第76話 暗黒堕天蛇
文字数 2,585文字
羅漢鬼を迎えに、梅田に来ていた川島は、異変に気がついた。
ーーなんだあれはーー
無数の黒蛇が暗黒闘気に包まれて、空に駆け上がって行くのが見える。
ーーあれは確か、太古の魔神が使っていたと言われる伝説の術『暗黒堕天蛇』ではないか。いったい誰が使ったんだ?羅漢鬼程度の鬼では、とても扱える代物ではないぞ。鬼神でさえ実際の戦闘で使用したことはない高度な術だーー
川島が不気味に感じていると、羅漢鬼の手下の鬼たちが川島を見つけて駆け寄って来た。
「川島さん、大変です!」
「どうしたんだ、羅漢鬼はどこだ?」
「彼は、DSPの小娘の恐ろしい術で殺されました」
「それは、どんな術だ?」
「不気味な黒蛇が、いっぱい出て来て彼を喰ったんです」
ーーなんだと、いかなる者も回避不能と言われている『暗黒堕天蛇』の術は、あの小娘が使ったのか!ーー
鬼たちは、まだ怯えている。虎之助の術が、よほど怖かったのであろう。
「よし、詳細が知りたい。とりあえず、ウチの会社に来てくれ」
川島は鬼たちを、日本テクノロジーコーポレーションに連れて帰り話を聞くことにした。
日本テクノロジーコーポレーションの本社ビルでは、鬼たちから川島が羅漢鬼とDSPとの戦いの一部始終を聞き出していた。
「なるほど、状況は良くわかった。君たちは京都に戻って、さっき説明してくれた事を夜叉さんにも伝えてくれ」
「わかりました」
話し終わっても、まだ、鬼たちは怯えている。
「おい、しっかりしろ!君たちは、京都DSPの猛者とも殺り合って来たんだろ」
川島が叱咤するが、鬼たちは逆に萎縮してしまっている。
「はい、すいません」
ーー頼りない奴らだ。しかし、鬼塚社長を鍛え直すために呼んだ羅漢鬼がDSPに殺れてしまうとは、俺はなんてツイてないんだーー
川島のテンションは、だだ下がりになるのであった。
DSPの宿舎では、小太郎が不貞腐れていた。
なぜなら羅漢鬼との戦いから、妙に虎之助と鬼一の仲が良く、今日も2人で出かけて行ってしまったからである。
「おい、狂四郎。最近、姉さんと鬼一さん何か怪しくないか?」
「さあ、別にいつもと同じだろ」
狂四郎は、素っ気なく返答しながら、外出の準備をしている。
「お前、まさか、また桜田刑事とデートか?」
「そうだけど。じゃ、行って来るわ」
と、狂四郎も行ってしまった。
「クソッ、どいつもこいつも恋人を作りやがって、ムカつくよな武蔵?」
イラついている小太郎は、隣でコーヒーを飲んでいる武蔵に同意を求めた。
「恋人は作っても別に良いんじゃないスカ、僕も彼女は7人いるしぃ」
「ええっ!お前、7人も彼女おるの?」
「まあ、そのぐらいは普通ッスよ」
ーーが・く・ぜ・ん。チャラいとは思っていたが、コイツそんなにモテてたんかーー
小太郎は、更にヘコんだ。
「ほんだら、ココで恋人がおれへんのは岩法師先生と俺だけやん」
「僕も、いないよ」
小太郎の嘆き声を聞いて、左近がやって来た。
「左近さんは、まだ小学生やから恋人とか早いわ」
「小太郎兄ちゃんも、まだ18歳だから大丈夫だよ」
「いや、18歳やからこそ、彼女が欲しいんでんがな」
「さっきから何を言っとるんだ小太郎。拙僧にも恋人ぐらいいるぞ」
いつの間にか、岩法師もリビングに出て来ていた。
「まさか、アンタ僧侶やろ?」
「今日び僧侶でも、普通は結婚して家庭を持っとるぞ」
「そんなバカなー」
小太郎は、僧侶である岩法師にさえ恋人がいる事にシヨックを受け、宿舎を飛び出した。
「と言う訳で、俺はココに居るんや」
「それは良いけど、お前、相談相手を間違ってないか」
宿舎を飛び出した小太郎は、アメリカ村でライアンにマーゴットとアンドロポプに愚痴を聞いてもらっていた。
「まあ、小僧の言うことも、俺には良く分かるぞ」
アンドロポプは、うなずいている。
「尊敬していた上司に、女を取られたっていう事だよな」
「全然、ちがうわ!」
小太郎はキッパリと否定した。
「なんだ違うのか」
「そうだ違うぞアンドロポプ。コイツが言いたいのは、とにかく女が欲しいって事だ」
ライアンが訂正する。
「それは違うとは言い切れへんが、ちょっとニュアンスを変えて貰えまへんか」
小太郎は、納得しきれていない様子である。
「あっ、私は分っちゃった。女の子とエッチな事がしたいんでしょう?」
マーゴットが自信ありげに聞いてきた。
「それも、違うとは言い切れへんところが、俺のアカンとこやな」
「まあ、何となくわかるぞ少年よ。あの虎之助って娘は、見た目は可愛いらしいから、他人に取られたら悔しいっていう事だろ」
と、ライアンが言った。
「まあ、そういう事かな」
やっと小太郎が納得する返答が来た。
「いや、それは違うぞ。小僧、お前は以前に、あの娘は色気が無いから嫌だとか言ってたな。自分が付き合うのは嫌だが他人に取られるのも嫌なんて、ただの我がままだぞ」
アンドロポプは、意外とシビアな意見を言う。
「うっ、そう言われれると、なんも言い返されへんわ」
小太郎のテンションが下がった。
「なんだ、ただの我がままだったのか」
ライアンも納得してしまっている。
「それなら、男としては最底辺クズ野郎ね」
マーゴットからも厳しい台詞が飛び出した。
「モテない助平な阿呆人間だな」
アンドロポプが追い打ちをかける。
「うわーん、お前ら覚えとけよ。姉さんに言いつけて、ボコボコにしてもらうさかいに」
小太郎は、男として最低な捨て台詞を残して、泣きながら走って行った。
「と言う訳で、俺はココに居るんやけど、オバハンちゃんと聞いてる?」
「どうでも良いけど、今、仕事中なんよね、邪魔せんといてくれる」
小太郎は、スーパーでレジ打ちをしている霊気の所で愚痴っていた。
「オバハン良く見るとムッチャ美人やなぁ、俺とデートせえへんか?」
霊気の美しさに見惚れて口説き出した。
「アホか、お前は。それより女性に向かってオバハンって言うのを止めろ、糞ガキ」
「なんやと、ちょっと綺麗からって偉そうに言いやがって。まあ、それはそれで良いとして、俺と格安ビジネスホテルに行けへんか?」
「行くかボケ!この腐れ阿呆ガキが。テメエはイモ臭えんだよ、早く死ね。いや、5分以内に死ね!」
小太郎は、凄まじい罵倒を浴びせられて、心を打ち砕かれた。
「うわーん、それは言い過ぎや〜」
小太郎は泣きながら走り去って行くのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)