第20話 国際電器保安協会の逆襲でござる
文字数 4,013文字
外車修理専門店『ワールドモータース』の店内では、エージュントホルスと初老の男が密談をしていた。
「どうだった氾会?」
初老の男は氾会という名らしい。
「大阪府警でDSP[デビルスペシャルポリス]の情報を見て来たのだが、あの安倍という男、俺のステルス機能が通用しなかった、ただ者ではないな。非常用ステルス機能を使って逃げて来たんだが、非常用は一分しか持たないからバージョンアップが必要だ」
「俺なんか、狂四郎という若造に心臓を、えぐり出されたぞ」
「そいつも要注意だな。そういえば、インドのエージュントは2人とも、虎之助というDSPの小娘に殺されたらしい」
「我われは、少しDSPを舐めていたようだ。氾会、俺もバージョンアップをしてくれないか」
「わかっている。もともと俺は強化手術が専門の技術職だからな。戦闘は、お前たちエージュントに任せるよ」
氾会がスマホをディスプレイに繋ぐと、安倍顧問の端末から撮影した映像が映し出された。
「コイツが、安倍といって大阪府警でのDSPの責任者だ」
「アンタが大阪府警で会った、陰陽師の安倍一族の奴だな」
「次は左近だ、一応、大阪DSPのリーダーだ。武士で実力は不明」
「リーダーだから、やっぱり一番強いんだろうな」
「その次が岩法師。元々は僧侶らしく法力を使う」
「陰陽師と法力は、どこが違うんだ?」
「俺にも良くわからんが、法力の方が攻撃力は劣るが、防御の術は多いな」
「僧侶が使うから、そうなるのかもな」
「こいつが小太郎、武士だ。まだ若造で、たいした事はない」
エージュントホルスは真剣に聞いている。
「これが虎之助。インドのエージュント2人を殺った娘だから要注意人物だ。元は忍者らしい」
「アイツら、こんな小娘に殺られたのか?」
「転生者を外見で判断すると痛い目にあうぞ。最後がお前とやり合った狂四郎だ。武士らしいが仙道を使う」
「仙道には、してやられた。元々は、お前の国の仙人の術か?」
「おそらく、法力も仙道も中国が源流だ。それよりバビエルが来れなくなり、インドの2人も殺られてしまったので、本部にエージュントの補充を依頼しているところだ。それまでは、お前の強化に専念するから、無駄な行動は控えろよ」
「わかってるよ」
「わかってるでござる」
「あれっ?返事が一人、多いな」
「誰かが侵入したのでござるな」
「誰だ?」
「誰でござる?」
「いや、お前だろ!」
「拙者でござるか?」
「あっ!お前は、さっきディスプレイで見たDSPの小娘!」
と、叫んだ瞬間エージュントホルスの首が落ちた。
「次は、お前でござる」
虎之助は、刀を氾会に向けた。
「どうして、ここがわかった?」
「姿を消しても式神のチワワが、ずっとお前の臭いを追っていたのでござる」
「クソっ!」
氾会は、急いで非常用ステルス機能を使って姿を消す。
「拙者に、そんな小細工は通用しないでござる」
微かな音と気配を察知して、虎之助は氾会を縦に真っ二つに斬った。
氾会は声を出す間もなく、左右に別れてパタリと倒れる。
2人を始末し終えて虎之助が表に出ると、店の前で式神のチワワが待っていた。
「首尾はどうだったワン」
「2人とも殺ったでござる」
『国際電器保安協会』に恨みを持つ虎之助は、安倍顧問の式神であるチワワを借りていたのである。
「お礼に骨付きカルビを、あげるでござる」
「うれしいんだワン」
チワワは尻尾を振って喜んだ。
「できました、岩法師先生」
「カエルの式神か、虫から両生類に進化したな。この調子で哺乳類が出せるように頑張ろう」
大阪城公園で、小太郎は岩法師から式神の出し方を教わっていた。
「よっしゃ、哺乳類が出るまで、がんばるでぇ!」
小太郎は、張り切っている。
そんな2人を、少し離れた所から見ている人影があった。
アンドロイド鬼のチャッピーである。
チャッピーが、こちらに向かって歩いて来た。
「小太郎、後ろから来る男に気を付けろ」
岩法師に、そう言われ小太郎はチラッと振り向いてみる。
「普通の人に見えますが、あの人がなにか?」
「奴からは生気を感じない、鬼が送り込んで来たロボットかも知れぬ」
チャッピーが、ゆっくりと近づいて来る。
小太郎は刀に手をかけた。
チャッピーが、いきなり猛スピードで走り出した。
あと、1メートルという地点で小太郎が刀を抜く。
ズバッ!
「小太郎流抜刀術や」
と、言い放った小太郎の刀が粉ごなに砕け散る。
「あれっ、おかしいな?」
不思議がっている小太郎をよそに、チャッピーは岩法師に向かって来た。
ガシッ!
金属同士がぶつかる音がする。
チャッピーの拳を岩法師が鉈で受け止めたのだ。
「なに者だ!」
岩法師が怒鳴った。
「僕、チャッピー。お前らみんな殺す」
ガキンッ!
