし、そうかも知れないな」
「もうバビエルは、ほっといて、私たちだけで作戦を実行しましょうよ」
「しかたない。はるばるインドから来たんだ、手ぶらでは帰れんからな」
話が決まって2人がホテルから出ると、いきなり10人ほどの男たちに囲まれてしまった。
「『国際電器保安協会』の者だな」
そう言ったのは若林である。
「いえ、私たちは『浪速ハミちん同好会』の者です。急ぎますので」
ラディッシュは、上司から教えられたマニュアル通りに誤魔化してみた。
「そうでしたか。すいません、人違いでした」
若林は軽く頭を下げて謝罪したが
「だまされるな。そんな会があるか!」
と、黒瀬に怒鳴られてしまった。
「きさまら、だましたな!」
だまされた事に激怒した若林は、素早く牛鬼に変身すると2人に襲いかかる。
「やはり、お前ら鬼だったのか」
「意外と情報が早いわね」
ラディッシュとナジャも戦闘態勢に入る。
「コイツら殺ってまえ!」
黒瀬の号令と共に、鬼たちは2人に襲いかかった。
大阪府警で『国際電器保安協会』の件を調べていた安倍顧問は、意外なことに気が付いた。
自分の端末に入っている、DSP[デビルスペシャルポリス]の情報が誰かに見られ形跡がある。
「誰だか知らないが、ファイル履歴も消さないで、いい度胸だな」
そう、つぶやくと安倍顧問は、一枚の御札を取り出して犬の式神を呼び出した。
すると、チワワのような小型犬の式神が出て来た。
「なんだ、小さいのしか出ないな」
安倍顧問が愚痴ると。
「他の犬は、みんな忙しいんだワン」
と、チワワの式神が答えた。
「まあ良い。これを触った奴の臭いを覚えてくれ」
チワワに、端末のキーボードの臭いを嗅がせる。
「この警察内に鬼か『国際電器保安協会』のスパイが居るな。用心して端末のパスワードを変更しておかねばならん」
鬼対ラディッシュとナジャの戦いは、意外にも、一方的に鬼が痛めつけられる状態となっていた。
強化人間であるラディッシュとナジャの強さは凄まじく、牛鬼でさえ防戦するのが精一杯である。
「なんだ、鬼って思ったより弱いな」
「皆殺しに、しましょう」
スパッ!
鬼は次々と首を切られていく。
「これは、ヤバい」
黒瀬も奮闘するが、右腕を切られてしまった。
「みんな!撤退だ!」
黒瀬は叫びながら逃げようとしたが、ラディッシュに左手を捕まれてしまった。
ほかの鬼は、みんな首を切られて倒れており、かろうじて若林だけは、なんとか逃げ切れたようだ。
ーーこれほど力の差があるとはーー
さすがに黒瀬も、今回は死を覚悟した。
「お前も死ね」
ラディッシュの手刀が黒瀬の首を切断しようとした瞬間、ラディッシュの首がポトリと落ちた。
ーーなにが起こったんだ?ーー
崩れるように倒れたラディッシュの後ろに、虎之助が立っている。
どうやら虎之助の手刀で、ラディッシュの首が切り落とされたようだ。
「拙者のLINEを無視して、こんな所で遊んでいたのでござるか?」
「すいません、でも、別に遊んでいた訳ではないのですが」
ーーこんな状況でLINEって言われてもーー
相手が虎之助だけに、とりあえず黒瀬は謝った。
良く見ると、虎之助はタヌキを連れている。
「そのタヌキは何です?」
「お前を見つけるために、タヌキの式神を呼び出したでござる。お腹が空いたので、拙者に中華料理を奢るでござる」
「ちょっと、今は、それどころじゃ」
「何ふざけてるでござる!」
虎之助が不機嫌になった。
「ふざけてるのは、お前だよ!」
ラディッシュを殺されて、怒り狂ったナジャが向かって来る。
「邪魔でござる」
ナジャの手刀と虎之助の手刀が交差する。
虎之助のジャンバーが切れてTシャツが見えた。と、同時にナジャの首が落ちた。
「服が破れしまったでござる。新しい服も、お前に買ってもらうでござる」
「えっ、服は私に関係ないと思いますが?」
「今すぐに殺されたく無ければ、奢るでござる!さては、拙者がAカップだからって舐めてるでござるな!」
「とんでもない、なめてませんよ」
黒瀬は切られた右腕を急いで再生すると、自分の財布を確認してみた。あまり現金は入っていない。
ーーなんとか断われないかなーー
「すいません、今は持ち合わせが、あまり無くて」
先に歩いていた虎之助は、振り返り
「なにか言ったでござるか?早く来るでござる!」
と、かなり不機嫌な口調である。
「いえ、クレジットカードが有ったので、だいじょうぶです」
しぶしぶ、黒瀬は虎之助に付いて行くのであった。
DSPの宿舎では、岩法師と小太郎が2人で昼食を食べていた。
「虎之助は、どうした?」
岩法師は、落ち込んでいる虎之助のことを気にしている。
「なんや、出かけはりましたけど」
「かなり落ち込んでたんで、式神の呼び出し方を教えたんだが」
「どんな式神でっか?」
「虎之助はキツネの式神と仲が良かったんで、似ているタヌキにした」
「タヌキでっか。どんな能力なんです?」
「嗅覚が鋭いので、尾行や人探しなどだ」
「俺にも、式神の呼び出し方を教えて下さいよ」
「教えるのは良いが、精神力がかなりいるぞ。どんな式神が良いんだ?」
「そうでんな、できればセクシーギャルの式神が良いですね」
「かなり難しいぞ」
「えっ!セクシーギャルを呼び出せるんでっか?」
小太郎は身を乗り出した。
「出せるよ」
「岩法師先生!お願いします。出し方を教えて下さい」
