第98話 舞妓さんロシアに現れる
文字数 2,260文字
ロシアの食堂でラスプーチンが、虎之助に怪物の話を説明していた。
「という訳で、ロシアの歴史上でも最強の暗黒神であるチェルノボーグが復活してしまったんだ」
「へえー、モグモグ」
ピロシキを食べながら、気のない返事をする虎之助。
「それは大変ね、何とかしなくちゃ」
なぜかロシアン美女は、熱心に聞いてくれている。
「おい、お嬢ちゃんも真剣に聞いてくれよ」
「聞いてるでござる、モグモグ」
と言いながら、虎之助は一生懸命にピロシキを食べている。
「本当かなぁ」
「本当でござる。そのチェルシーを、拙者に退治して欲しいって事でござるな、モグモグ」
「チェルノボーグだよ。破壊と死を、もたらすと言われている恐ろしい暗黒神だ」
「なるほど。では、話は聞いたので、拙者は大阪に帰るでござる」
虎之助は席を立ち、店を出ようとした。
「ちょっと待って、退治してくれないのかよ」
ラスプーチンは、あわてて虎之助を引きとめる。
「もう帰らないと、みんなが心配するでござる」
虎之助とラスプーチンが話していると、店内に居たイケメンのロシア人が
「君たち大阪から来たみたいだけど、鬼塚って男を知らないかな?」
と、聞いてきた。
「あっ、お前はポリヤコフじゃないか。鬼塚になんの用だ」
ラスプーチンは、この男性のことを知っているみたいである。
「ああ、誰かと思ったらラスプーチンか。ちょっと仕事で鬼塚に用があるんだ、どこに居るのか教えてくれよ」
「知らねえな。たとえ知ってても、お前には絶対に教えてやらないけど」
ポリヤコフのことを、ラスプーチンは嫌っているようだ
「じゃ、そこのお嬢ちゃんは知らないかな?」
ポリヤコフは、ラスプーチンから聞き出すことは諦めて、虎之助に聞いてきた。
「パルナスのケーキを買ってくれたら教えるでござる」
「パルナスって、ロシアじゃ売ってないんだ。たしか以前に大阪にあった洋菓子の会社だと思うぞ」
「買ってくれないなら、教えないでござる。パルナスはモスクワの味でござる」
虎之助は、きっぱりと断った。
「懐かしいけど、無理なことを言いやがって。ならば力ずくで聞くしか無いな」
ポリヤコフは、妖気を全身にまとい始めた。
妖気の質と量からして、かなりの強者だとわかる。
「気をつけろ、お嬢ちゃん。そいつは闇ガードとして、ロシアでは名のしれた魔界人だ」
ポリヤコフの事を知っているラスプーチンは、虎之助に忠告する。
「拙者に闇の力で挑んで来るとは、おろかな男でござる。本当の闇の力を見せてやるでござる」
虎之助は呪文を唱えだした。
すると、虎之助の服が変化して、京都の舞妓さんのような和服へと変わって行く。
「まめヤッコどす。よろしゅう、おたのもうします」
虎之助は、舞妓戦士まめヤッコに変身した。
まめヤッコは正座をすると、礼儀正しくお辞儀をする。
ーーこれの、どこが本当の闇の力なんだよ!ーー
と、ラスプーチンは思ったが
「オー、ジャパニーズ、ゲイシャ。とてもプリティで〜す」
ポリヤコフは無邪気に、手をたたいて喜んでいる。
「スキあり!」
まめヤッコは、髪から一本のかんざしを抜くと、ポリヤコフの心臓に突刺そうとした。
ガシッ
しかし、ポリヤコフに気づかれ、腕をつかまれてしまった。
「こざかしい真似を、この俺にスキなんか有るわけ無いだろ。これでもロシアで一番の闇ガードだ」
まめヤッコの攻撃を防いだポリヤコフは、得意げに言った。
「スキは、あるどすえ」
つかまれてもかまわず、まめヤッコは、そのまま力ずくで、かんざしをポリヤコフの心臓に突刺そうとする。
「うおっ、この娘すごい力だ!」
まめヤッコの右手に握られた、かんざしを、ポリヤコフは両手で抑えるが、力負けしている。
「拙者の右手は、1000万パワーどすえ」
ーーなっ、なんて恐ろしい舞妓さんだーー
2人の戦いを見ているラスプーチンの額から、冷たい汗が流れた。
「パワーの単位が良くわからんが、とにかく凄い力だ」
両手を使っているポリヤコフの方が、圧倒的に押されいる。
ズブッ!
「げふっ」
ついに、かんざしが、ポリヤコフの心臓を貫いた。
「拙者にスキを見せたのが、あんたはんの敗因どす」
ズボッ
まめヤッコはポリヤコフの胸から、かんざしを抜く。
「いや、スキとか関係なく、君の攻撃は力ずくじゃないか、ゴフッ」
バタッ!
ポリヤコフは、胸から大量の血を吹き出しながら倒れた。
「とどめを刺すどすえ」
着物の袖から短刀を取り出して、まめヤッコはポリヤコフの首を切り落とそうとしている。
「待て、ちょっと待ってくれ!」
ポリヤコフは、血を吐きながらも手を前に出して、まめヤッコを止めた。
「なんどすか、命ごいは聞かないどすえ」
「俺は敵じゃない、どちらかと言うと味方だ」
聞かないと言われたが、死にたくないので、とりあえず命ごいをするポリヤコフ。
「そないな事は、どっちでも良いどす。あんたはんは、今から死ぬんどすえ」
まめヤッコは手を止めない。
「うわっ、この娘、本当に命ごいを聞かねえ。助けてくれラスプーチン、俺は本当に味方なんだ」
「往生際が悪いどすな。もう、観念するどすえ」
まめヤッコは全く聞き入れない。
「鬼塚がチェルノボーグと対決するんで、俺はガードに雇われただけなんだ」
必死に訴えるポリヤコフ。
2人の様子を、黙って眺めていたラスプーチンは
ーーポリヤコフは、いけ好かないヤツだが、チェルノボーグを相手にするには味方は多い方が良いかもしれないーー
「悪いが舞妓さん、そいつを殺すのは待ってくれないか」
と、まめヤッコを止めに入るのであった。
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