第60話 アキレスとタコ焼き
文字数 2,234文字
「あ~良く寝たッス」
武蔵は目を覚ました。
今まで、虎之助に睡眠薬入りの饅頭を食べらされて、アメリカ村の公園で爆睡していたのである。
「寝すぎや、武蔵」
目の前に、小太郎が立っている。
「あれっ、お嬢ちゃんは?」
虎之助が見当たらない。
「姉さんは、もう帰ったで」
「残念〜っス、試合がしたかったのに」
残念がる武蔵に、小太郎が
「試合って。お前は、姉さんに瞬殺されたやないか」
と、冷たく言い放った。
「この僕が瞬殺って、そんなバカなぁ〜」
「バカは、お前や。明日また連れて来たるさかいに、ごちゃごちゃ言ってないで、今日はもう帰るで」
翌日
アメリカ村の公園でアポロンたちが、ゼウス救出の相談をしていると、ボロボロの男が近づいて来た。
「よお、アポロンとペガサスじゃないか」
男は、気安く2人に声をかけて来る。
「誰だ、こいつ。知り合いか?」
一緒にいたアンドロポプが2人に聞いた。
「ボロくなってるけど、ギリシア本部のエージェントですよ」
ペガサスは当然ながら知っている。ボロ男はアキレスであった。
「久しぶりだな、2人とも」
「アキレス、どうしたんだ、そんなにボロくなって?」
アポロンが心配して尋ねた。
ボロボロの服を着たアキレスは、身体もひどく汚れている。
「大阪府警から、脱走して来たんだ」
虎之助に敗れた後、大阪府警に引き渡されて、アキレスは勾留されていたのである。
「脱走犯か」
アンドロポプが、嫌そうな顔をした。
「そんな風に言うなよ。お前とは一度、会ってるだろ」
少し間をおいて
「あーっ、思い出した。お前は、あの小娘と一緒に火星に連れて行かれた奴だ」
と、アンドロポプも思い出した。
「思い出すのが遅いな。火星で、あの小娘に倒されて気を失っている間に、拘置所にブチ込まれたんだ」
「火星から、どうやって大阪まで帰って来たんだ?」
アポロンが尋ねた。
「なぜか、関空から直行便が出てるらしい」
「嘘だろ」
アンドロポプは信用していない。
「本当だ。確かに嘘のような話だが事実だ。それより腹が減った、なにか食い物ないか?」
「あそこに、タコ焼きの屋台ならあるけど」
「ホントだ。悪いが誰か千円貸してくれ、脱走して来たから、一銭も持って無いんだ」
「俺が貸してやるよ、ついでに服も買って来い。そのカッコじゃ目立ち過ぎる、すぐに警察に見つかるぞ」
そう言いながらアポロンは、一万円札をアキレスに手渡す。
「助かった、いずれ返すから」
嬉しそうにアキレスは走って行った。
アキレスが買い物に行っている間も、アポロンは思案している。
ーー関空から火星への直行便か、少しでもガニメデに近づけるな。ゼウス様を救出する可能性も高くなるはずだーー
「よし。みんなんなで火星に行こう」
と、アポロンはひらめいた。
「えっ、俺も?」
アンドロポプは驚いて聞いた。
「もちろん、全員でだ」
「じゃ、僕もですか?」
ペガサスも聞いて来た。
「全員って言ってるだろ!」
ちょっとアポロンが、キレかけた。
「じゃ、俺は行けたら行くから、先に行っといて」
アンドロポプは、あきらかに逃げようとしている。
「行けたら行くって奴は、絶対に来ないんだよ!」
アポロンがキレた。
「僕は、お母さんと散髪に行く約束をしているので、行けません」
ペガサスは用事があるようだ。
「てめえは、マザコンか!散髪なら一人で行って来い、母親に付いて来てもらうんじゃねえ!」
アポロンが2人にキレれていると、アキレスが戻って来た。
「やあ、ありがとうアポロン。おかげで良い服が買えたよ」
意外とオシャレなTシャツと短パンを着ており、タコ焼きを食べながら、ニコニコと笑顔で歩いて来る。
「ちょうど良い所に帰って来たな。今から、みんなで火星に行くぞ」
アポロンはアキレスにも伝えた。
「絶対に嫌だ」
アキレスだけは、男らしくキッパリと断った。
「なんで嫌なんだ?」
「火星には、恐ろしい太陽系暗黒大魔王が居るんだ。行けば皆んな殺されるぞ」
「誰それ?」
「俺と小娘を、火星に無理やり連れて行った変なオヤジだ。太陽神アトムと張り合ってる、異常に強い化物だ」
怯えながら、アキレスが説明する。
「ゼウス様を救出しに行くんだ、そんな奴と戦う必要は無いから大丈夫」
「甘いぞ、見つかったら殺される」
ひどく怯えているアキレスを見て、アポロンは改めて考えてみた。火星に行ったからといって、ゼウス様を助けられるとは限らない。
それに、太陽系暗黒大魔王とやらが居るとなると、火星に行くのは危険かもしれない。
どうしたもんかな。
「その、タコ焼き、欲しいでござる」
「あっ、お前は、俺を大阪府警に引き渡した小娘」
いつの間にか虎之助が来ていて、アキレスのタコ焼きを、奪おうとしている。
「やめろよ。俺は、この3日間なにも食べて無いんだ」
せっかく、ありついた食料を取られそうになり、必死に拒むアキレス。
「拙者は、そのタコ焼きが食べたいでござる」
しつこく、タコ焼きを奪い取ろうとする虎之助。
「後で、高級なイタリア料理を奢ってやるから、そのタコ焼きはアキレスに食わせてやれよ」
アポロンが、虎之助をなだめるが。
「高級イタリア料理より、拙者は、今すぐ、このタコ焼きが食べたいでござる」
ダダをこねまくる虎之助を見て。
ーーそういえば、この娘。タコ焼きを太陽系暗黒大魔王に譲らなかったせいで、火星に連れて行かれたんだった。イタリア料理よりタコ焼きを選ぶとは、やっぱり阿呆なのかもしれないーー
と、改めて思うアキレスであった。
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