小太郎は、武士としてのプライドを投げ捨て、岩法師に土下座して頼みこんだ。
安部顧問が大阪府警を出ようとした時、チワワが反応した。
「アイツから臭うワン」
「なにっ!」
チワワの言う方向を見てみると、見知らぬ初老の男が署内を歩いている。
「誰だ、あの男は」
とりあえず、近くにいた顔みしりの警官に聞いてみる。
「初老の男性ですか、どこに居るんです?」
「あそこに居るだろ、あの掲示板の前だよ」
「誰も居ませんけど」
ーーなんだと、この警官には見えていない。もしかして、陰陽師の俺と式神のチワワにしか見えていないのか?ーー
安部顧問は、ゆっくりと初老の男に近付いて声を掛けた。
「アンタ何者だ?」
男は安部の顔を見ると
「俺が見えるとは、たいしたもんだな」
と、答えながらスッと消えた。
「2人で、何してるでござるか?」
虎之助が宿舎に戻ると、岩法師が小太郎に何かを指導していた。
「あっ、姉さん、お帰りなさい。岩法師先生から式神の出し方を教わっているんですよ」
「こいつがセクシーギャルの、ウッ……」
小太郎は、慌てて岩法師の口をおさえた。
「セクシーギャルが、どうしたのでござるか?」
「いえ、何でもありまへん」
小太郎の手を振り払いながら、岩法師が
「わかった、言わないから。とりあえず式神を出してみろ」
と、指示する。
「まかしといて下さい」
小太郎が御札を持ち念を込めると、小さい生き物が現れた。
「やりましたよ、岩法師先生」
小太郎は喜んでいるが、よく見るとゴキブリであった。
「ゴキブリの式神なんて、拙僧は初めて見た」
岩法師が、あきれている。
「小太郎はアホでござる」
虎之助が笑っている。
ーー久しぶりに虎之助が笑った。小太郎もタマには役に立つではないか。栗の助の件から、ずっと落ち込んでたからなーー
岩法師も笑いだした。
「笑わんといて下さいよ」
「いや、すまん。でも良いじゃないか小太郎。ゴキブリでも式神は式神だ、諜報活動とかに役立つかも知れん」
「そうですよね」
小太郎も笑った。
日本テクロノジーコーポレーションの社長室で、鬼塚はアイコスを吸って、くつろいでいた。
「失礼します」
と、言いながら、川島と黒瀬が入って来る。
「どうやった?」
「『国際電器保安協会』のエージェントは、2人とも死にました」
と、黒瀬が報告する。
「そうか、ご苦労」
「ただ、社長。2人を殺ったのは我々では、ないんです。とにかく、その2人は強くて、我々が全滅しかけた時に通りがかったDSPの小娘が瞬殺したんです」
「なるほど」
「私と若林以外は『国際電器保安協会』の2人に殺されました」
「大変やな」
「その凄腕のエージェント2人を、小娘は瞬殺したんです」
「そうなんや」
「社長、今日は何かテンションが低いですね」
川島は心配になった。
「ちよっと最近、うつ気味なんや」
「ストレスですか?」
「それが、娘がユーチューバーになりたいって、言い出してな」
「へえ、娘さんがエクスカリバーに」
「いや、ユーチューバーや!エクスカリバーって何やねん!」
「アーサー王の伝説の剣ですけど」
「アホか!娘が、そんなんになりたいって言い出したら、もうヤバいやろ。俺が言うてるのはユーチューバーや!動画を作ってネットに流すやつや」
「ああ、最近流行りの、スマホやパソコンで見れる面白動画を作製する人ですね」
「そうや、それで悩んでんねん」
「そういえば、ウチの息子もプロゲーマーになりたいって言ってました」
「最近は、ゲーマーのプロもあるんや。俺もテトリスやったら上手いねんけどな」
「私も、将棋ゲームやったら自信あるんですけどね」
「将棋は、昔から普通にプロがあるやろ」
「そういえば、そうですね」
「ちょっと、お2人とも、話がそれて来てますよ!もっと重大な話があるでしょう」
鬼塚と川島の会話を聞いていた黒瀬が、がまん出来ずに言った。
「なに言うてるねん、俺の娘がエクスカリバーになる事より重大なことなんか無いわ!」
「社長、エクスカリバーじゃなくてユーチューバーでしょう」
川島が突っ込む。
「ああ、そうか。ユーチューバーやったら別に、なっても良いわ」
「そうですよ、ユーチューバーやプロゲーマーでしたら、エクスカリバーになられる事を考えれば立派な職業ですから」
「そうやな。エクスカリバーよりユーチューバーやな。じゃ、今日はこれで解散」
「お疲れ様でした」
と言って、鬼塚と川島は帰って行った。
一人残された黒瀬は、指導者である鬼塚と川島のアホさを加減を見て
「俺も田舎の岡山に帰ろうかなぁ」
と、つぶやくのであった。
火星では、銅鬼率いる反乱軍が連戦連勝しており、『山田タコ14世』を追い詰めていた。
「陛下、お逃げ下さい。反乱軍がすぐそこまで迫っています」
王宮の兵士が、あわてて走って来た。
しかし『山田タコ14世』は、意外と落ち着いており
「そんなん、どうでも良いやないか〜い」
と、言いながらワインを飲んでいる。
まわりの貴族や兵士たちは、あきれて逃げてしまった。
反乱軍が王宮の中に、なだれ込み『山田タコ14世』は一人、取り囲まれてしまうが、なぜだか平然とワインを飲んでいる。
「覚悟しろ『山田タコ14世』!」
反乱軍のリーダーである銅鬼は、剣を高くかかげて叫んだ。
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