第65話 ラスプーチンが登場でござる
文字数 2,536文字
アポロンとペガサス、アンドロポプの3人はレムリアの屋敷で、それらしい装置を見つけたのであるが、操作方法がわからずに思案していた。
「この装置さえ動かせれば、ゼウス様を救出できると思うんだが」
アポロンは、ずっと装置を見つめている。
「複雑すぎて、僕らには全く分かりませんね」
ペガサスも、お手上げ状態である。
「うーん」
一人、唸っていたアンドロポプが意を決して
「こうなったら、あの人を呼ぶか」
と、つぶやいた。
「あの人って誰です?」
ペガサスがアンドロポプの顔を見る。
アンドロポプは、しぶい顔をしながら
「ロシア支部の、悪魔司令官ラスプーチンだ」
と答えた。
「ええっ。さっき言ってた極悪非道の人ですか?」
ペガサスは驚いた。
「そうだ。彼なら、どんなマシンでも動かすことが出来る、そういう特殊能力を持っているんだ」
「すぐにそいつを呼べ」
隣で会話を聞いていたアポロンが、怒鳴るように言った。
「でも、アポロンさん。ラスプーチンは、とんでもない人ですよ」
反対するペガサス。
「そんな奴でも呼ばないと、ゼウス様たちが帰って来れないんだぞ。アンドロポプ、早くそいつを呼んでくれ」
アポロンにせかされて、しぶしぶアンドロポプは
「あまり、気が進まないが、仕方ないな」
と、ズボンのポケットから、小さな笛を取り出して吹き出した。
ピーヒャラ、ピーヒャラ
変なリズムの笛の音が、部屋中に響く。
すると、北西より猛スピードで髭面のオッサンが飛んで来た。
「誰だ、俺様を呼んだのは?」
髭面のオッサンは、不機嫌そうに辺りを見回す。
「俺ですよ、ラスプーチン司令官」
「おお、アンドロポプじゃねえか。俺に何の用だ?」
なぜかキレ気味に聞くラスプーチン。
「来てもらってすまないな。俺が呼んでもらったんだ」
アポロンがラスプーチンの前に来て言った。
「お前は、たしかギリシャ本部のアポロンだな」
「そうだ。アンタに頼みたい事がある」
「俺に頼み事があるなら、生贄は用意してあるんだろうな?」
「生贄って?」
「俺は、誰かを惨殺しないと、働かない主義だ。それが俺のスタイル」
と言いながら、ラスプーチンはペガサスの前に行き
「こいつで良いぞ」
と、ペガサスの首を掴んだ。
「ゼウス様を救出する為だ、生贄なら後で鬼を何人でも殺させてやるから」
アポロンは、ラスプーチンの腕を掴んで止める。
「ゼウスだと?」
「そうだ。ガニメデに飛ばされてしまったゼウス様を、呼び戻す装置がここにある。アンタに操作してもらいたい」
アポロンが装置の説明をする。
「ゼウスがガニメデにいるのか?」
「そうだ。だから、この装置で呼び戻して欲しい」
「ゼウスかぁ」
ラスプーチンは、悩み出した。
「なにを悩んでいるんです。我ら国際電器保安協会の三神の一人である、ゼウスを救出するんですよ」
アンドロポプは疑問に思った。
「やっぱり、生贄が無いと気が乗らないなぁ。アンドロポプ、お前が生贄になれ、俺は血を見ないと何にもやる気が起きないんだ」
と、言いながら、ラスプーチンは、アンドロポプの首を締め出した。
「クッ苦しい、司令官やめて下さい」
アンドロポプが苦しみ出した。
「死ねや、アンドロポプ」
やめてと言われると、よけい力を入れて首を締め出すラスプーチン。
「やめんか、このアホウが!」
バキッ!ボキッ!ドカッ!
アポロンが、おもいっきりラスプーチンの頭部を殴った。
「くふぅ」
ラスプーチンは、よろめいてから、パタッと倒れた。
「あわわ、ラスプーチンさん」
ペガサスがラスプーチンに駆け寄るが、すでに息絶えてしまっている。
「しまった、やり過ぎた」
アポロンは反省したが、もはや時すでに遅しであった。
「俺のミスで、ゼウス様を救出できなくなった」
勢いでラスプーチンを殴り殺してしまったアポロンは、激しく後悔していた。
「おい、アポロン。落ち込まなくても良いぞ」
「どうしてだアンドロポプ。ラスプーチンが居ないと装置が動かせないんだぞ」
「大丈夫だ。俺は、この男を蘇えらせる事が出来る」
「なんだと!」
アンドロポプの台詞に、アポロンは驚いた。
「ラスプーチンの体に、潰したトマトを塗りたくってから、祈れば蘇るはずだ」
「そんなんで生き返るの?」
「そうだ。ペガサス、悪いがトマトを買って来てくれないか、無ければケチャップでも良いから」
アンドロポプは、ペガサスに買い物を頼んだ。
「ケチャップでも生き返るのか?」
「生き返るよ、頑張れば醤油でも復活できる。時間があれば、塩水に浸して3日間、太陽の当たる所で乾かせば完全復活するんだが、今は、そんな猶予は無いからな」
「さすがはラスプーチン、もの凄い生命力だ。ロシア帝国時代から、生き続けているという噂は本当だったんだな」
アポロンは変な所に感心している。
しばらくすると、買い物からペガサスが帰って来た。
「トマトを買いに行く途中に、この電気屋の人が、なんでも操作が出来るって言うんで連れて来ました」
ペガサスは、青いハッピを着た電気屋のオヤジを連れて来ている。
「おい、勝手に、知らない人を連れて来るなよ」
アポロンは嫌そうな顔をしながらペガサスに注意するが
「この程度の装置なら、簡単に操作できますよ」
と、オヤジが言うので、とりあえず操作を任せる事にした。
オヤジは、手際よく装置を操作し始めている。
「装置は、電気屋のオヤジに任せるとして、ラスプーチン司令官はどうする?」
アンドロポプがアポロンに尋ねた。
「もう、コイツは、生き返らさなくて良いんじゃないか。すぐ生贄とか言うし、なんか変な臭いがするし」
アポロンは、ラスプーチンの事を、ウザがっている。
アンドロポプとアポロンは、死んだままのラスプーチンを放置する方向性で話を進めていた。
その間も、電気屋のオヤジは装置をさわっており、ときどき、持参していたペットボトルの緑茶を飲んでいる。
「やっぱり、妻が入れてくれたお茶は美味いわ。あれっ、でも、よく味わったら塩水じゃねえか。いや違う、これはキムチ鍋の出汁だ、スゲー辛い、不味い辛い、何これムッチャ辛い」
そんな、電気屋のオッサンの様子を見ていたペガサスは
ーーこのオッサン大丈夫か?連れて来たのは失敗だったかもーー
と、悔やみ出すのであった。
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