第42話 火星戦記パート1
文字数 1,946文字
「えい!やー!」
少年になった左近が、宿舎の庭先で一生懸命に竹刀を振っている。
「いいぞ左近、その調子だ」
岩法師が左近の修行を見守っていると、鬼一も庭先にやって来た。
「がんばってるな、左近」
「左近は、もともと練習熱心でしたから。それより、虎之助たちは、まだ戻らんのですか?」
岩法師は、虎之助たちの事を心配している。
「携帯に電話しても圏外に居るようで、電波が繋がらない。まだ冥界かも知れん」
「しかし、冥界なんか行って帰って来れるんですかね」
「普通は無理だ」
「弱りましたね。よし左近、練習は、それぐらいにして飯にしよう」
「僕、ハンバーグが食べたい」
「じゃあ、夕食はハンバーグ定食にしようか」
左近と岩法師が食事の話をしていると
「ただいま」
と、小太郎と狂四郎が帰って来た。
「お前ら、冥界から帰って来れたのか?」
鬼一と岩法師は驚いている。
「冥界からは、なんとか帰って来たのですが……」
狂四郎は言葉を濁す。
「お前たち2人だけか。虎之助は、どうした?」
岩法師は、虎之助のことを心配して尋ねた。
「姉さんは変なオッサンに、火星に連れて行かれてもうた」
小太郎は、半泣きになっている。
「なんだと!」
その頃、火星では
「今日から、君たちには、ここで働いてもらうでヤンス」
タピオカミルクティーの屋台の前で、助清が虎之助とアキレスに、仕事の説明を行っていた。
「この俺様に、くだらん事をさせるんじゃねえ」
アキレスは、怒鳴りながら拒否している。
「お給金は、いくらくれるのでござるか?」
アキレスとは違って、虎之助は給料の額が心配なようである。
「報酬なら、ワスが天王星で拾った、1000カラットのダイヤモンドをあげるでヤンス。日本円にすると100億円はするでヤンス」
「ありがとうでござる」
虎之助は、丁重に助清からダイヤモンドを受け取った。
「君たちには、屋台の他に重大な使命もあるでヤンス」
「どんな使命でござるか?」
「ワスと一緒に、太陽神アトゥムを倒すでヤンス」
「ちょっと待て。太陽神を倒すって、アンタはいったい何者だ?」
屋台の手伝いから、いきなり話のスケールが大きくなったので、アキレスは驚いている。
「世間では、ワスのことを太陽神暗黒大魔王と呼ぶでヤンス。ワスと一緒に闇の軍団を率いてアトゥムを倒すでヤンス」
「それで、お給金は、いくら貰えるのでござるか?」
また、虎之助は給料が気になる様だ。
「君には、さっきダイヤモンドをあげたでヤンス」
「このダイヤは屋台の手伝いの分でござる。太陽神を倒すなら、もっともらうでござる」
「思ったより、しっかりした娘でヤンスね。いくら欲しいのでヤンスか?」
「毎日、一皿ずつ、タコ焼きが食べたいでござる」
「困ったでヤンスな。火星には、タコ焼きが無いでヤンス」
「嘘でござる!そこらじゅうに、タコがたくさん居るでござる」
「いや、彼らは元はタコだが、今は火星人でヤンス。食べたら娘のパクチーに怒られるでヤンス」
「じゃ、毎月、手取りで16万円よこすでござる。ボーナスは年2回、2ヶ月分でござる」
「わかったでヤンス。それぐらいなら大丈夫でヤンスよ」
虎之助の要求は通ったようだ。
「だが、俺は断る」
アキレスは、キッパリと言い切った。
「俺はゼウス様の部下であり、光の戦士だ。闇の軍団などには、決して加わらない」
胸を張りながら断るアキレス。
「生意気、言うなでヤンス!」
バチーン!
いきなり助清にビンタされ、アキレスは吹っ飛んだ。
「グフッ、なんてパワーだ。あらゆる攻撃が効かない俺が、こんなに吹っ飛ばされるとは」
「お主は、我がままでござるな」
さっそくエプロンを着けて、虎之助は屋台の手伝い始めている。
「お前は、元から悪魔側の人間だから大丈夫かも知れないが、俺は光の戦士なんだよ」
「拙者も、光の戦士でござるよ」
「嘘つけ!お前のような光の戦士がいるか」
「グタグタ言ってないで、さっさと働くでヤンス」
「断る!」
アキレスの意志は固い。
ドカッ!
助清のアッパーカットで、アキレスは100メートルほど上空に吹っ飛んだ。
ドタッ!
そして、アキレスは地面に落ちて来た。
「うぐっ。なぜだ?俺にはどんな攻撃も、効かないはずなのに」
血を吐きながら、アキレスは呻いている。
「ワスは太陽神暗黒大魔王でヤンスよ。そんな、ちゃちな防御能力なんぞワスからすれば無いに等しいでヤンス」
「くそっ!このオッサン、見た目と違って、なんて強さだ」
「サボってないで、お前も、しっかり働くでござる」
アキレスは、虎之助にまで注意されてしまった。虎之助は報酬に満足しているようで、真面目に働いている。
その後、何度もアキレスは助清に挑むが、その都度ボコボコにやられて、結局タピオカミルクティーの屋台で働かせられる事となるのであった。
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