第14話 霊気姉さんが登場でござる
文字数 3,270文字
虎之助と鬼ロボの死闘のあと、火星では鬼が9人も飛ばされて来たので、銅鬼は大喜びであった。
「いやぁ、こんなに鬼が来てくれるとは、助かるなぁ」
「いえ、来たくて来たんじゃ無いんですけどね」
飛ばされた鬼たちは、とまどっている。
「とりあえず、人手が足りなかったんだ。君たちなら立派な戦力になる」
「戦力って、ここでも戦いがあるのですか?」
「俺たち革命軍は、独裁者の『山田タコ14世』と戦っている。君らも手を貸して欲しい」
銅鬼は9人の鬼に、今の火星の状況を説明して『山田タコ14世』が、いかに極悪であるかを話した。
『山田タコ14世』に逆らう者は、タコ焼きにされて、屋台で外国人観光客に割高で売りさばかれるらしい。
「たしかに『山田タコ14世』の民衆に対する仕打ちは酷すぎます。われわれも『山田タコ14世』を倒すため、革命軍に入らせてもらいます。ただ、気になるのは、外国人観光客って、どこから来るのですか?」
「それは、知らん」
銅鬼は知らないようだ。
謎は残ったものの、銅鬼に心強い仲間ができた。
大阪の繁華街である心斎橋に、30代の男が少女と一緒に服を買いに来ていた。というより、買わされていた。
「まだ、買うんですか?」
黒瀬は、服の入った大きな紙袋を持たされている。
「お前の仲間に服を取られたので、お前が拙者の服を買うのは当たり前でござる」
「取られたんじゃなくて、代わり身の術で、使っちゃったんでしょう」
「同じことでござる。服を買い終わったら、イタリアンレストランでチョリソーとカルボナーラとピザを奢るでござる」
「また、ですか?」
「命が惜しければ、奢るでござる」
ーーコイツと一緒に居ると、まわりから変な目で見られるから嫌なんだよなぁ。可愛い女の子を連れて歩くのは気分が良いが、10代となると話は別だ。社内では完全に援交してると思われてるし。かといって、実際に変なことしたら瞬殺されるだろうしなーー
黒瀬の悩みは尽きないのである。
オフィス街の高層ビル最上階では『大阪鬼連合団体』の定例カンファレンスが行われていた。
「えー、今日は皆さんに悲しい、お知らせがあります」
議長の鬼塚から報告があるようだ。
「ついに、あの小娘を殺りましたか?」
若い参加者が聞いた。
「ちがいます」
鬼塚は、意外と冷静に答える。
「娘さんが受験に失敗しましたか?」
中年のメンバーが聞いた。
「ちがいます」
「ついに、議長の離婚が決まりましたか?」
「ちがいます」
「議長のイボ痔が完治しましたか?」
「ちがいます」
「議長の金玉が爆発したとか?」
「するか、ボケっ!」
ついに鬼塚がキレた。
「お前ら、適当なことばっかし言いやがって。金玉が爆発してたら、今頃は泣きながら入院しとるわ!鬼ロボがDSPの小娘に殺られたんや!」
「まさか、あの鬼ロボが?」
大半のカンファレンス参加者は、鬼ロボが小娘に殺られたことが信じられない。
「そうや。あの鬼ロボが、小娘に簡単に殺られてもうたんや」
「それは、ビックリですね」
「俺も連絡を受けた時は、ビックリしてスマホを落としてもうて、画面が割れてもうたわ」
鬼塚も、知った時には、かなり驚いたようだ。
「画面の修理は、意外と高く付きますからねえ」
「そうやねん。もう新しいのに買い換えようかなと思て」
「議長はiPhoneですか?」
「いや、俺はAndroidや。しかも格安SIMやで」
「なぜ、iPhoneにしないのですか?」
「高いからや。なんでか知らんけど、嫁と娘はドコモの最新iPhoneやけどな」
「スマホケースは、付けてなかったんですか?」
「ケース付けたら、せっかくスマホ会社がデザインしたフォルムが見えへんやんけ」
「それは、そうですけど。割れるよりは良いのでは?」
「割れてから、手帳型ケースでも使っとけば良かったって思ったわ」
「ちょっと!スマホの話をしに集まったんじゃないですよ!」
話がそれ過ぎたので、川島が怒り出した。
「あっ、そうやった。今日は、あんまり、お前らが不甲斐ないので、霊鬼姉さんが来てくれるんやった」
