第53話 ティターン神族
文字数 2,801文字
「でも敵が何者か、わからなければ戦闘時に困ります」
マーゴットも知りたがっている。
「そう言われれば、確かにそうだな。しかたない、長くなるが説明してやるか」
ハーデースは話し始めた。
「実は、5万年ほど前に既に地球上には、高度な超古代文明が存在していたのだ。
俺たちの一族は、高い能力を持っていた為、当時の支配者から戦闘や危険な作業場の担当をさせらていた。
当然、負傷者や死者が多く出て、徐々に支配階級への不満が溜まっていった。
そこで、ついに俺たちは反乱を起こしたのだ。
永い戦いの末、辛うじて俺たちが勝利し、支配階級の奴らはこの星から去って行った。と、思っていたのだが。また現れ出したようなのだ」
「なるほどな。はじめ人間ギャートルズが、現代に復活したという事か」
と、ライアンは勝手に納得している。
「ぜんぜん違うだろ。お前はなにを聞いてたんだ!はじめ人間ギャートルズは、お前らの先祖だ。それ以前に地上を支配していた奴らの事だよ」
ハーデースに怒鳴られた。
「そうよ、ライアン。オリンポスの神話に残っている、クロノスやウラーノスといった古い神々、いわゆるティターン神族と新しい神であるゼウスたちの戦いの事よ」
マーゴットが、ライアンに説明する。
「そちらのお嬢さんは、物知りじゃな」
ゼウスは、マーゴットに感心している。
「お前が、偉そうに言うんじゃねぇ」
また、ハーデースが怒鳴った。
「そんなの作り話だと思っていたが、実際に神々の戦いがあったんだな」
やっと、ライアンも理解し始めて来た。
「そうだ。そして、わずかに地球に残っていたティターン神族の子孫が、異能者である。日本では、転生者や鬼どもがそうだ」
「なるほど、それで我われは、鬼と転生者を抹殺していたのか」
ライアンは、完全に理解できたようだ。
「まずは、ポセイドンたちを救出しなければな」
ハーデースは、深刻な顔になった。
「では、ワシは帰って、任天堂スイッチでもやろうかのぉ」
と、ゼウスが言った。
「俺はマーゴットと、はじめ人間ギャートルズを探します」
ライアンはマーゴットを連れて、立ち去ろうとしている。
「待てぃ!お前らは馬鹿なのか。超古代人の奴らを探すんだよ!」
ハーデースの怒鳴り声がアメリカ村に響き渡っていった。
その頃、狂四郎と桜田刑事は、心斎橋でデートをしていた。
「あれっ、アイツは国際電器保安協会のライアンじゃないか」
狂四郎が、偶然、通りがかったライアンたちを見つけた。
「何してるのかしら、お爺さんや汚いオジサンも一緒にいるけど」
「えらく深刻な雰囲気だ、なにかやらかす気だな」
「一応、鬼一さんに連絡しておくわ」
桜田刑事は鞄からスマホを取り出す。
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、意外なことに、小太郎が異変に気付いていた。
「姉さん大変でっせ。俺の敵エネルギー発見レーダーが、強く反応してます。きっと、巨大なパワーを持った敵が現れたんでっせ。行ってみましょう」
そう言いながら、小太郎は陰陽道を利用して作った、自作の小型レーダーを虎之助に見せて来た。
「奇遇でござるな、拙者のレーダーも反応してるでござる」
と、虎之助は自分の頭頂部を指さす。
見てみると、髪の毛が一束、不自然に立っている。
「それは、ただの寝癖でんがな」
「違うでござる。これはレーダーでござる」
「そうでっか。どう見ても寝癖ですけど。姉さんが右を向くと、立ってる髪の毛も右に向きまっせ」
「それは、小太郎の目の錯覚でござる。それより、お腹が減ったでござる。ピザでも取るでござる」
虎之助は、ポケットからスマホを取り出した。
「ピザでっか。ええでんな、俺はピーマン抜きでお願いします」
「小太郎の分は、自分で払うでござる」
「エエっ!姉さん奢って下さいよ。火星で大金持ちに、なりはったんでしょう?」
「火星ではセレブでござるが、地球には拙者の口座がある四菱銀行が無いので、お金を引き出せないでござる」
「他の銀行とは、提携してないんでっか?」
「どことも提携してないでござる」
「それは困りましたな」
「困ったでござる。拙者は地球では負け組のド貧民でござる」
後に振り返ると、その時の虎之助は、いつもの不敵な態度とは逆に、不憫で可弱い少女であり、実際よりも小さく見えたという。
【ニューヨークタイムズ大阪特派員ケント・デリカデッセン 小太郎独占インタビューより】
小太郎の脳内では、架空の記事が自動的に作製されていた。
「なんか、姉さん可哀想でんな」
小太郎は、ひどく虎之助に同情した。
という訳で、割り勘で、ピザを注文する2人であった。
鬼一と岩法師は、桜田刑事からの連絡を受け心斎橋に向かっていた。
「たしか、この辺ですね」
「あっ、狂四郎と桜田刑事がいた」
むこうも、こちらに気付き近づいてやって来る。
「鬼一さん。奴らは、そこの北欧ブランドの服屋に入ったので、つけて行ったのですが、なぜか店の中には居なくて見失ってしまいました」
狂四郎が、今までの経緯を報告した。
「店内には居なかっただと。いや、恐らく、その服屋が奴らの隠れ家に違いない」
と言い、鬼一は店に入って行った。
店内で目をつむり、心眼を使って周りを見渡す。
「あそこだ!」
鬼一は、店の隅にある試着室へと向かい、カーテンをめくるが、特になにも見当たらない。
「ただの試着室に見えますが?」
狂四郎は、不思議そうに見ている。
「ここに、隠し通路があるはずだ」
試着室の壁を触りながら、鬼一は扉を探している。
「あった。ここだ」
壁を強く押すと、なんと隠し扉が開いた。
「行くぞ」
鬼一は返事を待たずに、一人で扉の奥に入って行く。
その様子を見ていた狂四郎は、こんな所に敵のアジトが、と驚きながらも
「桜田さんは、危険なので署で待機していて下さい」
と、桜田刑事を退避させる事にした。
「わかったわ、気を付けてね狂四郎君」
桜田刑事を帰すと、狂四郎と岩法師も扉の奥へと向う。
宿舎では、虎之助と小太郎がピザを食べ終わった処であった。
「美味しかったでござるな」
虎之助は、満足そうである。
「やっぱりピザは、宅配に限りまんなぁ。しかし姉さん、俺たち何か忘れている様な気がするんですが?」
小太郎は、なにかが気にかかっていた。
ーーなんやろ、なんか大切なことを忘れていると思うんやがーー
ブラシで寝癖を直しながら、虎之助は
「そんなの、気のせいでござる。小太郎は神経質でござるね」
と、寝癖を直すことに集中しており、適当に返答した。
「あっ!そうや。ピザ屋にピーマン抜いてもらうのを忘れてたんや。嫌いやのに気付かんと食べてもうたわ」
「小太郎はアホでござるね」
虎之助は、ブラシで髪をとかしながら、素っ気なく言った。
小太郎が作った敵エネルギー発見レーダーは、心斎橋の方角を示しているのだが、机の上に放置されたままであり、2人が気付くことは無いのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)