第84話 ハリセン・ポッターとイギリス料理
文字数 2,570文字
「そのダンスパーティーは、どこで開催されているのでござるか」
ハリセン・ポッターから、ダンスパートナーになって欲しいと頼まれた虎之助は、どうしようか迷っていた。
「魔法界にある魔法学校で、今夜7時からなんだ」
「魔法界って、どうやって行くのでござるか」
「大阪駅から直通列車が出てるから、それに乗れば良いんだよ」
ハリセン・ポッターは、期待を膨らませながら笑顔で言った。
「ダンスパーティーかぁ。美味しい料理は出るのでござるか」
虎之助は料理が気になるようである。
「安物の、いや間違えました。高級イギリス料理がたくさん出ます」
「高級イギリス料理って、どんな料理でござるか?」
「えーと、そうですね。フィッシュ&チップスや豆のスープ、イカの塩辛です」
「じゃ、行かないでござる」
虎之助は、ゲームセンターから立ち去ろうとした。
「すいません間違えました。本当は、京都の懐石料理に和牛ステーキ、北海道産の毛ガニ料理が出ます」
慌ててハリセン・ポッターは、言いなおした。
「イギリス要素が皆無でござるが、美味そうでござるね」
「では、僕が案内するので参りましょう」
「どうしようかな」
虎之助は悩んでいる。
ポチポチ
「何してるんですか?」
「スマホにメールが来たので見ただけでござる。いつも小太郎から夕食のメニューが送られて来るのでござる。今日はイカゲソらしいので、ダンスパーティーで食べることにする」
普段から虎之助は、宿舎で出る夕食のメニューを見てから、外食するかどうかを決めているのであった。
「あまり好きな夕食じゃ無かったようですね。では、行きましょう」
という訳で、虎之助はハリセン・ポッターと魔法界に向かうことにした。
豪華な夕食を楽しみにしている虎之助の隣で、ハリセン・ポッターは
ーー馬鹿な娘だ、魔法界と言えば聞こえが良いが、通称は略して魔界と呼ばれているのだーー
と、不気味な笑みをうかべるのであった。
安倍は、大阪市内の住宅街にある建売住宅の家を訪ねていた。
「加藤さん、ご無沙汰しております」
家主は高齢の男性である
「君は確か、安倍一族の三男坊の……」
「康晴です」
「そう、その康晴君がワシに何の用じゃ」
「単刀直入に言うと、大阪DSPの顧問に復帰して頂きたい」
加藤と呼ばれた男は、少し間を置いてから
「ワシは、とっくに引退して隠居の身じゃ」
安倍の要請を、やんわりと断った。
「それは承知しているのですが、今の大阪の状況は厳しく、立て続けに2名の顧問が殉職してしまいまして、加藤さんクラスの実力者でないと難しいのです」
「2名という事は、君の兄さんもか?」
「はい」
「うむ、そうであったか」
さすがに加藤は驚いている。
「なるほどな、それでワシの所に来たというわけじゃな」
「次に顧問になる者は、決して殉職させる訳には行きません。加藤さん、お願いします」
加藤は、しばらく思案してから
「ワシも一度は引退した身だ、そう簡単に依頼を引き受ける訳にはいかん。しかし、お前さんの事情も良くわかる」
と言って、キッチンの方へ向かった。
ーーなんだ、お茶でも出してくれるのかーー
そう考えながら、安倍が黙って座っていると、お盆を持った加藤が戻って来た。
お盆には何故か、一口大の饅頭が5つ置いてある。
「ワシの運気を試したい。この饅頭の1つに、ある物が入っておる」
ーーまさか毒ではーー
「お互いに1つずつ食べて、ワシに当たらなかったら顧問の話を引き受けよう」
「ある物って、いったい何が入っているのですか?」
「それは食ってからの、お楽しみじゃ」
加藤は嬉しそうに、ニコニコ笑っている。
ーーとりあえず毒は入って無いようだ、恐らく辛子かワサビだろう。テレビのバラエティー番組でよくある、食べ物でのロシアンルーレットだなーー
「では、ワシから食うとするか」
加藤は無造作に饅頭を、1個つかむと、ポンと口の中に放り込んだ。
「ムシャムシャ、美味い。うっ、いや、こっこれは」
ーーなんだ、いきなり当たりを引いたかーー
安倍は加藤の顔を、じっと見る。
「はうっ!」
バタッ
加藤が倒れ込んだ。
「加藤さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけあるかい!あり得ない程のワサビが入っとるがな!」
倒れながらも、キレている加藤。
「いや、それを入れたのは貴方でしょ!」
安倍が突っ込む
「そんなん関係あるかい!このハゲ眼鏡が!」
あまりにも辛さに、逆ギレして悪態をつく加藤。
「いや、そう言われましても、私はハゲても眼鏡をかけてもいませんけど」
確かに安倍は、ハゲてもなく眼鏡もかけていない。
「もう君とは、やってられんわ」
加藤がキレて席を立とうとした。
「しかたない『飛び加藤』と言われた、史上最強の忍である加藤段蔵に断られては、もう、あの方に頼むしかないな」
安倍は加藤のことを諦めたふりをした。
「あの方って誰?」
加藤は、あの方の事が気になるようだ。
「顧問を断ったかぎり貴方は部外者です。教える事は出来ません」
キッパリと断る安倍。
「若いのう。ワシは、まだ断ってないぞ」
「さっき、君とはやってられんわ、って言ったじゃないですか」
「あれは、漫才的な閉めじゃ。依頼は、まだ断っておらんから教えてくれ」
加藤は、よほど気になる様である。
「では、顧問の件を引き受けてくれるんですね?」
「しかたない。特別もう一度、勝負してやるわ」
そう言うと加藤は、お盆に残っている饅頭を1つ口に入れた。
ーーさっき当たりを引いたんだから、もうやっても意味ねえだろーー
と、思いながらも、安倍は加藤の様子を見ている。
「モグモグ、こりゃ美味い。うっ、いや、何じゃこりゃ!」
ーーなんだか様子がおかしいなーー
「はうっ!」
またもや加藤が倒れた。
「大丈夫ですか加藤さん?」
「大丈夫な訳あるかい!あり得ない量のタバスコが入っとるがな!」
倒れて苦しみながらもキレている加藤。
「あり得ない量って、入れたのはアンタでしょ」
突っ込む安倍。
「そんなん関係あるかい!この半グレ、ビチグソ星人が!」
またもや、逆ギレして悪態をつく加藤。
「いや、そう言われましても、私は半グレでもビチグソ星人でも無いですけど」
確かに、安倍は半グレでもビチグソ星人でも無い。
「君とはもう、やってられんわ!」
加藤は勝手に、ふてくされている。
という事で、加藤との交渉は難航するのであった。
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