背後から小太郎が短刀でチャッピーの脇を刺すが、短刀も折れてしまった。
「こいつ、刃物が通じへん。やはりロボットや」
「やむを得ん」
岩法師が、お経を唱えると、辺りに霧がかかり岩法師と小太郎の姿が隠れていった。
「どこだ?」
まわりを見回すが、2人の姿は見えない。
「これは、あの坊主の法力というやつか」
しばらくすると霧が晴れ、通常の景色に戻って来た。
「逃げられたようだ」
チャッピーは追跡を諦めて歩き出した。
「危なかったな小太郎」
「岩法師先生、さっきの技は?」
「霧箱という術だ。相手を霧の中に閉じ込めるのだが、コチラからも攻撃が出来ないのが欠点だ」
宿舎に戻った2人が、安倍顧問に電話でチャッピーの件を報告していると
「どうかしたのでござるか?」
虎之助が、豚の生姜焼き定食を食べながら聞いて来た。
「鬼のロボットに襲われて、逃げて来たんです」
「また、ロボットでござるか」
「狂四郎は、どこにいる?」
岩法師が、たずねる。
「大阪城公園で仙道の特訓をするって言って、出かけたでござる」
「あそこはヤバいで!さっきの鬼ロボットが、まだ居るかも知れまへん」
「スマホで連絡してみるでござる」
虎之助が電話をかけるが、狂四郎は出ない。
「仕方ない、拙者がタヌキと一緒に見て来るでござる」
「姉さん一人じゃ危ないから、俺も行きますよ」
「大丈夫でござるよ。拙者の強さは、M1A2エイブラムス戦車108台分でござる」
「ええっ!米軍の戦車108台分でっか、さすが姉さんでんなぁ」
「2人ともアホなこと言ってないで、全員で行くぞ」
岩法師に促され、結局、3人で狂四郎を迎えに行くことになった。
その頃、狂四郎は大阪城公園に行くと言いながら、実は桜田刑事と心斎橋のフレンチレストランで食事をしていた。
「すいません、こんな高い食事を奢ってもらって」
「いいのよ、狂四郎君には助けてもらったから、そのお礼よ」
「桜田刑事を助けるのは当然ですよ。DSPの仲間で、いつも親切にしてもらってるし。それに‥‥」
「それに、なに?」
「それに、桜田刑事は僕にとって大切な女だから」
そう言い終わった時には、2人の顔は真っ赤になっていた。
狂四郎のバックパックの中から、スマホの着信音が鳴っているが、2人の耳には届いていない。
仲間の心配をよそに、2人の仲は急接近して行くのである。
大阪城公園では『国際電器保安協会』からの助っ人である、ライアンとマーゴットがタコ焼きを食べながら大阪観光をしていた。
「ホルスと氾会のやつ、俺たちを呼んでおいて連絡を絶つとは、ふざけてるな」
ライアンは怒っている様だ。
「もしかして、敵に殺られたんじゃないかしら」
「ホルスはともかく、切れ者の氾会が鬼や転生者に殺られることは無いと思うけどなぁ」
「氾会って本当に切れ者なの?アンタの見積もりは甘いから」
「俺は、人を見る目だけは自信があるんだ。だいたい第一印象で相手の器量がわかる」
「じゃ、さっきから、この辺をうろついている、あの男が何者か分かるの?」
先程から、チャッピーが公園内をうろついている。
「アイツは、人間では無いな。たぶんアンドロイドだ」
「なに適当なこと言ってんの。じゃ、あの女の子は?」
マーゴットは、大阪城公園に到着したばかりの虎之助を指さした。
「あの女の子の戦闘力は恐ろしく高いぞ。米軍のM1A2エイブラムス戦車108台分ぐらいある」
「そんなに強いの!もしかして、あの娘が転生者じゃない?」
「きっとそうだ。しかし敵ながら恐ろしい女の子だ。だが、俺も空母エンタープライズ3隻分の戦闘力を持つと言われた男だ、戦車ごときに負けはせん。あの女の子は俺が殺る」
奇しくも、大阪城公園に、アンドロイド鬼と『国際電器保安協会』のエージュントと、転送者の3組が鉢合わせてしまった。
火星では、『太陽系暗黒大魔王』が寝ている壺を刺激しないため、宮殿には誰も入れないように警備をつける事にした。
「これで500年は安心ですぅ」
パクチーは、ニコニコしている。
「そうですか、それなら良いんでチュが」
タコ太郎は、まだ『太陽系暗黒大魔王』の復活を恐れている。
念願であった打倒『山田タコ14世』を果たし終えた銅鬼は、不意に故郷である地球に帰りたくなって
「あの、パクチーさん。つかぬことを、お聞きしますが、アナタの魔力で私を地球まで送ることは出来ないでしょうか?」
と、たずねてみた。
「そうですねぇ、太陽から膨大なエネルギーが、こちらに向かって出てるので難しいですぅ。逆方向の木星なら行けますよぉ」
「木星ですか……」
ーー木星なら、まだ火星の方がマシだーー
落ち込んでいる銅鬼を見てパクチーは
「お父タマなら、なんとか出来るかも知れないですぅ」
と、励ますように提案してくれた。
「いえっ!お父様は起こさなくて結構です」
『太陽系暗黒大魔王』に起きられては、たまったもんじゃない。
「大丈夫だよ、銅鬼には僕たちが居るでチュよ」
様子を見ていた、タコ太郎も励ましてくれた。
ーーそうだ、火星にはタコ太郎や9人の鬼仲間が居る。俺は火星で生きて行こうーー
と、火星で暮らして行くことを決心する銅鬼であった。
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