第119話 西王母VS白鬼
文字数 2,122文字
鬼塚と川島が、大阪に通じるハズであった空間の穴から出ると、想像とは違い古風な屋敷の庭園に出た。
「あれっ、梅田にこんな所あったかな?」
大阪の梅田に出ると思っていた鬼塚は、不思議そうに辺りを見回す。
「社長。ここは、梅田どころか大阪では無いと思いますよ」
「ほんだら、どこやろ?困ったな、知らん所へ来てもうた」
「スマホで現在地を調べてみます」
川島が、上着のポケットからスマホを取り出そうとした時
「そこの2人、こっちに来なさい」
屋敷の方から声が聞こえた。
「なんか気味が悪い声が聞こえたで。こんなに所いつまでも居らんと、一度ロシアに戻ろうか。大阪への時空移動は失敗したみたいや」
「いや、失敗したんじゃ無く、誰かが時空を操作して、我々をココに呼んだのではないでしょうか」
川島は何かに気付いたようだ。
「俺らみたいなモンを、誰が何の用で呼ぶんや」
「あの方みたいですよ」
川島が指さす方に、一人の男が立っている。
「あっ、あの人は、まさか…」
男の顔を見た鬼塚が、急にビビり出した。
「どうしたんです社長、知ってる方ですか?」
白鬼と対峙していた西王母は、九字を唱えだした。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行」
すると天に9個の丸い球体が現れた。
「なんだ、あの玉は?」
加藤は不思議そうに玉を眺めている。
「そんな物で、我の攻撃は防げぬぞ」
白鬼が口から西王母に向けて、多量の瘴気を吐き出した。
だが、瘴気は西王母に向かわず、天に浮いている9個の球体に吸い込まれて行く。
「なんだと!」
驚いて球体を見る白鬼。
「この『久宝蓮華』の玉は、瘴気や邪悪なエネルギーを全て吸い込んでしまうのよ」
西王母が説明する。
「うおおっ!」
瘴気を吸い尽くした球体は、白鬼の身体からも黒い邪悪なエネルギーを吸い取り出していく。
ーー西王母さんは、こんなにも凄い力を持ってたのかーー
加藤は柴犬を撫でながら、感心している。
「貴様なんぞに、殺られる我ではないわ」
白鬼は、エネルギーを吸い取られながらも、突進して来た。
肉弾戦では、体格的に白鬼が圧倒的に有利である。
「格闘でも私を倒すことは出来ないわよ。何故なら私は浪速空手の黒帯だから」
ーーおおっ『久宝蓮華』のような幻の術から、浪速空手のようなローカルな格闘技まで修得しているのかーー
西王母の、幅広いスキルに驚く加藤。
ドガッ!
白鬼の拳が西王母に直撃した。
「うきゃー」
あっさりと吹っ飛ばされてしまった西王母。
「あれっ、やられちゃった」
呆然と見ている加藤。
白鬼の拳に、空手の受けは通用しなかった。
ーーなんだ、空手の方はダメじゃないか。だが、白鬼の奴。エネルギーを吸い取られて、かなり弱って来ているなーー
加藤は刀を抜くと
「とどめは、拙者が刺してやる」
と、白鬼に向かって行く。
「退けぃ、ヒヨっ子!」
ドカッ!
「はうっ」
加藤は、いきなり後ろから、西王母にドロップキックをされて倒れてしまった。
「白鬼は私が倒す。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行」
と、再び九字を唱える西王母。
すると、9個の球体が、さらに強力に白鬼のエネルギーを吸い始めた。
「うぐぐっ」
かなりエネルギーを取られ、明らかに白鬼は弱っている。
「浪速空手チョップ!」
ドスン!!
西王母の攻撃が白鬼の胸部にクリティカルヒットした。
「うごおっ!」
ドタ!
ついに白鬼は倒れた。
「ちょっと、酷いじゃないですか西王母さん」
立ち上がりながら加藤が、ドロップキックされた事を抗議する。
「アンタは、大人しく柴咲コウをみていれば良いのよ」
「それにしても、いきなりドロップキックは無いですよ」
「うるさいわね、阿呆のクセに。あれっ、なんだか頭が痛くなって来たわ」
西王母は、急に頭痛に襲われた。
「あれっ。西王母さんの頭から、黒い物が球体に吸い込まれて行ってますよ」
頭痛の原因は、西王母の邪悪な部分が、9個の球体に吸い取られているからであった。
「あわわ、大変。どうしましょ」
頭を押えながら慌てる西王母。
「このまま西王母さんも、邪悪さを吸い取ってもらった方が良いのでは?」
加藤が、もっともな事を言った。
邪心が無くなれば、西王母の性格も真面目になるだろう。
「そんなの、ダメに決まってるでしょ!私は、ありのままの自分で居たいのよ!だって人間だもの」
「いや、アンタは人間じゃ無いでしょ!」
突っ込む加藤。
「そうだ。こんな時のために、コレを持って来たんだったわ」
西王母はアルミホイルを取り出すと、頭に巻き出した。
「これで、もう大丈夫。さあ、白鬼にとどめを刺しましょう」
しかし、頭にアルミホイルを巻いた西王母からも、どんどん黒い邪心が吸い取られ行く。
「全然、大丈夫じゃ無いですよ。まだ、吸われ続けてますよ」
加藤が西王母に教える。
「えっ。アルミホイルって効果ないの?」
「無いみたいですよ。今も邪悪さが吸い取られてます」
ーーアルミホイルが邪気を止める訳ねえだろ!この変人が!ーー
口には出さないが、加藤は心の中で突っ込んでいる。
「うわっ。こんな事になるんだったら、昨日、魚肉ソーセージを食べときゃ良かったわ」
と、頭にアルミホイルを巻いて、意味不明の台詞を吐きながら苦しむ西王母であった。
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