「霊鬼さんというと、絶世の美女でありながら、歴代四天王の中で最も暗いと言われている、あの霊鬼さんですか?」
川島が驚いて確認する。
「そうや。男運が悪く、付き合う男がみんな、酒とギャンブルと暴力が大好きという、霊鬼姉さんや」
「それは、もう男運が悪いというより、そういう男が好きなんでしょう」
「そうかも知れんが、とにかく歴代四天王の中でも、最も幸が薄いと言われている、霊鬼姉さんや」
「あまりにも幸が薄すぎて、生きながら霊体となり、数百年間あの世とこの世を行き来していると言われている、霊鬼さんが今日、来るのですか?」
「もう来てるわよ」
「うわっ!ビックリした!」
鬼塚と川島が驚いて、転けそうになった。
「アンタら!なにウチのこと、好き勝手に言ってくれてるのよ!」
いつの間にまか、鬼塚の隣に美女が座っている。
「姉さん、どこから入って来たんでっか?ドアが開く音は、聞こえませんでしたけど」
「最初から居たわよ!」
「すいません、気が付きませんでした」
川島が謝った。
「姉さんは、半分霊体やから、しっかり実体化してもらわんと、見えへんのや」
「気を抜いたら、すぐ霊体化するから、仕方ないのよ。それより、アンタたち。よくも、暗いやら男運が無いとか幸が薄いとか、いろいろ言ってくれたわね!」
「すんまへん。まさか居るとは思わなかったんで」
鬼塚も謝った。
「まあ、ええわ。ほんで、なんやアンタらDSPの小娘に、ええようにヤラれてんのやって?四天王が2人もそろって、だらしないわね」
「2人って、俺が茨木堂子で、他は誰や?」
鬼塚は、辺りを見渡した。
「私ですよ!私が熊堂子です」
川島が怒りながら言った。
「君、熊堂子やったんか、いつからや?」
「なに言ってるんです!産まれた時から。というか、家系がそうなんです。議長も知ってるハズですよ」
「そうなんか、そういえば、そんな話を聞いた事があるような、無いような」
「鬼塚、お前アホやろ?」
霊鬼は、あきれている。
「いや、俺がアホかどうかは置いといて。とにかく、その小娘が強くて困ってますんや」
「議長が、アホかどうかは置いとくんですか?」
「そうや。そんなん、どうでも、ええやん。それより姉さんは、霊体になれるから、通常攻撃は効かないですよね?」
「効かないわよ」
「ちょっと行って、やっつけてもらえません?」
「面倒くさいわね。彼氏がパチンコから帰って来る前に、夕食の用意をしとかないと機嫌が悪くなるのよ。私もスーパーのレジ打ちのパートがあるし」
「姉さんがパートしてはるのに、彼氏は平日の昼間からパチンコでっか?」
「そうよ。土日は競馬か競艇だから」
「いったい霊鬼さんは、その彼氏さんの、どこが好きなんですか?」
川島は疑問に思った。
「たまに優しいトコかなぁ。それに、あの人には私が居ないとダメなのよ」
ーーこっ、これは典型的な、幸薄い女性のセリフだーー
「そっ、そうでございましたか」
川島は、霊鬼の恋愛には、立ち入らない事にした。
「じゃ、暇な時に気が向いたら殺っといたるから、その娘の写真か何か無いの?」
「写真なら有りますよ」
川島は、霊鬼に、虎之助の写真を渡す。
「なかなか可愛い娘ね。わかったわ、任せといて」
「よろしく、お願いします」
『大阪鬼連合団体』のカンファレンスは、霊鬼の登場で実のある会議となった。
数日後、狂四郎の退院の日がやって来た。
「やっと退院か。しかし、あの小娘、馬鹿力で殴りやがって、一時は死ぬかと思ったぜ」
警察病院の玄関まで行くと、虎之助と小太郎が迎えに来ていた。
自分のせいで俺が入院したから、悪いと思って謝罪しに来たのだろう。と、狂四郎は思い
「退院できたけど、まだ少し頭が痛むんだ」
と、体調不良を、アピールしてみた。
「ふざけたこと言ってないで、焼肉の続きを奢るでござる!」
「まだ食ってる途中で入院しやがって、このヘタレが!」
2人に罵られながら、狂四郎は退院そうそう焼肉屋に連れて行かれ、奢らされるのであった。
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